表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/130

46→44

 ☆スターナイト☆。VR狙撃のプレイヤーにしてVer2.00で俺にスナイプ仕掛けてきた張本人。あと金庫開けてくれた、そんな相手。それが今Apollyonに乗って俺の機体に狙いをつけていた。



「☆スターナイト☆選手は佐藤選手が直前辞退となったため急遽ピンチヒッターとして出場された選手です。Apollyonを使ったのはVer3.00からとのことなので戦闘経験は浅い、しかし狙撃メインならば大きな問題にはならなさそうですね」


「狙って射撃するだけであれば確かにパワードスーツと大きな違いはありません。しかも装備しているのはUKシリーズの試作品、水中用の対分裂体燃焼兵器です。あの砲に当たればひとたまりもない!」



 さてどうするか、とはるか上の影を見上げながら思う。概算で数百メートルはあるだろう、その距離を浮上しながら追いかける? 冗談ではない。UKの威力は俺もよく知っている、分裂体の装甲をぶち抜く火力はブレード一本犠牲にした程度で防ぐことなど不可能だ。



 近づけない。となれば考えることは一つ。スクリューをゆっくり動かしながら俺は深海に向かって更に潜航を始める。少し斜めに移動しながら進むと少し離れた位置にまた弾丸が飛んできた。そう、先ほどはドンピシャの位置だったのに。



「おっとオレンジ選手逃げの一手! これはどうしたことか?」


「なるほど、深海の闇に紛れることを狙ったわけですね。一発目はオレンジ選手が停止している状態だったからこそ暗闇と海を乗り越え狙撃出来たわけですが、二発目を当てるのは容易ではありません。ほらオレンジ選手がサーチライトを切りました、これで☆スターナイト☆選手はほとんど見えない敵を誤差を修正しながら撃つ必要が出てきます」



 完全な暗闇に閉ざされる事により弾丸はより的外れな方向から飛んでくるようになったが、それでも執拗に☆スターナイト☆は俺を狙い続ける。VR狙撃からの仲だとはいえ流石に執念深すぎる、そろそろヒニル君とかが何とかしてくれないか。



「一方でヒニル選手、奏多(カナタ)選手の流れ弾に当たり敗北! 無様、無様!」



 だめでした。じゃあしばらく弾丸と一緒に散歩だな、と更に沈んでいく。既に深度2000mは超えただろうか、辺りは完全に闇に閉ざされコクピット内は辛うじて物が見えるくらいだ。実際に深海にいるわけではないのに息苦しい気持ちになってしまう。



 流石にもうそろそろ大丈夫かな、と思って息苦しさから逃れる為にスイッチを叩く。だがついスイッチを押し間違え全方位を照らす設定となってしまい、だからこそ俺は全ての全貌を見ることが出来た。



「は……?」



 灰色の鱗が海底を覆っていた。あの無限地平線で、『HAO』内の大地全てで見覚えのある鱗。『洪鱗現象』の産物。『UYK』の表皮。その上に幾つもの結晶樹がただ愚直に大地を目指して伸び続けている。敗北者であろう折れた結晶樹が無数に海底には転がっていた。



 かつて本で見た秘境が今、『UYK』により侵食されていた。そして最たるものは1つの球だ。ああそうか、だから分裂体は『同期』できたのだ。『同期』のシステムは2060年の自分が2040年に影響することであり、逆に言えば2040年に存在しなければ『同期』なんてできるわけもない。



 大きな一つの球は半透明の金属めいた物体で出来ている。その中には自身を抱きかかえるように3体の金属生命体が入っていた。



 1体目は丸い球に無数の金属触手が生えた怪物。ゆらゆらと殻の中で何かを探すかのように触手を蠢かせている。そう、17式。核を撃ってきたあの分裂体だ。



 2体目は比較的スタンダードな蜥蜴のような姿をしていた。ただし異なるのは背中に生えた巨大な建物とそこから溢れかえる結晶樹の群れ。多種多様な結晶樹の根は殻を突き破り地面まで到達しそこから新たに茎をのばし始めていた。……植物工場を取り込んだみたいな話を聞いたことがあるがこういうことなのか。



