彼(女)の話・後編
「座布団はそこに入ってるから、適当に出して使ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
言われたとおり押入れから座布団を借りて、掛け布団を膝にかけて半身を起こす文車さんの側に座った。
「悪いな、もてなしもできなくて」
「いえ、お見舞いにきたわけですし……、むしろ、お茶の用意をしてきましょうか?」
「いや、大丈夫だよ。さっきも言ったように、今は家ん中迷いやすくなってるから。ありがとうな」
「ん……」
頭をワシワシと撫でながら、化粧をしていない顔が微笑む。改めて間近で見ると、男の人っぽい、顔つきをしてる気もする。
「さて、昔話だったな」
「あ、はい」
……今はお話に集中しよう。
「とりあえず、玉葉様からカミサマの作り方を聞いてるなら、なんでそんなことをする必要があったかは聞いてるんだろ?」
「そう、ですね。めちゃくちゃになってしまった世の中で、人がもう一度栄えられるように、神様を作る必要があったと」
「そうだな。まあ、色々と褒められないようなこともあったみたいだが……、なんだかんだで、ある程度の成果がでると、カミサマたちは一部の人間たちに世界の管理を任せて、高い天へと帰っていったんだ」
「そう、なんですか」
「ああ。まあ、年一回はこっちに降りてきて、寄り合いをしてるんだけどな」
それがこの間、玉葉様と金枝様が揉めてた、親族の集まりなんだろうな……。
「ともかく、そんなこんなで管理を任された人間たちは、世界がめちゃくちゃになる前に残された、神話やら、術やら、歴史やらの情報を集めて記録しなおすことにした」
「しなおす、ということは、記録はすでにあったんですか?」
「その通りだ。まあ、絡繰みたいなものを使って、色々な所に記録してたんだが……、壊れたり、壊れる寸前だったりで、早急に新しい記録先を作る必要があったんだ」
「新しい、記録先……」
「そう。それで、絡繰よりも丈夫で、危険を自ら回避できるようにと色々と考えて……、カミサマの作り方を使って、記憶力に長けた生き物を作って覚えさせればいい、という結論に至った」
「じゃあ、そのあやかしというのが……」
「ああ、私だ」
「なら、文車さんも……、神様、なんですか?」
「いや、人間だと色々と制約があってな。カミサマほどの力……、たとえば、玉葉様なんかは、ほぼ不死身だろ?」
「あ、はい」
この間、首を刎ねられても無事だったし……、あのときは、結果的になんともなくて、本当によかった……。
「私も寿命は同じくらいみたいだが、さすがに、退治用の武器で殺されたら死ぬからな……」
「そう……、なんですね……」
「ははっ、そんな不安そうな顔すんなよ! そこら辺の退治人なんかに、遅れはとらないから!」
「そう、ですよね……」
「そうそう。まあ、少し話がそれたが、そんなこんなで色々な情報を記録するために、私が作られたわけだが……、一つ問題があった」
「問題?」
「ああ。作った奴らとしては、記録媒体は一つあれば充分なんだが……、何せあやかしは生き物だからな、繁殖能力があった。まあ、繁殖能力が無いものを作る方法もあるが、それをするには道具やら何やらが足りなかった。だから、出来上がってから取り払えばいい、ということになったわけだ」
「……」
それは、あまりにも身勝手なんじゃ……。
「……明が憤らなくても、大丈夫だよ」
「でも……」
「ありがとうな。でも、麻酔はされてたし、作られたばかりで意識も曖昧だったしで、そこまでつらかった記憶も残ってなかったから」
「そう、なんですか……」
「ああ」
それなら、少しは救いがある、のかな……。
「むしろ、その後の方が厄介だったな。意識がはっきりしてすぐに、大量の仕事押し付けられるわ、記録装置を使えるやつがどんどん引退して私だけになるわ、部下ができないわ、情報を紙媒体に複写するってなったときの相方の口癖が『……からのぉ?』だったわ、そいつが勝手に色々と脚色をしだすわ、しかも私を玉葉様に預けて先に寿命迎えるわ、玉葉様は玉葉様でやればできるくせに、すぐに自分の仕事をこっちに丸投げしようとするわで……」
「あ、あの……」
……なんだか、壮絶な生い立ちを語ってるときより、怒りをありありと感じるのは、気のせい、かな?
「……っと悪い、つい愚痴になっちまったな」
「い、いえ……」
……気のせいじゃなかったみたいだ。
「まあ、こんな感じだから、一応身体としては男を基礎にして作られたわけだが、性別がどうのってことを意識したことはなかったな」
「そう、でしたか」
「ああ。えーと、だから、その……、明がここに来た初日に入浴を手伝ったときも、何も意識してなかったっていう話を……、信じてくれるか?」
「あ、えーと、はい。むしろ、あのときは、お手数をおかけしてしまって、申し訳なかったと……」
「ははっ、気にすんな。あの状態で一人にさせるわけには、いかなかったからな」
「……ん」
再び、頭をワシワシと撫でられた。
文車さんの生い立ちが、これで分かったけれど……。
「うん? なんか気になってそうな顔してるけど、どうした?」
「あ、えっと……、その、女性の着物を着ているのには、なにかわけがあるんですか?」
「ああ、これか? ただの趣味だ」
「……趣味?」
「そ。なんか、無駄に美形に作られちまったからな、どうせなら手入れして着飾るかってしてるうちに、女物の着物と髪型に行き着いた。まあ、男物で着飾るのにハマってた時期もあるんだが、今は女房装束にハマっててな」
「そう、ですか……」
「ちなみに、明も着飾らせがいがあるから、色々と着物を用意してるぜ」
「そうですか……」
「ああ! ちなみに、この間また明に似合いそうな髪飾りと蘭服を手に入れたから、楽しみにしといてくれ」
「ありがとう、ございます……」
「もちろん、玉葉様には内緒な」
「えっと……」
とりあえず、女性の格好をしてることに深刻な事情がなくてよかったけれど……、なんだかまた、玉葉様とイザコザする火種が出てきてしまった気がするのは……、気のせいということにしておこう。




