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大いなる、黄の残滓⑤

「カレトハニド、オアイシマシタネ……イチドメハ【オオイナルオウ】ニオアイシタトキ。カレハニンゲントノコウリュウヲメザストカンガエテイマシタ」


「おーいなる、おー」


「こらっ、はなださん、茶化しちゃダメですよ……でも、黄衣の蜥蜴さんは私達の知り合いと交流というよりは、交戦したと聞いています」


黄衣の蜥蜴との具体的な遭遇状況や、攻撃方法等はアリさんからも聞いたわけでは無い。だが当時とはいえ、かなり上位のプレイヤーが4人集まってギリギリ勝てた程の戦闘とあっては、中々友好的でなかった様子は想像に難く無い。


そんな俺達を他所目に、湯煙こと黄衣の虚はソウソウ、と更に声音を上げ上機嫌になる。


「カレハホカノモノタチ、トクニアナタガタヤワレワレノヨウナ【ソト】カラキタモノタチカラ、イロイロナコトヲマナビナイトイキゴンテイテ、ソノタメノイクサ、マジワリダトマンゾクゲニカタッテイマシタヨ」


『学ぶために戦う、っすか?』


「あれじゃないか、習うより慣れろ、みたいな」


「肉体派なんですねぇ」


武人的思考だな、刃を交えれば流派だけでなく癖や思考回路、はたまた性格まで達人同士なら通じ合うとか言う話。肉体言語。黄衣の蜥蜴さんは中々の武闘派だったようだ、返り討ちにされたけど……。


そう言えば、黄衣の虚は蒼の飛蝗の存在は感じ取っていたが……黄衣同士は感じ取れるのだろうか?感じ取れるのなら、黄衣の蜥蜴が既に討伐されていることにも気づきそうなものだが。


「カレトノニドメノコウリュウハ、コノモリニオトズレタサイニアイサツシタテイドデシタガ……カレハクルヒモクルヒモ、イロイロナコタイトコウリュウデキルコトヲヨロコンデイマシタ……ソレコソアオノモノタチノコトナドワスレタカノヨウデシタガ」


「それで、その黄衣の蜥蜴って奴は……何というかこう、特別なスキルを持ってなかったのか?」


「スキル……スキルトハ?」


スキルは通じないか。街中のNPCなら通じるんだが、黄衣の者達には浸透していないのだろうか。


だが間違いなくあるはずだ。死後に発動するにしても、スキルか魔法か、流石にアイテムでは無いと思いたいのだが、何かしら効果が発生している以上必ず有る。


『スキルってのは…私達が使う技みたいなものっすよ。見た事ないっすかね?』


「ワザ……アァ!アナタガタガエネルギーヲトリコムトトキオリオモイガケナイウゴキヲスル、アレデスカ。ナルホド……シカシナゼソンナコトヲキクノデスカ?」


「うっ……それは…えーと」


参ったな。呪いの事を話すなら、討伐した事はバレそうだ。黄衣の蜥蜴に対する、虚さんの好感度は高そうだし、最悪この場で湯煙が襲いかかって来そうだ。


この場には柴鴨thはいないので増援も間に合うかどうか……一応空気を読んだのか、柴鴨thは嫌々移動の準備を始めていた。戦闘が始まれば、臭いを我慢しながら向かって来てくれるのだろう。


返答に詰まる御薬袋さんをほったらかしにもできず、かと言って上手い言い訳も思い浮かばないので、最早開き直る事にする。どうせ隠してたって神経を使うやり取りが続くだけで、黄衣の者同士で気配を感じ取れるなら無駄な努力だろうしな。


「……あー、申し訳ないんだけど。その黄衣の蜥蜴を探してるって知り合いがさ、戦闘した時に黄衣の蜥蜴を、倒しちゃったんだよ」


「アァ、ヤハリネ……マァカレノコトデスカラネ」


「……怒らないのか?」


「オコル?……アァ、ソレデズットアナタガタフタリハキンチョウシテイタンデスネ。オコリマセンヨ、ムシロナカナカニオモシロイデス」


面白いと来たか。ケタケタ笑うように小刻みに湯煙を振るわす様子から、確かに怒気は感じ取れない。


意外に仲間意識は薄い、のか?


「アァ、ワレワレモヒトシクトキノナガレニイルトイウコトデスネ……ソレデタオシタアトノカレニマダヨウジガアルノデスカ?」


「用事というか。黄衣の蜥蜴が呪いやさっき言ったスキルなんかを使うとかは知っているかなと」


「トイウト?」


情緒の不安定さというか、どこに何の琴線があるのかが判らず、話す際に一抹の不安感はあるが、割とすらすらと理解はしてくれているようだ。


黄衣の虚に、アリさんから聞いた症状を詳しく説明し終えると、途中から更に愉快そうに相槌を打っていたが、ついには高らかに笑い出した。


「ヒ、ヒヒッ!ジ、ジツニ、カレラシイデスネ。アー、オカシイ。ナルホドナルホド、ノロイナンテトンデモナイ。ソレハ【シュクフク】トイッテモイイデス、ソウヨビマショウ」


