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おさまったイザコザと直近の予定

「それで、頭は冷えたか? この、ジジィども」


「……うん」


「……おう」


 腕を組んだ文車さんを前に、ずぶ濡れになった玉葉様と金枝さんが正座をしてる。


「あー、これはねー、ちょっとねー、部屋がねー、ほころびちゃったかなー。暴れ箒ー、直すのをねー、手伝ってくれるー?」


「分かった!」


「ありがとー。じゃあねー、明ー、僕たちはねー、ちょっと向こうでねー、作業してくるねー」


「あ、はい。いってらっしゃい」


 化け襷さんと、暴れ箒さんはニョロニョロバサバサと部屋を出ていった。


「まったく、アンタらはいい歳して、いつもいつも……」


 文車さんは腕を組んだまま、お説教を続けてる。ひとまず、お屋敷がすごくぐんにゃりしなかったのはよかったけれど、後で床を拭いておかないと。


「でもさー、文車だってそこそこいい歳なのに、僕らだけ年寄り扱いするのは、ちょっとどうなの?」


「そーだ、そーだ!」


「……ははっ。ご老体に冷たい水はこたえたでしょうから、煮えた鉛でも降らせてさしあげましょうか?」


「すみませんでした」

「すみませんでした」


 凄みのある笑顔に、謝罪の声がピタリと揃った。多分、おどしだとは思うけれど……。


「あの、文車さん。ケンカもおさまったようですし、あまり手荒なことは……」


「明の言う通りだよ。文車の怒りん坊」


「そうだ、そうだー! オレらのこと年寄り扱いすんなら、もっと優しくしろー!」


「だ・ま・れ」


「はい……」

「はい……」


 文車さんに一喝されて、お二人は姿勢をただした。


「まったく……、ま、明の言う通りケンカがおさまったんだし、これ以上何かするのはやめておきますが……、一体なんで屋敷が潰れそうになるほど、イザコザしてたんですか?」


「そうそう、聞いてくれよ文車。コイツがいい歳して、再来月やる家族の集まりに出たくないって駄々こねやがってよー」


「は? 家族の集まりって、年一で西の国でやってるあれですか?」


「そう、僕にあの集まりへ出ろだなんで、馬鹿げてるよね。だいたい、顔を出すなって言ってきたのは、アイツらのほうじゃないか」


 不服そうな声とともに、玉葉様が顔を逸らした。なんだか、いつもよりも、すごく幼く見えるかも……。


「それに、僕らのことについては、いつも通りまとめて報告してくれればいいだろう? 金枝ならギリギリ顔を出すくらいは、許されてるんだから」


「そうだけどよー。せっかく結婚したんなら、嫌がらせも兼ねて祝儀を巻き上げに行くのも楽しいんじゃねーか?」


「全く、何も、全然楽しくない」


「そうかもしれねーけど、アイツらおめーが結婚したって話聞いてから、色々うだうだとうるせーんだよ。だから、直接面と向かって説明してやるのが、一番だろ?」


「なら、『お前らをどうこうするために結婚したわけじゃない』って伝えておいて」


「そんな一言で、アイツらが納得すると思うか?」


「納得させるのが、お前の役目だろう?」


 二人の話は、まったく交わる気配がない。本来なら、私も一緒にご挨拶に行くべきなんだろうけれど……。


「なあ、姉ちゃんも顔出したほうが、いいと思うよな?」


「いえ、その、玉葉様が行きたくないとおっしゃっていて、ご家族の皆さんも出席してほしくないと言うのならば、無理強いするのは……」


 お互いが顔を見たくないと思ってるのに集まるのは、どちらにとってもいい結果にははらないはずだから。


「ふふ。そうだよね、明」


 玉葉様の顔に、勝ち誇ったような笑顔が浮かんだ。


「えー? 姉ちゃん、コイツのこと、甘やかしすぎじゃねぇか? な、文車?」


「あー……、この件については、私も出席しないほうに賛成です。多分、あの方々が望んでいるのは、諸々の証文とかだけで、玉葉様が顔を出すことではないのでしょう?」


「まあ、それは……」


 文車さんに問い返されて、金枝さんが肩をすくめた。


「説明が面倒ということであれば、私が同行して説明いたしますから」


「うー、でもよ、せっかく玉葉が集まりに顔を出せる機会なのに……」


 えーと……、ご家族との仲を取り持ってくれようとしてた、ということなのかな?


 でも、ご両親とも重めの問題があるってことだし……


「余計なお節介だよ、まったく」


 ……そういう反応に、なる、よね。


「なにがお節介だコラ!? オレはな、おめーがアイツらに認められるようにだな!」


「それがお節介だって言ってるんだ」


「なんだと!?」


「……これ以上イザコザすんなら、マジで鉛降らせるぞコラ」


「すみませんでした」

「すみませんでした」


 文車さんの凄みに、再発しそうになったイザコザはなんとかおさまってくれた。


「まったく……。差し当たって、証文作るのに必要な退治人どもとの打ち合わせが明後日にあるので、玉葉様はすっぽかさないでくださいね」


「はいはい」


「はいは一回でいいんですよ。明、悪いがそのときは、また茶の用意とかお願いできるか?」


「はい、かしこまりました」


 なんだか大事な打ち合わせみたいだから、粗相がないようにしな……


「あ、じゃあ、お茶に山葵でも仕込んでもらおうかな」


「えー? なら、絶対に蓼の方がおもしれーだろ?」


 ……いと、いけないと思ったんだけどな。


「……よし、ジジイども、鉛を浴びる覚悟はできたみたいだな」


「ごめんなさい」

「ごめんなさい」



 ひとまず、今は文車さんを止めることに専念しよう。

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