師弟。
「おや……。珍しい奴が顔を出したね。……もしかして物の怪かぃ?」
「そうだとして、その判断が出来ねえほどに耄碌したか、ババア。いいから入れろや、こちとらこんな糞山ん中二日も歩かされてんだぞ。」
「いっひっひ。それだけ口が悪ければ本物だね、ああ、入りなよ。」
「酒。買ってきたぞ、あと適当に。」
「ほう、! 手土産なんて文化を覚えたのかぃ!」
「買ってこいと手紙に何回も書いたのはてめぇだろうが。ったく、俺だって暇じゃねえんだぞ。」
「ああ、らしいねえ……。時々、あんたの噂を聞いたよ。あの小汚いくそガキがよくもまあ。」
「昔話をする気はねえ。それで、何の用だ。」
「ん?」
「惚けんな。会いたいだなんて糞みてえなこと書きくさりやがって、何が望みだ。」
「いっひっひ。ああ、そういうことか。」
「言っておくが貸す金もやる金もねえ。仕事ならしっかりと請求するからな。」
「ないよ。」
「は?」
「なんだい、もう耳が遠くなったのかぃ。」
「いや、そういう意味じゃねえよ。意味わかんねえの、は? だよ。え、おい、マジで言ってんのか。」
「わたしが嘘をついたことは、……ダメだね、数えきれないくらいあるよ。」
「よく分かってんじゃねえか。」
「だけど今回は本当さ。別になにもないよ、あんたに頼みたいことなんてね。」
「じゃあ、なんだ。意味も理由もねえのにこのくっそ忙しい俺様を二日間も山ん中歩かせて、ついでいえばその山に着くまでに1週間もかかるようなこの腐れ田舎に呼び寄せたってのか。」
「更に言えばそれが帰り分もあるね。うける。」
「シバきあげ飛ばすぞくそババア!?」
「いっひっひっひっひ! いかん、腹が、! 腹が……!」
「帰る! くそったれ! 本気で時間を無駄にした!!」
「今から行くと夜になるよ。」
「どうせ二日もかかる道のりに夜になるもクソもねえわ!」
「それもそうだね。」
「ああクソ!!」
「そうそう。」
「なんだ!!」
「ありがとうね。」
「あ”?」
「会えて、嬉しかったよ。」
「…………。」
「他の馬鹿達と違って、本当にちっとも連絡を寄越さなかったからね、あんただけは。だから、ありがとうね。」
「…………。」
「どうした。行かないのかい。」
「…………。死ぬのか。」
「死ぬよ。」
「そうか。」
「ああ。」
「じゃあな。二度と来ねえよ。」
「元気でね。」
「くたばれ、くそババア。」
「くたばるよ、くそガキ。」