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連日の厄介

「すー……、すー……」


 暖かな寝屋の中、化け襷さんの寝息が聞こえる。


 金枝さんはお昼ご飯とおやつを食べた後、満足した顔をして帰っていった。イザコザのあとは、ちょっと不服そうな顔をしてたけど、文車さんが囲碁の相手をしてたら、機嫌をなおしてくれた。


 でも、玉葉様はずっと難しい顔で、書斎にこもって書き物をしてる……、先に寝てるように言われたけれど、何かお夜食を持っていった方がいいかな……。


  ガラガラッ


「ふぁ……、ようやく終わった……ん?」


 障子が開き、疲れた表情の玉葉様がやってきた。


「おや、明、今日もまだ起きてたのかい?」


「すみません、上手く眠れなくて……」


「ふふ、謝らなくても大丈夫だよ」


 温かな手が頭を撫でた。


「お仕事、お疲れ様でした」


「明も、急な来客対応お疲れ様」


「あ、えっと、私はお茶の用意をしたくらいなので……」


「それでも助かったよ。アイツ、いきなり来るくせに、ないがしろにすると、あからさまに拗ねるから」


「気ままな方、なんですね」


「まあね……、ふぁ……。さて、明日も来客があることだし、もう眠ろうか」


「はい、おやすみなさい、玉葉様」


「うん、おやすみ、明。明日の打ち合わせが……、終わったら……、また新しい思い出を……、見せてあげ……、すぅ……」


 言葉の途中で、玉葉様は眠ってしまった。

 

 新しい、思い出、か。

 バタバタしてて、すっかり忘れてたなぁ……。


「すぅ……、すぅ……」


 安らかな寝顔から、静かな寝息が続いてる。


「……」


 しがみついた胸から、落ち着いた心音と、温もりが伝わる。


 もしも、新しい思い出が上手くできなかったったり、知られたくないことを知ってしまったりしたら……、こんなに穏やかな夜は、もう過ごせないのかな……。


「……ふぁ」


 ようやく、眠たくなってきた……。

 私も、もう寝なくちゃ……。


「どうか……、ずっとこのままで……、いられますように……」


「……」


「……」


 わがままなお願いに、答えてくれる声はなかった。



※※※



 化け襷さんや暴れ箒さんに手伝ってもらいながら、今日も何事もなく朝の家事を終えることができた。


 玉葉様のお話だと、もうすぐお客様がやって来るみたいだ。


 何事もなく終わればいいけど、文車さんが退治人の方たちって言ってたよね……。


「明ー、大丈夫ー? またねー、不安そうなねー、顔になってるよー?」


「大丈夫? お腹とか背中とか痛い?」


 化け襷さんと暴れ箒さんが、心配そうに首のあたりをかしげた。


「えっと、すみません。身体は大丈夫なんですが、退治人の方が来るっていうのが、少し不安で……」


「大丈夫! 俺たち負けない! 強いから!」


 負けない、ってことは、やっぱりイザコザするかんじなのかな……。


「こらー、暴れ箒ー、それじゃあねー、余計にねー、不安になるでしょー。大丈夫だよー、今日はねー、お話をねー、するだけだからねー」


「そう、ですか」


 それなら何より、なんだけど……、なんだか、今日は息がしづらい気がする。


 まるで、家にいたときみたいに。



「たのもー」


 不意に、玄関から声が聞こえてきた。


「噂をすればねー、影ってやつだねー。とりあえずねー、迎えにねー、行こうかー」


「あ、はい。分かり、ました」


「いってらっしゃい!」


 楽しげな暴れ箒さんに見守られて、玄関に向かう。


 大丈夫、息がしづらいなんて、ただの気のせいだから。


「お待たせいたしました」


  ガラガラ


 玄関先には、笠をかぶって四角い仮面で顔を隠した、黒装束を着た二人の男の人がいた。


「山本様と、お話をしに伺いました」


 右側に立った人が、深々と頭を下げた。見た目はものものしいけれど、丁寧な人みたいだ。


「はい、ただいま案内いたしますので、こちらに……」


「……おお! お前は!」


 突然、左側の人が大きな声をあげた。


 ……この、声。



「これはまた、一段と美しくなったな!」



 身体中に鳥肌が立っていく。



「いやあ、まさかこんな所で私を待っていたとは、お前もなかなかいじらしいな!」


 

 下腹がズキズキと痛みだす。



「……らー? どう……のー? あき……?」


 

 耳鳴りが煩くて、化け襷さんの声がよく聞こえない。



「……知り合いか?」


「はい。こいつは私の……、まあ、妾のようなものです」



 吐き気と、震えが止まらない。



「おい、何を辛気くさい顔をしているんだ? ああ、そうか。この面が恐ろしいのか。なら」



 仮面の下から、嫌な笑みを浮かべた顔が現れる。



「どうだ、久しぶりに好いた男の顔を見られて、嬉しいだろう?」



 気色悪い。

 気色悪い。

 気色悪い。

 気色悪い。



「こら! 何を黙っている!?」


「おい!? やめろ!」


「止めないでください! 苦労した主人を労えないような女は、躾けてやらないと」


 制止を聞かずに、汚い手がこちらに向かって伸びてくる。

 払い除けたいのに、身体が震えて動かない。



  この私が娶ってやろうと言うんだ。

  大人しく喜んだらどうだ。


 

 息が、上手くできない。


 誰か、助けて……。



「……明、大丈夫だよ」


「え……」


 突然、身体が温かさに包まれ、息が楽になった。


 見上げた先で、玉葉様が優しく笑ってる。


「ふふ。あやかしの長の妻に狼藉を働こうだなんて、烏羽玉はずいぶんと偉くなったんだね?」


「え……、は……? つ、ま……?」


「……だから、止めろと言ったんだ」


 もう片方の退治人の方から、深いため息が聞こえた気がした。

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