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急転

 瓦礫が周囲を覆っている。既に盗掘者達が奪い尽くした跡がそこらかしこに点在していた。旧大阪駅の地下13階、とそこには書かれていた。



「いったぁ……。手の皮剥けるかと思ったぞ」


 足元には砂のようになってしまったかつて壁だったものが散らばる。全面にヒビが入っているような悪環境であるのに電気だけは不思議と通っているようで明かりがついていた。


 この街について気になった情報が一つある。



『この街は分裂体の死骸に着陸した』という噂だ。なぜ着陸したかはどうでも良い、本当に気になるのは『着陸するまでは飛行していたのか』ということだ。



 着陸なんて表現を使う以上この街はかつて何らかの方法で地面から離れていたはずなのだ。そしてその仕組みが残っているとすれば当然、地上ではなく地下にあるはずだと睨んでいた。



 そして目的のものはすぐに見つかった。そもそもメンテナンスが必要だ、こういった重要なものは。それ故にわかりにくい場所にはないだろうと思っていた。



 そこには大きな粗大ゴミがあった。盗掘者により部品は抜き取られ、幾度もの衝撃により穴だらけのプラントのような何かであった。かつて溶媒や特殊な原料を入れて何かを作っていたであろう装置だ。汚れを見るためなのだろう、本来の気持ち悪いくらいの白色は埃により隠れていた。



『マイナス質量物質生成プラント4』

『温度低下に注意!』

『ガス圧をチェック、金属部位の腐蝕も見逃すな!』



 反重力物質的なものをここでは使っていたらしい、と張り紙を覗き込みながら思う。例えば空気より軽い気体、熱されたガスは上に浮かぶ。気球などはその性質を使っているが、ではマイナスの質量のガスが存在すれば?



 ……まあ実によく浮かぶのだろう、そんなものが存在するとは思えないけど。しばらく歩き回るとさらにいろいろ見えてくる。外れたガスの配管、人骨、巨大な圧力でねじ曲がった鉄骨。



「お、事務室か何かか?」



 そこだけ透明のガラスで仕切られた部屋を見つける。ガラスは全て割れていて扉は下半分が吹き飛んでいる。怪我すると怖いので破片を軽く避けながら窓から部屋に入った。



 休憩室だったのだろう、睡眠用の寝袋や椅子が逆さまに転がり暇つぶし用の本もいくらか置かれている。



『ガリー・ポッターと炎の核兵器』

『それゆけアンポンタン!』

『猿でもわかる結晶場理論』

『マイナス質量物質を用いた大規模宇宙航海の仕組み、実用化の展望について』



 ……わかっていたことだがコメント欄がうるさい。本を見た瞬間読め読めと騒いでいる。読んでほしいのは炎の核兵器が3割でマイナス質量が7割くらい。ただ炎の核兵器は人気作品であるため実際に本屋でよめば良いのでマイナス質量についての本を開く。



 同接数はいつの間にか30万を超えていてその皆が俺に何かを起こすことを期待している。が、一般人なのだ。興味だけは一人前の雑魚に過ぎないのである。



 本読んでも前回みたいにアプデできるわけねぇだろ……と思いながら俺は80ページ前後の薄い本を開く。でも万一アプデ来てログイン制限解除されたら気持ちいいな、とも思う。解除されたら被害者による本気のヒニル狩りが始まるだろうからな。



「カメラ映ってますよね。皆さんこれ録画して各自でスクリーンショット作ってください、またアップロードするの面倒なので」



 スペースイグニッション社なる会社が発行したその本をペラペラとめくる。ふむふむ、もともと『UYK』や機械獣に勝てないと判断した国は宇宙に脱出しようとしていたと。その際のサブエンジンとして期待されていたのがマイナス質量物質の生成反応で、しかし肝心の1億人が入るロケットなんて作れなかった。



