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グレイグvsレイナ

キリが良かったので短めで。

 白犬レイナにとって対人戦は手慣れたものである。軍隊格闘術と武器の扱いを一通り学んでいる彼女がその有り余るスペックをフルに扱えば勝てるものなどおらず、実戦で敗北した記憶は一つたりとも存在しない。



 だからこそこの状況に驚愕していた。



 レイナのナイフが空を切る。完全なタイミングだった。グレイグの手首を切り飛ばすつもりのその紅い閃光は肉を捉えられない。グレイグはナイフが飛び込む瞬間にはもう刃の圏内から離れていて、お返しにブレードを振り回す。



 瞬間ブレードの刀身が20に分裂する。それらは鋼糸で繋がれており勢いよく展開、20メートルに及ぶリーチを発生させ紅葉と裏色愛華ごとレイナを切り刻もうとした。拡散した刀身の一つを的確に蹴り上げることで回避するもののレイナの顔色は晴れない。背後で切り刻まれた建物が倒壊していく。



「蛇腹剣……ではないね。一切しなっていないし刀身のない部分でも建物を破壊できている。ということは本体は内部の鋼糸で刀身のギミックはあくまで制御用ってところかな。単虚重原子ブレードの類、とはいってもあれは安定性が低すぎるから破棄されたはずだけど。ああなるほど、刀身内部で冷却して安定化、その上で一瞬だけ発動しているわけだね」


「……やはり知ってる人間かよ。にしてもお前、余裕だな。俺たちの実力差はそれほど離れていない、いや俺の方が若干上なはずだ」


「うん、そちらの認識があっているよ。第3世代の子、このスペックだと本当に大変だろうね」


「?」



 グレイグの発言は正しい。今までにレイナが間合いに踏み込んだのは3回、そしてその全てが空振りし2度反撃を貰っている。レイナの両肩からは止まらない血が流れておりその奥には赤い肉と青と銀の混ざった何かが露出している。機械獣としての性能を発生させるための、彼らと同じ虚重金属筋肉繊維だ。



 さらに言うならばそれはレイナが本来保有しているものよりも遥かに質が低い。分裂体のコアではなく機械獣由来の素材を使い、劣化コピーを行った代物だ。第三世代の身体能力は改造人間が追い付けるレベルのものでしかないのだ。



 だからこそ、この状態にグレイグも疑問を抱いていた。



 実力差は確かに存在し、更には専用装備を完備しているグレイグと市場で入手できるヒートナイフを用いているレイナでは差は広がるばかりだ。



 しかしレイナにはかなりの余裕があり全ての攻撃に反応していた。つまり一手で全てを砕く隠し玉があるとするならば、グレイグに当てることができるかもしれない。



 その事実がグレイグの剣を鈍らせ均衡を生み出していた。再びレイナの足が地面を叩き20メートルの距離を一気に詰める。武道家の瞬歩とは異なる、単純な脚力により生み出された接近をグレイグはまたしても回避する。



 手品の種は義足。鋭利な刃のようなものが複数生えたそれは風の吹き出しを制御するためのものであった。仕組みは単純、内部に超高圧のガスを仕込んでおり補助脳の操作一つで弁を開放、体全体を吹き飛ばす。



 それをグレイグの技術をもって扱えば。



 ナイフが迫る。だが対人戦闘を生まれてから鍛え上げ続けた彼は先読みが間に合う。筋肉の動き、目線からいつ攻撃が何処にくるのか想定がつく。



 故に脚部の高圧ガスを斜め前に吐き出し足の移動なく致死圏内から外れ、次に左足を弾いて大きくバックステップしながら単原子拡張刃を振るう。分裂した刀身の合間に見える鋼糸は無駄な音をたてることもなく、するりと周囲の建物を切断した。



 崩れていく建物の中で、しかしレイナはやはり回避している。それはゲーム内能力ではなく第二世代獣人としての、リアル側の能力であることをグレイグは知らない。



 再び膠着状態に移行する。レイナが背後をちらりと見ると他二人の勝負はほとんど付いていた。裏色愛華はかなりのダメージを受けていて対する紅葉は無傷。だが超能力の高熱が広範囲高威力であるが故に慎重になっていた。勘次は大丈夫かな、早く手助けに行かなければ、と思いながら息を整えるべくレイナは口を開く。



「なるほど、守り手なんだね。道理で強いわけだ、『革新派』の周回を円滑に行うために設立された戦闘部隊。2055年の作戦に参加せず引き継ぎの為だけに生きる者」


「嫌味言ってるんじゃねえぞ、それを言うなら『予言者』様も『教団』という名の守り手を保有してるじゃねえか」


「勿論さ。だから嫌味じゃないよ、引用情報に成り下がるのを理解した上でまだ戦っている君への称賛さ」


「年上への言葉遣いってものを知らねえな、お前」


「堅苦しいのは苦手なんだよ」


「それ言うのは年上側じゃねえのか……?」



 会話が途切れる。再び武器を構えた両者であるが、戦いが再開されることはなかった。



「待たせた、すまない」



 代わりに赤い機体が飛び込んで来たが故に。MNBを使用し勢いよく着地した機体は瓦礫を撒き散らしながらグレイグの方に向き直った。裏色愛華には見向きもせず。



「久し振りだ、グレイグ君。とはいっても俺が憶えているのは前回の君だが」

「仲本先生……」

『グレイグ』

『革新派』の手下として2060年まで引き継ぎ情報を確保していた。守り手として育成されていたため対人戦に特化しており、その実力は2055年の作戦に参加したメンバーと比較しても遜色ない。年齢は20代後半であり、生まれはオレンジ達より後である。

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