「ど、どういうことでしょう?」


「カレハイマハノキワニソノモノラヲ【シュクフク】シタノツモリダッタノデショウ。ヨウスルニ、ミトメタアイテニナンラカノテダスケヲシテアゲタワケデス……アナタガタニハ【ノロイ】トウケトラレタヨウデスガ……フフッ」


終始含み笑いをしながら説明してくれてますが、いやホンマ笑いのツボどこやねん!……おっといかんいかん。


しかし、あのチラチラ視界の端に四六時中何かしら得体の知れないものが映り込んだり、泥しぃのようにアンデットモンスターに追われる羽目になったり、とてもじゃないが【祝福】なんてワードが適切とは思えない。


「その【祝福】ってのは今言った作用以外にも何かしら隠された効果がありそうかはわかるか?」


「イヤ、ナインジャナイデショウカ。マァワタシモホンニンデハナイノデ、シサイマデハハアクデキマセンガ」


「なら尚更、それが【祝福】である意味がわかりません」


だよな、どう考えても【呪い】側だよ。効果の不気味さ、意味分からなさや今のところ敵が死んでから発動する辺りから、そうとしか思えない。


だが訝しむ俺達を他所目に、黄衣の虚は上機嫌に話を進める。


「イヤハヤ。モノゴトトイウノハ、ウケトリカタシダイナノデスネ。ベンキョウニナリマシタヨ」


「え?どういうこと?」


「ニンシキノソウイデスネ。……タトエバ、アナタガタノオシリアイハ、オソラクデスガ【セイレイ】ヲカシカサレタノデショウ」


精霊……鳥野内くんが見えるって言ってたな、あれのことか?いやでも、そんな視界の端に僅かに映る、なんてホラーな様子ではなさそうだったけど。


御薬袋さんも同じところに行き着いたのか、「カワセミさんのあれですかね?」と同意を求めてくる。うんそうだね、あれしか思い浮かばないね。


「コノセカイニハセイレイガタクサンイルコトハ?」


「知ってる、別の知り合いが精霊が見えるらしいんだが……とても友好的そうだったぞ?」


『なんすかそれ、精霊とかいるんですか?』


おっと柴鴨thは知らないのか……精霊って魔法職関連のスキルやアイテムで薄らテキストに書かれてる事がある位だろうし、無理もないか。柴鴨thはゴリゴリの前線職みたいだしね。


「ユウコウテキカ……オモシロイオトモダチデスネ。コンドソノカタトモオハナシヲシテミタイ。サテ、セイレイデスガ、ソノカタノヨウニミナガスカレルワケデハアリマセン」


「懐かれやすい人がいるって事ですか?」


「マァオオムネ。セイカクニハヒトダケデハナク、バショヤモノ、モンスターヤホカノシュゾクデモ、ナツカレルモノハナツカレマス」


成る程、じゃあ。


「つまり、俺達の知り合いは嫌われていて、精霊が逃げたり嫌がらせをしていたって事?」



「ソウナリマスネ」


『オゥ……』


つまり?照れ屋だったり怖がりだったり人間嫌いだったりする精霊さん達が?常に視界に映らないように移動していたのがギリギリ見えていた?


んなまっさかー。


「だとしてもそんな四六時中映るくらい沢山いるものなのか?」


「ハイ、イマスネ。ソレハモウワンサカ」


「わんさか」


ワンサカ。分裂増殖する茶色い毛だまみたいなモンスターを想像してしまうが、精霊って言うからには何かしらの力を持った超自然的な存在だろう。


そんなものがワンサカ居てしまって良いのか?


「ミナサン、カンチガイシテラッシャルヨウデスガ、セイレイトハエネルギーヤシゼンノヨウナモノデスヨ。アナタガタハドウヤッテセイメイヲイジシテイルノデス?」


「それは……呼吸して、寝て、ご飯を食べて、は、排泄、して、ですかね?」


ちょっ‼︎照れながら言うなし御薬袋氏〜。ほんのり頬を染めた御薬袋さんに、湯煙状の体をぬぼーっと伸ばしまるで親指を立てたかのような、グッとサインを模る黄衣の虚さん。


時々見え隠れする人間的表現が、逆に違和感だな。


「セイカイデス……デハコキュウデナニヲドウシテイルノデス」


『これはわかるっすよ!酸素を吸って、二酸化炭素を出してるんすよね!』


「ソウラシイデスネ、ニンゲンノイトナミニジッカンハモテマセンガ、リクツハワカリマス。サテ、ソノクウキハ、サンソハドレクライアルノデショウ?」


え、そりゃあ。


「「いっぱい?」」


「ハイ」


え、じゃあ呼吸する度に精霊達を吸い込んでるって事?(錯乱)わからん、え、そんな視界いっぱい、溢れんばかりの精霊達が今も俺達の周りを?