 そこでまず破滅をあえて見逃して人口を減らした上で残った人材を打ちあげようと試みていた。が、結局上手くいかず地上300メートルに浮かぶのが精一杯だったとさ。



「あー、このマイナス物質作る施設が大き過ぎて打ち上げるのが無理だったのか。で、40ページからは詳細理論か。うーん何もわからん、興味のある人だけ撮影どうぞ」



 何もわからない残り半分を投げやり気味にカメラに映してゆく。最後まで映し終えた瞬間、あの緊急クエストと同じポップアップが出る。



『緊急アップデートが5分後の16時より実行されます。メンテナンス時間は20分ほどです』



 ……また何かしてしまったようである。が、考えるべきはそこではない。予定時刻の16時まであと5分しかないということである!!!



 やべえレイナに怒られる!いやあいつ呆れるだけでそれ以外何もないけどそれはそれで心にくるんだ!と全速力でエレベーターのあった穴にたどり着き行きに取り付けていたワイヤーを引き戻すことで一気に上昇する。



 因みに紅葉についてはよくわからない。昔の話だし。そう考えると俺は今の紅葉については本当によく知らないな。あいつが怒ると……ねちねち言うのか、むしろ対応が優しくなるのか。その結果を確認したくはないものである。



 慌ててAPに乗り込みコクピットを閉じて視界を切り替えた瞬間、画面が黒くなり強制ログアウトの文字列が流れる。間に合わなかった……!



 ……黒い画面とはいえ配信続いてるし、スマホに何か彼女達から連絡来てても怖いのであえてそのままログアウトせずに時間を潰す。



『やっぱこのゲームおかしくね?』

『ログイン制限解除キターーー!!!』

『やりやがったこいつ、お前がナンバーワンだ』

『ログイン制限でハメようとしてたヒニル涙目で草。このゲームアプデのタイミングでそれ解除されるんだぞ』



 流れるコメント欄をぼーっと見ながら時間を潰す。視聴者は30万人を超え大層盛り上がっているが俺は困惑と約束スルーによる恐怖でそれどころではない。好奇心出してすみませんでした、別にあなたのことを蔑ろにしているわけではなくてですね。しかし次のアプデ何来るんだろ、APまた追加されないかな。



 そんなことを思っているとついにアプデが終わる。今回は凄く早いなぁと思いながらログインボタンを押してーーーー黒い空が俺たちを迎えた。



「あえっっ」



 黒い空の下で次々とプレイヤーがログインし、ミイラのごとく干乾びて宙に浮く。重力はあるのか少しずつ倒れてはゆくのだがそれらのミイラは無限に増え、回転し、周りを跳ねていた。



 俺はその中で唯一立っていた。理由は勿論、AP内部は空気が遮蔽されているから。戦闘を想定したAPは衝撃を受けて密閉が無くなり酸欠、という事態を防ぐために極めて強固に作られている。だからこの()()()でも俺は生きていられた。



 分裂体もヒニルも、機械獣も『UYK』も、全ては置いていかれてしまった。空を見上げると無数の星々が映る。あの中のどれかがかつて俺たちがいた場所そのものであった。



『Ver-1.00にアップデートされました。

 ・虚重副太陽の形成に成功しました。

 ・イギリスと日本は宇宙への脱出に成功しました。

 ・2050年の破滅は回避されていません。

 ・2055年の作戦は成功率0%です』 

『スペースイグニッション社』

被害者その3。イギリスの宇宙開発における大企業。マイナス質量関連の技術を秘匿していたのだが……哀れ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 展開が進むごとに全部足元からぶっ飛ばしていくスタイルは読んでて気持ちいい。 会う人合わない人がかなり分かれそうだけど個人的にはすごく好きです。 最後まで破綻しない展開を期待
[気になる点] >あとがき その2はヒニル君だったはずでは
[一言] 展開は面白い! ただ、ゲーム内アイテムとして重要な情報を小出しにする理由は何故だろうか? 一気に未来の技術を送る方法ではダメだったんかな?
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