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遮蔽

 さて、あれから2日が経過しAP修理完了の日である。この2日は煽るために『HAO』にログインする以外は全く別のゲームをやっていた。『狙撃VR』とかいうアホな名前の癖に異様に実用的なFPSである。全ての銃が実在していて反動や弾丸の軌道まで再現、自分で相手との距離を測定し補正しなければならない。しかも各々に地形が与えられてそこから出られない仕様であるため最低でも100m以上の距離を本当に狙撃しないといけないのである。



 が、なんか負けた気になるという理由で習得してしまった俺にとっては意外と神ゲーになっているのであった。上位のプレイヤーは皆リアルのスナイパーかと思うくらいの腕前でそれに勝てた時の気持ちよさが半端ではないのだ。



 そんな話はさておき再びログインをし、人目を避けて鋼光社に向かう。さて今日はいよいよAPのお披露目日である!恐らく全サーバー初の成果となるのではなかろうか。



 相も変わらず旧大阪市の中は寂れている。住宅区を歩いている時ふと見上げると首を吊った男の死体が目に入る。残っているという事は恐らくNPCなんだろうけど、自殺するNPCとは意外と新鮮である。まあだいたいのゲームはそこまで追い込まれる前に主人公が助けに来るからなんだろうけれど。



「ところでこのゲームの主人公、誰なんだろう?」



 MMOは大抵の場合プレイヤーが主人公で物語が進行してゆく。これはNPCと他プレイヤーの関係が自分から見ると無いからなのだ。例えばNPCの呪いを解くというイベントを自分が達成していてもイベントをクリアしていない他プレイヤーから見ると依然呪いは解けていないのである。当たり前というか、そんなところまで共有すると大変なことになるから当然だ。



 ではこのゲームはどうだろう?全てのNPCは共有で誰かが殺すと他プレイヤーはもうそのNPCと会話できなくなる。こうなると主人公がプレイヤーだとすると主要NPCがいなくてストーリーが進行しなくなってしまう。たぬ〇ちが殺されてしまうと借金を負うイベントが無くなりゲームが始まらなくなるみたいな話だ、いやそれはコンシューマーゲームだけど。



 裏路地を歩き回りながら目的の鋼光社にたどり着く。中に入ると既に紅葉とレイナはAPを見ていた。APは既に修理されており、ピカピカとはいかないが全ての部位が完全な状態となっていた。溶けていた装甲は新しいものに置き換わっており関節部から何かはみ出していたりもしない。全身を装甲が覆った武骨な量産型APが動く状態で初めて俺の前に存在していた。



「おう、修理完了したぞ」


「ありがとうございます。お、ブレードが背中についてる」


「重火器の搭載は無理だったがまあこれくらいならな。腕部のアタッチメントを追加しておいたからこれで手が滑って武器を落とすなんてことは無くなるぞ。他は基本的に壊れた部分を取り換えて燃料を入れただけだ。まあこれで機械獣と戦えるくらいにはなるだろう」



 この前泣き崩れていたおっさんが満足げな表情で俺に語る。紅葉とレイナは何やら話し合っているのでそれは置いておくとして実際にコクピットに乗り込む。汚れの類は全て拭き取られていて綺麗になっておりあの発電機も別の小型のものと置き換えられている。



 おっさんの言う通りにスイッチを押し、ヘルメットを頭に装着すると急に視界がクリアになりAP視点に切り替わる。



「これってVR技術の応用か。ってことは俺VRゲームの中でVRゲームしてる状態なんだな」


「おう、VRをそのまま応用しているぞ。改造人間とかもこの技術使ってたりするしな。で、基本的にAPは思考でそのまま操作できる。ただし抜刀だとか剣を振るような動作には専用の操作が必要だ」


「どういう基準ですか?」


「危険度だ。ついうっかり人を殺してしまうとこまるだろ?だから武器を振るうとか民間人がいる状態で走ろうとするにはスイッチを押してレバーで操作、という操作が必要になる。例えば右上のスイッチが武器を装備するためのものだ。で、そのもう一つ右が武装の使用」


