奇妙奇天烈摩訶不思議な術式
それから、全員でお屋敷に戻って、二割五分三厘壊した部分を直した。と言っても、直すのはほとんど玉葉様でなんとかして、文車さんと咬神さんと私は、片付けや掃除やご飯のしたくなんかを担当した。
お昼ご飯を食べたあとは客間に集まって、文車さんの家で起きたことについての話になった。
「さてと、みんなが手伝ってくれたおかげで予想より早く片付いたし、化け襷のお説教も聞き流し終わったし、今朝起こったことについて説明しないとかな」
玉葉様が困ったように微笑みながら、首をかしげる。お説教を聞き流すのはあまりよくない気がするけれど、今その話は置いておこう。
「まずは、写しについてだよね。一応聞いてみるけど、明はあれに似たものを見たことがあるかな?」
「いえ、まったく……」
あやかしなら、村にいたころも見かけたことはあった。でも、美代さんは、もっと違う何かな気がする。
「ふふっ、そうだろうね。なんたって、アレを作るのは、相当厄介だからね」
「玉葉様、もったいぶってないで、早く正体を説明してあげてください」
首に濡れ手拭いを巻いた文車さんが、不機嫌そうに声をかけた。
「もう、分かってるよ。文車はせっかちなんだから……、えっとね、写しはその名のとおり、人間の複製品なんだ」
「ふくせいひん?」
「そう。対象となった人間の思い出を引き継いだ、もう一人の人間みたいなものだね」
なんだか、また想像を絶するお話だ……。ただ、人間みたいなものってことは……。
「人間では、ないんですね……?」
「うん。まあ、材料の一部に人間を使うことも、あるみたいだけれどね。大体はあやかしの骸を繋ぎ合わせて器を作って、そこに写し元の血とか、胆汁とかを入れて、思い出やらの情報を引き継がせたものだから」
「そう、なんですね」
「うん。ただし、上手く完成すれば、写し元とまったく同じ情報をもったものができるから、まったく人間じゃない、とは言えないかもしれない」
「えーと……、つまり……、あやかしの亡き骸で作った二人目の自分ができる、みたいなかんじ、なんですか?」
「まあ、そんなかんじ、かな。例えば『自分以外の誰かと暮らしたら死ぬ』的な呪いをかけられた場合でも、写しとならば死ななかったっていう記録を、ずうっと昔に見たことがあるから」
「そうですか……」
「ただ、あくまでも、『あやかしの骸の寄せ集めに、無理やり思い出を押し込んだもの』だからね。材料の思い出やら性格やらがにじみ出てきて、『全く同じ思い出を持った他人』みたいな仕上がりになることが、ほとんどだったそうだよ」
「そう、ですか……」
なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃしてきた。写しがなんなのか、分かったような、わからないような……。
ただ、ひとつ言えることは……。
「今朝の美代さんも、誰かを元にして作られたってこと、なんですよね?」
「そうだね。ただ、この時代に野良の退治人が、材料を腐らせずに器を作るのは難しいからね。成功した、とは言い難いけれど」
たしかに、「腐ってない身体をよこせ」って、言われたなぁ……。
「……烏羽玉の本拠地にも、写しを作ろうと試みたおりの記録がありましたが、ことごとく失敗だったと書かれていました」
咬神さんが、どこか苦々しい表情で、ポツリと呟いた。
「……だろうね。だから君も、変な気は起こさないようにね」
「肝に銘じます」
黒い袴に乗せられた手が、握りしめらる。
……きっと、お母様のことを考えてるんだろう。
「さてと、写しについての説明はこんなところだけど、なにか質問はあるかな?」
「あ、えーと……、すみません、お話を聞き逃さないようにするのがやっとだったので……、質問までは……」
「ふふ、謝らなくても大丈夫だよ、明。まあ、ややこしい話だからね。まあ、世の中には、奇妙奇天烈摩訶不思議な術式があるんだ、くらいに思ってくれれば大丈夫だよ」
「ん……」
苦笑いを浮かべた玉葉様に、ぽふぽふと頭をなでられた。皆さんと一緒にいるなら、いつかは今日みたいなお話にも、ついていけるようになったほうがいいのかな……。
「それで、多分これからする話の方が、本題になるはずだけど……」
金色の目が、咬神さんに向けられる。
「さっきのが、なんの写しか、詳しく説明してくれるかな?」
「……はい」
黒一色の目が、軽く伏せられた。
咬神さんと長谷さんの態度からすると、多分……
「美代殿は、長谷の細君です」
……やっぱり、そうなんだ。
「そんな事だろうと思ったぜ」
「まあ、それ以外は考えられないよね」
文車さんと玉葉様から、深いため息がこぼれる。
「で、あの敵愾心を見るに、死因にあやかしが関わってんだろ?」
「はい。文車様のおっしゃる通りです」
「じゃあ、その辺りの話を詳しく聞かせてもらえるよね?」
「かしこまりました。山本様」
黒一色の目が、どこか遠いところに向けられた。
「ことの発端は、五年前の夏。長谷と美代殿が、祝言をあげた翌日の早朝に起こりました。美代殿が、あやかしの手にかかり、命を落としたのです」
痛々しい表情と声に、客間の空気が張り詰める。予想はしていたけれど、実際に話を聞くとなんだか胸が苦しい。
あやかしだって、玉葉様たちみたいに、優しい方ばかりじゃないんだって分かってはいたはずだったのに……。




