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夢見、夢見て、願い事  作者: あき
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0話 不思議な少女との出会い

あの人はまだ寝ている。

すやすやと寝息を立てて眠るあの人の表情はひどく穏やかで

時間が止まっているような感覚さえ覚えてしまう。



「じゃあ、また明日ね。」

私はまだ起きそうもないあの人にお別れを告げ、病室の外へ出る。


ツー

病室の外へ足を踏み出した瞬間、瞳の奥から一筋の涙が零れ落ちた。

もう涙は流さない。そう決めていたはずなのに。

自分の感情を表しているかのように、その涙は熱かった。


もうこれで何度目になるだろう。

もうすっかり見慣れてしまった病室、病院の廊下、待合室。

親しげに話しをしてくれるようになったお医者さんに看護師さん、患者さん。

見慣れる度に、話してくれる度に時の重さを感じてしまう。

彼らも私も今を生きている。

そう実感するたびに、あの人の止まっている時間を考えてしまう。


(あの人は今、どんな長い夢を見ているのだろうか・・・。)



あの人が眠り始めて、今日で1年という時が経とうとしていた。

あの日はひどく寒い冬の真っただ中だった。

その日、私とあの人は会う約束をしていた。

地元で一番目立っている大きな時計塔の前で待ち合わせしよう。

約束を胸に私はあの人が現れるのを今か今かと待った。


けれども、約束の時間になっても、それから1時間、2時間と重ねても

あの人は現れなかった。

その上、電話もメールもSNSも繋がらない。

いつものあの人なら、こんなことにはならない。


(何か事件か事故にでも巻きまれてしまったのではないか・・・。)


それは確信にも似た嫌な予感だった。

頭を過った瞬間に背筋が冷えあがり、鳥肌が立っていた。


プルプルルルルルルルル

あの人からの着信だった。


(あ、電話をくれるってことは大丈夫ってこと…だよね?)


「も、もしもし・・・。」

声が震えてしまう。だけど、きっとあの人の声が聞こえてくるはず。

そう信じていた。 なのに・・・。


病室のベッドで眠るあの人の前で佇む私は顔を大粒の涙で濡らしていた。

せっかくあの人のために着飾ったのに台無し。

すやすやと眠るあの人の表情には生が宿っているのに、目を覚ましてはくれない。

どれだけ大声で泣き叫んでも、体を揺すっても起きてはくれなかった。

体に傷は一切ないというのが、その残酷さを表している。


原因は分からない。そしてこれから先目を覚ますのかどうかも分からない。

もうあの人の笑った顔もあの優しい声も聞けないのだと思うと、心がどうにかなりそうだ。



それから季節は、春、夏、秋と過ぎていった。

私は来る日も来る日もあの人の病室へ行き、目覚めを待った。


だけど、いくら待っても起きてくれることはなく、

悲しさと寂しさが心を覆っていた。




(あの人さえ目覚めてくれるならば私はなんだってするのに・・・。

何を失っても構わないというのに・・・。)


(本当かい??)


そう思った瞬間、誰か分からない少女が私に問いかけてきた。

少女は最初からそこにいたかのように、見つめてくる。



あの人が眠りの世界に閉じ込められてからちょうど1年目、

私は不思議な少女と出会った



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