いやいや、それは幾ら何でも。鳥野内君も具体的に精霊の動作を伝えてくれていたし、少なくともそんな集合体じみたものを直視した人間の言動ではなかった。


「でも!俺達の知り合いはそんな大量の精霊を見ているような様子は無かったぞ」


「ソレハ……マァジュヨウスル【ホウコウ】……イヤチガイマスネ。アナタタチフウデスト【チャンネル】ガチガウトイイマスカ。オソラクアルテイドチカラヤマリョクヲフクムセイレイノミ、ミエテイルノデショウ」


「つまり俺達はゼロチャンネル?」


「ミエテイナイノデスヨネ?」


な、る……ほど?


要は、【呪い】か【祝福】かは微妙なところではあるが、【黄衣の蜥蜴】は自分を倒したアリさんの旦那さん、つまり手背臼さんを認めてそれを授けて。


で、精霊が知らぬ間に見えるようになったのは良いもののなんの説明も受けてないし、肝心の精霊自体は逃げ隠れするもんだから、不安を誘う存在にしか感じれなかった、と。


「……え、これどうしよ」


「黄衣の虚さん」


「ドウシマシタ、エルフノ」


「仮にですけど、それは虚さんも私達に【祝福】を授けて、更に解除出来るのでしょうか?」


原因というか、起きてる現象は判明したわけだが根本解決はしていない。御薬袋さんが解除法を確認はしてくれるが、それは。




「ホドコシタコトガナイノデワカリマセン。ガ、ドノミチフカノウカト。カレハモウソンザイシナイノデスシ」


「つまり?」


「つまり、呪いじゃなくて祝いだから気の持ちよう」


「気の持ちようって……解決策なしっすか」


「そうなります、ね」


あちゃーと顔に手を当てる柴鴨th。あれから俺達は話し過ぎたのでそれでは、と文字通り唐突に煙に撒かれたので柴鴨thと合流していた。


臭いが届かない湖畔の辺りまで引き返し、画面越しに見ていたとはいえ、しっかりと柴鴨thにも情報を報告する。


「あ、それと。黄衣の虚が消える前に、残念がってたぞ。柴鴨thに【祝福】を授けたかったって」


「私にっすか⁉︎なんでまた」


「さぁ……正直AIとか機械的な物と話しているような、何処か噛み合わない方でしたからね」


その通り、まぁ厳密にはWAO内に存在している以上AIやら制作陣やらにプログラムされた存在ではあるのであってるっちゃあ、いや、無粋無粋。そう言った針の穴を突くようなロジックは嫌われるのである。


柴鴨thが気に入られたのか何かは知らないが、確かに初めの遭遇した直後もわざわざ柴鴨thに通話を繋ぐよう指定されたわけだしな。何かしらの要素があったのだろう。


「【祝福】ねぇ……ありがたいやらなんやらっすね。それで、どうします?」


「それなんだがな、やっぱり黄衣の蜥蜴の棲家に行こうと思うんだよ」


「え、はなださんアレ受けに行くんですか?」


アレ。アレとは、黄衣の虚が去り際に零した一言だ。


『アァ、ソウソウ。ワレワレハタトエコノミガクチヨウト、アルテイドノザンシハノコリマスヨ。カレノスミカナラアナタガタモ【シュクフク】ヲウケレルカトオモイマスヨ』


だそうだ。棲家も目星はある。ぬた場だ。まぁ場所は分かったとはいえ今は南部、目指すは北部だ。少し時間はかかるが。


だがメリットは大きいと思ったのだ。精霊が可視化される……かもしれない。もしも鳥野内君のように協力をお願い出来るほどの精霊と知り合えるなら、スキルや魔法以上に役立つ場面もあるだろう。


「大丈夫なんです?そのお知り合いは病んじゃったんすよね」


「あー、まぁ、それなぁ。体験してないからあんまり大口は叩けないけど、ネタが判ってるなら怖くないかなって」


昔からホラー映画やゲームなんかも対策法が判明したり、なんなら出てくるタイミングが判ればそこまで恐怖は感じなかった。つ、強がりなんかじゃないんだからねっ!


実際、手背臼さんにしろ他のメンバーの方にしろキチンと説明すれば復帰も夢じゃないと思うんだ。正体は精霊なんだし。


「まぁ、私は止めはしませんけど、遠慮はさせてもらいます」


「私もっすね。ただでさえ次に黄衣の虚と遭遇したら祝われそうですし、重複はちょっと怖いっす」


そうか、柴鴨thはその可能性もあるな。二重に【祝福】を受けれるか分からないから、折角【黄衣の虚】がくれると言ってるんだからそちらを優先したいと。それに反感買って襲われるかもしれんしね。


となると、現場に入るのは俺だけか。黄衣の蜥蜴がもう倒された以上、残滓ってのがぬた場のどの辺りにいるか分からないので二人を連れてはいけない。


モンスターなんかが棲みついていたら厄介だが……まぁその時は撤退して来たらいっか!二人と合流すればなんとかなるだろ。


「了解、じゃあ二人はぬた場前で待ってて。俺は一通り探索だけしてくるから」


「はーい、じゃあ行きましょ行きましょ!時間ないっすよー」

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