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2 カイルの過去


 俺は剣の才能が全くない。そのことに気づいたのは、5歳の時だ。兄さんと姉さんは4歳の時には、1番弱いF級の魔物なら1人で倒せるだけの実力があった。



 しかし、俺は5歳になってもF級の魔物すら1人で倒せなかった。それどころか剣もろくに扱えなかった。その頃から父さんは俺に厳しく接するようになっていた。そして、ローレンス家の恥である俺は貴族のパーティーには行かせてもらえなかった。周りには生まれつき体が弱いとか言っていたらしい。

 


 だが、7歳になってもF級を倒せない俺に父さんは見向きもしなくなっていた。俺が無能だとわかったからだ。俺は剣術が使えないんだ、練習しても意味なんかない、そう思って俺は剣術から逃げた。


 でも、兄さんと姉さんはそれを許してはくれなかった。俺を部屋から引き()り出し、無理矢理剣術の練習をさせた。素振りを千回しないと家に入れてくれないこともあった。俺がどれだけ泣いても、何度もやめてくださいってお願いしても、絶対に辞めることはなかった。もちろん剣術の練習が嫌で何度か家を抜け出したことはあるが、何度逃げてもすぐに捕まり、いつもより厳しく指導された。


 今ではエリオット兄さんは騎士団の任務が忙しくて、ほとんど家に帰ってこないし、ミリア姉さんも学院の勉強や自分の鍛錬(たんれん)であまり俺に無理矢理剣術をやらせることはなくなっていた。その代わり、兄さんが家にいる時や姉さんの時間のある時は地獄のような特訓をやらされた。一向に上達しなかったが――。

 


 俺は10歳の時、そんな日々が嫌で物に八つ当たりをしたことがある。その時、兄さんの大切な騎士団の証であるバッジを壊してしまった。これを壊したことが知られると怒られるだけではすまない。どうすることもできない俺は目を(つむ)ってただただ祈った。ごめんなさい、神様なんでもするからどうか、『どうか直りますように』、と。


 目を開けると、信じられないことに完璧に直っていた。壊れたことが嘘かのように綺麗に直っていた。俺はとりあえずバッジを元の場所に戻し、何もなかったことにした。数日経っても兄さんから何も言われなかったので、完璧に直ったのだと確信した。


 俺はもう一度物を治す力が使えないかと思って、自分でグラスを割りもう一度あの時のように必死で直れと心の中で唱えた。今度ははっきり目を開けて。するとみるみるうちにグラスが元どうりになった。俺は確信した。これは神様の力なんかではなく魔法なのだと。

 

 そこからいろんな魔法を試してみた。時には門の外に出て魔物を倒したりもした。初めて魔物を倒した時にはほんとに嬉しかった。これで父さんに認めてもらえると思って。すぐに父さんに報告しようとした。


 しかし、剣の名家であるローレンス家に誇りを持っている父さんが俺に魔法の才能があると知れば、何をされるかわからない。もしかしたら、家から追い出されてしまうかもしれない。今追い出されると確実に死んでしまう。だから、俺は誰にも言わずにこっそり魔法の特訓を続けた。しかし、うちは剣の名家なので魔法についての書物はなく独学で学ぶほかなかった。

 

 俺はおそらく15歳のリリセント学園に入学する前までには家を追い出されるだろう。ローレンス家に誇りを持っている父さんが落ちこぼれの息子を世間に(さら)すわけがない。それまでに、1人で生きていけるだけの実力を身につけなければいけない。独学で魔法を使うのは本当に大変だった。最初は失敗してばっかりだった。しかし、13歳の頃にはとりあえず生きていけるだけの知識と魔法は身につけた。この近くにはあまり強い魔物はいないが、D級の魔物までは倒せるようになった。

 


 魔法は戦闘だけではなく、生活にも使える便利な魔法もたくさんある。お金を貯めるときに一番役に立ったのは、アイテムボックスという魔法だ。魔物は倒した時に核を残して消滅する。その核をバレずに持ち帰ることができるからだ。核は街に持ち帰れば硬貨に変えてくれる。魔物の核で得たお金を家族にバレずに保管できるのも良かった。



 核はギリギリ片手で持つことができるぐらいの大きさなので、カバンだと入って5個までだ。その点アイテムボックスはいくらでも入れることができる。アイテムボックスがどのくらいの大きさなのかはわからない。だが、魔物の核を200個以上は入れている。一度にたくさんの核を売ると、目立ってしまうし、誰かが父さんに報告してしまうかもしれない。


 なので、目立たない程度の核を少しずつ売っていき、残った核はアイテムボックスの中に入れている。そうしたら、家を出る頃には、200個以上の核が溜まっていた。今まで貯めたお金とこの核があれば、何もしなくても2年は暮らしていける。


 なのでお金のことは気にせず、いろんな世界を冒険して、魔法を学びながら静かで平和な国を見つけてそこで一生暮らしていこう。


 

 これからのことを考えながら俺は歩き続けた。目的地は隣国のアマリア帝国に決めていた。剣術が盛んなカルナティオに対し、アマリア帝国は魔法が盛んな国である。そこで、魔法について学ぼうと思ったからだ。俺は魔法については何も知らない。無知なことほど怖いものはない。なので、最初の目的地はアマリア帝国に決めた。王都を出てからしばらくは倒したことのある魔物ばっかりだったのでスムーズに進むことができた。


 

 しばらく歩くと暗くなってきたので、今日は野宿することにした。アイテムボックスから食料を出し、簡単に料理を作った。アマリア帝国まではまだまだあるので、食料の確保もしないとなと考えているとたくさん歩いたせいか眠くなってきた。明日も一日中歩かないといけないので、今日はもう寝ることにした。俺はアイテムボックスから寝袋を取り出し、眠りにつこうとした。しかし、寝ている間に魔物に襲われるかもしれない。野宿は初めてで、眠っている間も魔法を使えるのかわからないが、一応自分の周りに結界を張り寝ることにした。

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