茶の用意とざっくりとした事情
そんなこんなで、玉葉様様と金枝さんを残してお茶のしたくをすることになった。でも、イザコザが大きくなってないか、少し不安だな。
「明、たしか、来客用の落雁があったよな?」
「あ、はい。戸棚に入ってますよ」
「分かった。じゃあ、持ってくる」
「ありがとうございます。あの、文車さん、金枝さんは瓜のお漬物は食べられますか?」
「大丈夫、大丈夫。あの方は好き嫌いないから」
「それなら、切っておきますね」
「おう、頼むよ。にしても、急にせわしなくなっちまって悪いな。金枝様は毎回、突然やってくるからな……」
文車さんの顔に、少しだけ疲れた表情が浮かぶ。
「しかもねー、毎回ねー、夜なべでねー、囲碁とかねー、双六とかにねー、付き合うことにねー、なるんだよねー。まあ昼間はねー、暴れ箒がねー、遊んであげてるからねー、いいんだけどー」
今度は化け襷さんが、ぐんにゃりしながらため息を吐いた。たしかに、眠らずに遊び続けるのは、大変そうかも。
「明、なんか遊びに誘われたら、やんわり断っておけよ」
「そうだねー。なんだかんだでねー、玉葉様がねー、相手になってあげてるからねー、任せちゃったほうがねー、いいよー」
「えっと、分かりました」
少し申し訳ない気もするけれど、私がお相手をしても、すぐに負けて勝負にならないし。
「まあ、玉葉様に任せたら任せたで、かなりの確率で、大人気ない大げんかになるんだけどな……」
「そうだねー……、いつだったかはねー、危うくねー、うちとねー、金枝様の勢力とでねー、戦になるところだったもんねー……」
「いく、さ……?」
「ああ。金枝様も、ここからだいぶ離れた辺りで、あやかしの長をやってるからな」
「そうだねー、野良の子達以外はねー、大体ねー、玉葉様かねー、金枝様のねー、配下みたいなかんじなんだよー」
「そう、なんですか」
「そうそう。それで、大将棋の勝負でイカサマしたさないでイザコザした挙句、なら実戦で勝負、とか言い出しやがって……。さすがに、二人ともぶん殴って止めたが、肝が冷えたな」
「まあねー、夜なべしててねー、頭が回ってねー、なかったんだと思うけどねー。もう少しねー、立場をねー、考えて欲しかったかなー」
「それは……、お疲れ様でした……」
兄弟げんかで本気の戦になったら、周りの方々は大変だよね……、それにしても。
「明、どうした? ボーっとして」
「さすがにねー、玉葉様にねー、呆れちゃったかなー?」
「あ、いえ。そうではなく、私、玉葉様のこと、何も知らないないんだなと思って……」
金枝様のこともはじめて知ったし、それ以外のことも、私には教えたくないみたいだった。話したくないのなら、それでいいとは思うけれど……。
「あー……、勝手に教えると、お叱りをうけるどころの話じゃないから、あんまり詳しいこと言えないんだが……」
「とりあえずねー、明のことがねー、疎ましいからねー、色んなことをねー、内緒にしてるんじゃないからねー、安心していいよー」
「そう、なんでしょうか?」
「ああ。むしろ、逆だ、逆」
「逆?」
「そうだよー。知られたらねー、明がねー、逃げ出しちゃうかもってねー、心配してるみたいだよー」
「私が、逃げだす?」
逃げ帰る場所なんて、もう……、というよりも、最初からなかったのに。それに、玉葉様から離れるなんて……。
「まあ……、私も化け襷も、そんなのは杞憂だとは思ってるんだが、事情も事情だからな……」
「なんというかねー、ご両親とねー、わりと重めのねー、イザコザがあってねー、変なところでねー、卑屈になってるかんじかなー」
「ご両親との重めの、いざこざ……」
「そう。そのイザコザの内容が、知られたくないことなんだよ」
「この辺のねー、あやかしのねー、中でもねー、知ってるのはねー、僕と文車と暴れ箒のねー、三人くらいなんだー」
「そう、ですか……」
ご両親とのいざこざか……。そういえば前に化け襷さんが、昔の自分と私を重ねてる、なんてことを言ってたかも。
……それなら、思いだしたくもないし、口にだって出したくないか。
「ま、でも金枝様が言ってたとおり、女夫なんだし、いつかバレるんだから、新しい思い出が完成してもしなくても、早めに教えればいいとは思うけどな」
「そうだねー」
「いえ、でも、無理強いは……」
「それに。もしも、明が逃げ出すなら私の家に囲って、いろいろ着せたりしながら楽しい日々を過ごさせてやるのに」
「……ふぇ?」
文車さんから、意外な言葉がこぼれた。
えーと、冗談、だよね?
「はー……、文車はねー、事態をねー、ややこしくねー、しないでほしいかなー」
化け襷さんが、再びぐんにゃりとため息を吐いた。
「いやあ、悪い、悪い。ただ、万が一このことで玉葉様とイザコザしても、逃げ場があるって知ってたほうが、明も気が楽になるかと思ってさ」
「まあねー、玉葉様がねー、乱心しちゃったときのねー、安全網みたいなのはねー、必要かなー。なんならねー、僕もねー、お手伝いをねー、するしねー」
「ありがとう、ございます……、でも、できれば……」
このまま、玉葉様と添い遂げたい、かな、私がそんなことを望むのは、贅沢すぎるのかもしれないけれど……。
「ははっ。まあ、万が一の話だから、そんな深刻な顔すんなよ!」
「そうだよー。玉葉様もねー、なんだかんだでねー、しっかりしてるからねー、そうそう乱心することはねー……」
ミシッ
「ふふっ、いきなり尋ねてきたと思えば、そんなくだらないことを吐かすとは……、一度、痛い目を見ないとわからないようだね!」
「わはは! やれるもんならやってみろ、この分からずや! 返り討ちにしてやるぜ!」
「玉葉様! 金枝! ケンカ駄目! お屋敷がグンニャリしちゃう!」
ミシミシミシミシ
「……ないとねー、思いたかったかなー」
いつになく不穏な音と、張り上げられた玉葉様と金枝さんの声と、暴れ箒さんの焦った声を受けて、またしても化け襷さんがグンニャリしてしまった。
「……明、とりあえず瓜の用意は後にして、洗い桶に水汲んでくれ」
「あ、はい。分かりました、文車さん……」
多分、お二人に浴びせるつもりなんだろう。
申し訳ない気もするけど、お屋敷がグンニャリしてしまうことは、玉葉様も望んでない、はず……、だよね?




