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大いなる、黄の残滓④

見渡す限りの青。濃淡様々、更に生い茂る深緑とのグラデーションは正に随一の絶景かな。風と共に吹き抜ける木の葉の香り、更に湖畔周りには蓮の葉に似た植物も咲き乱れており、独特な甘い香りも混ざっている。


今まで通過してきた森林よりも、木々の間隔が広く、その木々自体も背丈が短いものが多くなり急に空が開けたように見える。


まだ【瑠璃湖畔】に入場して幾分も町から離れていないからか、観光目的のプレイヤー達が彼方此方で撮影したり、何なら素材を集めていたりするのが見受けられる。


「いやー……はぇ〜」


「綺麗ですね……時々風に混じって香るのはあの花ですかね?」


「そうっすねぇ、ここのもう一つの特産品【ゴハス】っす。色々使い道があるので、それも人気の秘密っす」


マイナスイオンでも出ているのか、まるで心洗われるようだが、やる事はやらねば!心に喝を入れ、改めて泥しぃに教えてもらった地点を確認する。


南部の地点はと……このまま中央に向かい直進しつつ、湖畔が見えたら少し右折。しばらく歩けば見えてくるっぽいな。周りに目立つ物はなく、強いて言えばプレイヤー達が行き交うメジャーな観光スポットからは少し逸れるか。


「この辺……ですかね?」


「だと思う。特に目印になるようなものもないけど、湖畔が頑張って背伸びすれば見れる辺りだし、ここらで曲がっておこう」


右折。曲がったからと言って湖畔が視界から消えたくらいで何も変わらない、瑠璃景色。そのままとりあえず直進すると、何やら様子が変わってくる。


先ず柴鴨th。何故か先程から黙りこくっていて、心なしか顔が青い。更に足取りも重く、要するに体調が悪そう。


更に周囲の様子、というか、臭い?先程までのゴハスの香りとは打って変わって、何というか、生ゴミ……卵?……お、これはこれは、もしかするのか⁉︎


「硫黄臭がしますね……ゲームにも硫黄ってあるんですか?」


「わかんないっすけど……わだじはパスっす。は、鼻がイカレる」


それでか。俺や御薬袋さんより鼻が効くのか、そもそもゲーム内において嗅覚に差は出るのか……いやでも、このゲーム視力の概念はあるんだよね。


一応キャラクリエイトの時点で選べるんだが、大体普段の自分のものと同等にする事が推奨されている。いきなりゲーム内だけ良く見えるようになって、脳が処理できなかったり、ログアウト後の交通事故が多発したケースがあったらしい。


視力以外は決められないのだが、視力があるなら嗅覚や聴覚に差を出す事も可能、なのか?運営のやる気次第だが、やりかねんな。


兎に角、柴鴨thはこれ以上こちら側には進む事が難しそうなので一旦湖畔の辺りで待機してもらう。東部のポイントに移動する際に合流する事にした。


「まっ白さんは平気?」


「はい、寧ろ自宅の近くには温泉もありましたので、懐かしい感じです」


「近所に温泉!はぇー、いいなー」


「良し悪しですよ。気軽に温泉を楽しめる反面、柴鴨thさんのような方は住みにくいですし、観光客が問題になったりもしますから」


あー、色々あるよね。ゴミだったり騒音だったり。偶に行くから価値があるのか。


そして更に歩く事数分。急に開けた盆地のような地形が目の前に広がり、木々の姿はその周りには見えない。代わりに盆地の中央には、10メートル有るか無いか程の大きさの湯気を立ち上らせる泉が、やはりというべきか、ポツンと存在していた。


「あったね、温泉」


「ありましたね、やはり……え、何処から?」


「まぁ岩場だし、有り得なくはない、のかな?鉱泉とかもあるよね」


確か冷たいけど、地中から湧いて一定以上の何かしらの鉱物が含まれる水がそうだった筈。目の前のものは湯気も出てるし、硫黄臭もするし、紛れもなく温泉だろうけども。


さてどうしたものか。現実だったら勿論服を脱ぎ、飛び込んではしゃいだであろうがゲーム内の温泉というのは些か苦手なのだ。


まず第一に、余程そういう目的のゲームでも無い限りダイブ中は下着を脱ぐ事は出来なくなっている。仮に下着だけの状態で脱ぐモーションを行っても、途中で謎の壁エフェクトで阻まれるのだ。


かと言ってそのまま入水すると……皆様着衣水泳は経験があるだろうか。俺は兎に角あの、肌に張り付く衣類の感覚が非常に不愉快で、泳げる筈なのに溺れて学校の教師に助けられた記憶が鮮明に残っている。


