先輩と後輩。
「月が綺麗ですね。」
「……愛しています。」
「有名な言葉だけど、返しがあるの知っているかしら。」
「知りませんでした。」
「このまま時が止まれば良いのに、とか、遠くにあるから綺麗なのです、とか。イエスとノーと、複数あるらしいわ。」
「へえ。」
「感受性豊かな日本人らしい言葉と言われることもあるけれど、私は単純に恥ずかしがりやだからなんじゃないかなと思うのよ。」
「確かにそうかもしれませんね。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「……。興味ないかしら。」
「今は放課後。ここは手芸部の部室。僕らは部員。」
「ええ、その通りね。」
「部活動しましょうよ、先輩。」
「……針と糸とは相性が悪いわ。」
「そうですか。」
「…………。」
「…………。」
「そこは、じゃあなんで手芸部なんですか! とか言っても、良いのよ?」
「お断りします。」
「言っても、良いのよ?」
「お断りします。」
「……言ってほしいなぁ?」
「お断りします。」
「いじわる。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「……僕としては。」
「うん!」
「愛しています、と直接的に言われたほうが好きですね。」
「そ、そう? やっぱり男の子側としてはそうかな?」
「さあ。あくまでも僕は。ですので。」
「ううん。とっても参考になるわ、ありがとう。」
「いえ。…………今日からでしたっけ。」
「え? ……ああ、! ええ、そうよ。今日から家庭教師で来てくださるのよ。」
「頭良かったですもんね、部長。」
「ええ、頭も良くてスポーツも万能で、それでいてすっごく優しいのよ。私がまだ一年生だった時にね!」
「100回は聞きました。」
「……もう、いじわるね。」
「…………。」
「…………。」
「すぐ言うんですか?」
「え?」
「告白。」
「ぇ、いや、べ、別にそういうのじゃないわよ!? その、そういうのじゃなくて、さっきのも、一般的にはどうなのかなーっ! って、そう一般的にね?」
「そうですか。」
「あっ、あっ! それ信じてないでしょ! ねえ、!」
「キリが良いので帰りますね。」
「ねえ! 話聞いてないでしょ! ちょ、ちょっと待って! 私も一緒に帰るから少しだけ待、! どうして動き早くなるのっ! ぁ、ぁ、あ~~っ!」