「この操縦桿は何に使うんですか?」


「威力調整だ。全力で押し込めば120%の力が出るし少しの力なら50%くらいの出力となる」


「なるほど、思考で操作してスイッチで制限を外してレバーで威力を上げる」


「一回操縦してみな」



 おっさんはそう言ってコクピットから離れる。キャノピーを閉じるとプシュっと隙間から音が鳴った。内部を酸素の入った混合気体で満たすためだ。



 というのも実はこの世界の酸素は電力で水を分解することで作られている。学校の授業を覚えているだろうか、2H₂O(水)が2H₂(水素)とO₂(酸素)になるという有名なやつで中学校にて学んだ人もいるはずだ。そんなわけでこの低い酸素濃度の世界で確実に酸素を得るには電気が必要なわけだ。



 そして個人の持つ酸素生成装置は性能があまり高くない。なんせ持ち運べるサイズでバッテリーが長持ちし酸素を一定量供給し続けなければならないのだ。しかしAPの電力を流用する形であれば酸素を安定して供給できる。



 それに加え外でマスクを付けっぱなしは精神的な疲労が大きい、そんな理由からこのAPは外の外気から遮蔽されていてノーマスクで呼吸ができるわけだ。まあここはドーム内なので酸素あるからいいけど、確かに外で何週間も酸素マスク外せないのは辛いよね。



 そんなわけで締め切られたコクピットを確認し立ち上がろうとする。先ほどヘルメットによりAPと感覚を共有しているため視界が奇妙に広いのが気持ち悪い。そしてAPは俺が思った通りにゆっくり立ち上がった。



 次に右上のスイッチ2つを弾いて解除、背中の巨大なブレードをゆっくり取り出す。そしてそのまま武器を持たない側の腕で正拳突きを行う。一打目はゆっくり、二打目はレバーを全力で押し込んだ一撃。すると二打目は腕だけで撃っているはずなのに凄まじい力が足にくるのがわかる。そとから見ると少し早くなっただけだがなんつうパワーだこれ……!



「おーい満足したかい?」


「満足も満足、大満足だよ。ガチじゃんこれ」



 下の方で手を振っているレイナにAPの腕を振り返して一回機体から降り……ようとして固まる。玄関の向こうから妙な物音がする。複数のパワードスーツの音というか機関銃の装弾をしているような音だ。APによる強化聴覚で辛うじて聞こえるぐらいだが。



 レイナは俺が気づいたことを理解したのかにこやかな顔をしながらナイフを取り出す。一方の紅葉はため息をつきながら両手にサブマシンガン、背中にロケットランチャーらしきものを背負い始める。レイナは見た目そのままだが紅葉の服は膨らんでいて間違いなく他にも何かを装備していた。レイナが笑いながら俺に向かってこの街の全体図を見せてくる。



「さあまずは配信をつけてこの場所に向かうんだ」


「……それ絶対ヒニル君いる場所だよな?」


「いやー、私たちが二人で遊んでいる時も付きまとわれて、オレンジと一緒にいた二人だって言って取り巻きの奴がセクハラ発言連打してきてさ。それで流石に気持ち悪かったからそろそろ潰そうかなって」


「それはうちも同意やけど配信はいらんのちゃう?あいつの再生数が伸びたら負けやろ?」


「だから配信するんじゃないか。皆が見るのは悪人を退治するヒニルじゃなくてヒニルという迷惑プレイヤーを倒すオレンジなんだよ」


「……正直興味ないんだけど、まあレイナがそこまで言うならやるかぁ」



 レイナの目が笑っていないのを感じ、戦闘態勢に入る。何より大事なのはこの武器屋を壊されないこと、おっさんを守る事である。折角手に入れたジョブとAPを奪われて無職になりたくない、そう思いながら俺は先陣をきった。

『コクピット内の空気の遮蔽』

地味に重要なポイント。どういう意味で重要なのかは後程。


そして地味に二人だけで遊んでいた紅葉とレイナでした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あー 毒殺とかそんな感じ? [気になる点] しかしロボはいい
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