脳筋勇者~おい待て勇者、その聖剣の先に着いてる岩は何だ?~
世界の中心にして最後の都――聖都。
「――では、次の勇者候補よ。聖剣に触れ、その資格を示しなさい」
神の啓示を受ける聖女が大聖堂で告げる。
千年前に天界から施された神造兵装。
嘗て、ソレで魔王を打倒した勇者が後の千年後に蘇る魔王に備える為にその聖剣を残した。
今が、その千年後。
俺は幼い頃から勇者に憧れていた。
魔王を倒し、世界を皆を救う為に俺は今日まで身体を鍛えに鍛え抜いて来た。
例え、魔力が無くともこの筋肉があれば聖剣に認めて貰える筈だ。
そうだ。
筋肉こそが至高。万能。無敵。究極。
神様もこの筋肉マッチョモリモリボディにこう言ってくれるはずだ。
『キレてるよ!』『板チョコ腹筋!』『肩に重機乗せてんのかいっ!』と
「――俺は、勇者になるんだぁーー!!!!!!」
その日、大聖堂に――なんか酷いベキベキ! とかバキバキ! とか、ボコッ! なんて音が響いた。
◇
――そして、半年の激闘(筋トレ)の末。
俺は、俺達勇者パーティーは魔王の側近である四天王を倒し、ついにその魔王と対峙した。
「フハハハハハ!!!! 待っていたぞ、忌まわしき千年後の勇者よ!! 所で、その聖剣なんか聖気無いけどどうした、昔見たのと違うぞ。後その剣先の岩は何? どうしたの? 鈍器?」
「さぁ、魔王よ!! この筋肉で! もう一度、千年の眠りにつかせてやろう!!」
「我は聖剣じゃないと倒せないよ?」
「皆! 俺に、筋肉に力を分けてくれぇ!!!!」
「勇者、聞いて? だから我わね……?」
仲間の剣士が叫ぶ。
「ナイスバルク!」
聡明な魔導士が拳を掲げる。
「良い血管で出る! 仕上がってるよ!」
麗しき神官が声の限りに。
「泣く子も黙るチョモランマ!!」
その仲間達の応援に心が、身体が――筋肉が躍る。
「行くぞ皆――サイドチェストだ!」
俺は今までの全てをこのポージングに込める。
「「「「はい、ずどーん!!!!」」」」
「――我、もう寝て良い?」
◇
かくして、世界は再び千年の平和の時を謳歌した。
魔王は眠りにつく際に魔界全土に達示を広げる。
「今代の勇者、マジやべぇから皆関わんない方が良いよ。ホント、マジで」
◇
そして、更に千年後に訪れた勇者の持つ聖剣の剣先には今も尚、岩が着いていた。
「……………………」
とても、仕上がっていた。