「え、えーっとこれは一体」


「……」


長喋(ながしゃべり)先生、解説の方をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「……」


短喋(みじかしゃべり)先生と改名されますか?」


「確かにそうだ。分裂体も2050年に急に出現したわけではない。そもそも第2世代獣人は分裂体のコアが発掘されたことが始まりだ。あれから長い時間がたった、人類に回収されなかったコアは深海などの秘境でこうやってじりじりと成長し続けてきたわけだ。だから彼らはこうやって『同期』して自身を高め続けている。だがどうしてこのタイミングなんだ。怪しい場所ではあったが3体もどうして見つかる? やはりオレンジとは、予言者とは」


「長く喋れという意味ではないですよ先生。さあ思わぬイベントです、イベントだよね? 俺これについて何も知らされていないけど。こいつ勝利条件に関わってくるの?」



 当然の疑問である。というか多分本当に想定外なんじゃないかな。そう思いながら大きな球を見る。見覚えのあるカジキマグロだ。うん、あれよりは遥かにサイズ小さいけど間違いない、何度も煮え湯を飲まされた……というよりは飲ました、46式始原分裂体である。本当にこいつとはつくづく縁があるようだ。青緑の金属の瞼は降ろされており殻から出てくる様子はない。



 どうすればよいだろうこれは。衝撃の品を見せていただいたはいいもののそこから先がない。そう思った矢先にずしゃり、と嫌な音がした。カジキマグロの方からだ。



 殻を貫通しその瞼を破壊するかの如く頭に向かってUKの弾が突き刺さっていた。☆スターナイト☆君の流れ弾だ。閉じていた46式の目が見開かれこちらをみる。……多分これだとわからないだろうな、と思って俺はジタバタとボディランゲージを始める。逃げる。飛びつく。回転しながら空に消えていく。



 少し間を置いて理解したらしい46式は勢いよく目を逸らす。4回くらい視線の先が宙を回る。より目になる。そしてようやく俺を見た。ver1.08の、UK-02を持って突撃するモノマネをしているApollyonを。



「……」


「……」


「……やあ」


「hjwqecnuijkmicixkdwfnruwvbpuqc!」



 声にならない叫びを上げて46式分裂体は殻の中で暴れまわる。そして急に光り出した。正確には光っているのは周囲の物であり、それらはボロボロと崩れて46式の方に向かっていく。



 この現象に近いものを聞いたことがある。ログインだ。『HAO』にログインすると体は周囲の物から再構成される。例えばVer2.00では腐肉が置かれていた場所でプレイヤーの肉体は再構成されていたらしい。もし同じような事が2060年から2040年へ、『逆潜』のような形で発生すればどうなるか。



 46式分裂体の姿が一気に膨れ上がる。衝撃に抵抗し、なんとかカメラをそちらに向けると懐かしい姿が佇んでいた。Ver3.00で見かけた、肥大化した機械獣を生み出す存在。俺たちを追い掛け回した強者。



 だがそんなことはどうでもよかった。いやよくはないんだがそれより注意を取られることがあった。つまり『逆潜』とは2060年の状態に合わせて物質を再構成する。仮に足りなかった場合何が起こるかというと周囲の類似物質を取り込む。


 となればすなわち。あそこにある、2つの7割欠けて絶命したナニカ、46式の『逆潜』に巻き込まれた被害者が生まれるのである。場所近かったからね、そりゃそうなるよ。スピーカーから呆然とした長喋先生の声が流れてきた。



「5式と17式、分裂体2体、死亡。そして成長しきった分裂体が生まれた……? 何が起きてる……?」



5式君と17式君、南無阿弥陀仏。恨むならそこのカジキマグロにしてくれ。

46式始源分裂体

様々なVerにて生存に成功している中、唯一ver1.08にて自身を殺したオレンジ君は彼のトラウマになっている。目を開けたらいた。ドウシテ……。


5式始源分裂体

結晶樹の発生源。『逆潜』に巻き込まれて死亡。以降の未来で結晶樹が蔓延る可能性は失われた。


17式始源分裂体

核を撃ってきたあの子。『逆潜』に巻き込まれて死亡。アメリカ大陸の南側が核汚染で完全に生存不能になる可能性は失われた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 46式君「イヤッ イヤ!」
[一言] どこぞの無◯様かな カジキマグロ分裂体さん
[一言] 自室でぬくぬくしてたら目の前にナタ持って気さくに挨拶してくるジェイソンが居たとかそりゃそうなるよなって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