表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/130

海の中で

 機械獣から身を守る方法はいくつか存在する、と男装したレイナは得意げに語る。



「その中の一つが距離さ。機械獣といえどもたどり着けない場所に本拠地を置けばいい。例えば空の上、あるいは海の中」


「でも魚型ってのがいるんだろ?」


「だから『モーセの剣』を使って海を割っているんじゃないか。ああ、『モーセの剣』っていうのは虚重金属除去用の大規模反重力発生装置並びに大規模マイクロ波展開装置の二つを合わせたものを指している。要は巨大な電子レンジだと思ってくれればいい。反重力を使って海を割ったままの状態で維持して、そこにマイクロ波を当てることで水を選択的に蒸発させている」


「まあそうやって海の中に隠れれば魚型も来にくいし鳥型も探しにくい。さらには蒸発した水を集めることで希少な浄水も手に入る。上手いことやっとるでホンマ」



 すごいエネルギーの無駄遣いなのではないか、と思ったがそういえばあのクソでかい旧大阪市を浮かしていた、みたいな過去のVerの話を考えればそれくらいはできるのかもしれない。あと紅葉が言うには特殊な波長の光を同時展開することで水和してしまったものから水を引き抜くことを補助していたりするとのこと。



 周囲を改めて見渡す。紫と白の汚い濁り方をした海は真っ二つに割れており上には唯一美しい太陽が佇んでいる。その液体からは白い気体がもくもくと上がっており、それこそが『モーセの剣』とやらで蒸発した水であった。



 そして今まで俺たちが居た場所。それは船と呼ぶには余りにも縦長すぎた。何十階建てという話ではすまない。下が見えない位の、何百階建てなのか分からない高さであり側面には数多の砲台が見える。そしてこの船は浮いているようだった。少なくとも水面は見えず、恐らくそれらを支えているのがマイナス質量物質なのだろう。というかこれ船じゃなくてビルだろ。



 なるほど、これなら下からも上からも侵入しにくい。確か以前のVerでは分裂体の死骸を嫌ってくれたお陰で対策があまり必要ではなかったがここまでしないといけないあたりあいつら本当に面倒だな。というか死骸が機械獣を遠ざけるとわかっているのなら使えよオイ。



「それは前Verまでの機械獣の話だね。さ、それはさておき狩りをするよ」



 俺達がそんな話をしている間に周囲は既に動き始めている。展開されたデッキをよじ登るとそこは屋上、先ほどの天井の上にあたる本当の最上部である。そこには何百もの機械獣がひしめき合っていて分厚い金属の床は長年の攻撃を受けて大きく破損している。あれだけやっても上からくる機械獣は防げないし海から飛び込んでくるような水陸共に対応しているような機械獣の侵入は防げない。故に狩るのだ。



 早速鳥と触手と爬虫類を混ぜたような気持ち悪い見た目をした機械獣が炎に飲まれる。数十メートルに及ぶその炎は、しかしただの結果にすぎないのだろう。記憶によればあくまで高熱のあまり燃焼が発生しているだけで実際に起きているのは発熱である。……あれ何を燃焼させてるんだろう。酸素は助燃材だろうし、あるいは変化した大気成分か?



 火炎系の超能力、というよりは発熱の超能力を発動した人物に俺たちは見覚えがあった。外であるから酸素マスクをしてはいるが間違いなく裏色先輩である。高熱になった機械獣は抵抗しようとするが突如関節を奇妙な方向に捻じ曲げ赤く融解しながら停止する。炎の方向的に奴らの脳を加熱して潰してしまったのであろう。あの機械獣対策動画役に立ってるんだな。



 そしてこれこそ、と言わざるを得ないドラゴン型の機械獣が裏色先輩に迫る。羽は残念ながら鳥の物であるし前腕も触手だが、それ以外は完全に爬虫類という姿である。6メートルはあるであろうその大きさが迫ろうとするとその前に大きな影が立ちはだかる。



 5メートルにも及ぶ赤い人型の影が。



 それは手に持つ槌を走り込んだ勢いのままに振り回す。7メートルという自身の体長を超えるリーチに敵を押し潰す為に存在する超重量のそれは、しかし割り箸を振り回すかの如き気楽さで最高速に到達しドラゴンの胴体に直撃する。そしてその瞬間本来の質量を思い出したかの如き爆音が発生しドラゴンが宙に打ち上げられる。マイナス質量物質によるブーストシステム、MNBだ。槌の質量を消した状態で振り回し衝突直前に元に戻したわけである。



 そこで終わらず赤い機体は少し背後にいた同系統の機械獣に一瞬で接近する。予備動作はなかった、いや見えなかった。機体の質量をMNBで大きく減らした状態で武術家の如き足さばきで悟られずに前進したのだ。踏み込んだ勢いのまま槌を下から叩きつけもう一度先ほどの再現を破滅的な軋みを機械獣にもたらしながら行う。そして空に打ち上げられた二体に向かって背中に装着していた巨大な銃器を取り出す。



 それはガトリング砲であった。背中に付けられたサブアームがなければまともに運用できないであろう。機体はガトリング砲を二体に向けて引き金を引く。サブアームの周囲に存在する複数の太い黒のコードにより給電されそれは発射される。



「ホライゾン社製グラフェン式超伝導体によるレールガン、か」



 秒間600発に及ぶ速度で飛び出す巨大な砲弾は一瞬で機械獣を再起不能までに追いやる。しかも恐るべきはそのほとんど全てが直撃しているという事だった。ガトリング砲ってスナイパーライフルじゃないんだぞ?数の力で押し切るものであって命中率まであったら反則だぞオイ。



 そして赤い機体から声が発せられる。



「アイ、大丈夫だったか?」



 いやあんたかよ眼鏡先輩。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レールガンはむしろ単銃身の方が精度も連射速度も高くできるんだけど… ガトリングにするとレールガンの利点が悉く台無しになるのよ… つーかガトリングって連射速度を上げるためだけの代物で、複雑な機…
[一言] 逆に言えば誰だと思ったの?w そういえばオレンジは初めてメガネ先輩の戦闘を見たねw 所でオレンジは今、どういう格好でAPの中に居るのか、とても興味がありますねw
[一言] 眼鏡パイセン強過ぎぃ……でもコレでもこの絶望的な状況をひっくり返せない程度、なんですよね人類と地球の未来はナイトメアハードインフェルノ過ぎるぜ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