「え、入るの?」


「入らないんですか?一応ポイントはここなんですよね?」


「まぁ、そうだけど……じゃあとりあえずまっ白さん中から、俺外側からぐるっと調べてみるよ」


「……はーい?」


俺が渋っているのを疑問に思いつつも、素直に着水してどんどん温泉の中央部まで進んでいく御薬袋さん。なんだか普段より何倍も勇ましく見える。


女の子を一人で行かした手前、周囲の探索位はしなければと、慌てて喝を入れ駆け出す。温泉の影響か、周囲の岩場は今までの道よりもぬめりがあり、足元がかなり危うい。こんな所でモンスターが出てこなければいいのだが。


「はなださーん、いますかー?」


「いるよーっ!何かみつかったー?」


湯気で視界が曇り、お互いの位置がよくわからない。思わず大声になるが、よく有る現実の温泉のように反響しやすい地形では無いらしく、ピンポイントで声が聞こえるので分かりやすい。


結構真反対にいるようで、声は遠い。暫く返事はなかったが、「何も有りませーん」と元気よく調査結果が届く。まぁこちらも何もないんだけれども。


そうして何度か、お互いに適当な間隔で温泉の外側と中側でぐるぐると回ってはみたものの、目ぼしいものは見当たらなかった。


最後にはお互いに話しかけ合いながら、俺も渋々着水、もとい着温水し、合流した。


この温泉、意外にしっかり温泉していて温かい。寧ろ合流する為に動き続けていると汗ばんで来て、危惧していた着衣水泳の際の衣服の張り付きと重なって、非常に気持ち悪い。


裸で入りたかった……俺も遠足の希望温泉にすればよかったなぁと早速後悔気味になっていると、ほんの少し先に小さめの人型の煙が見える。恐らくあそこに御薬袋さんがいるのだろう、相変わらず視界が悪いので右往左往しているようだが。



「お待たせ、まっ、白……さん?」


肩でも掴んで知らせようかと出した手は虚空を切る。そこに感触など一切無く、湯煙が僅かに揺れただけだ。


「えぇっ⁉︎は、はなださん……じゃあこれは?」


少し遅れて湯煙の更に奥から御薬袋さんの驚いた声が飛んでくる。恐らく俺の声に反応したのだろうか、これとは。そして目の前のコレは……。



「お、お?…………おぉぉおおっとおぉ⁉︎」


「ひっ、ふっ、ふっ……ーーーっ⁉︎」


「ホ、ホ、ホゥーーっ⁉︎」



湯煙ぶち抜き、晴天巡りて、立ち昇る驚愕の声三つ……ん?


俺と、御薬袋さん……と。と?





『うっわぁ、ほんとにお化けみたいっすね』


「オバケトハナンダ、シツレイシマスネ」


見やすいよう、ライブカメラ機能を俺の体の正面に向けて、例の人型湯煙を写し込む。カメラの先には柴鴨thがいて、現在はライブ通話中だ。


そしてこのすっごいカタコトでお話しなさるのは、勿論人型湯煙君、さん?であり、彼か彼女かのご要望により、俺達から離れて待機していた柴鴨thに繋いでくれと頼まれたのだ。


自称【黄の虚】に。



いやめっさビンゴやん!……っは⁉︎体の中のエセ関西人が急に。兎に角、話を聞いていこうじゃないか。


「キミガ……アオニエラバレタモノカ?」


『蒼?……選ばれたってどういう事っすか?』


「ワタシ、ハナレタトコロカラキミタチガココニキタノヲカンジテイマシタ。コノバショニハコノフタリデキタヨウダケド、ドウシテ?」


会話が微妙に噛み合ってないな、というか此方の言い分は聞く気が無いのか?なにせ湯煙である以上表情なんかもわからないし、声に抑揚も無いので判断しづらい。


しかし、自称【黄の虚】はこの一連の事に関して関係者なのは確定だろう。黄と蒼、両フレーズ共に一度に出てくるなんて、そうそう無いだろうし。


『どうしてもこうしても……そこ臭くって』


「クサイ……ソウデスカ……マアイイデショウ。アオノムシトハドウイウカンケイデスカ?」


あおのむし?蒼か……虫……。そういえば、柴鴨thから見してもらった蒼の者のテキストに書いてなかったか。確か……。


「柴鴨th、あれだ、なんか素材あるんじゃない?」


『素材……あぁ、これっすかね』


柴鴨thが画面の向こうで、ちょいとインベントリから素材を取り出す。事前に見せられた【蒼衣の飛蝗】の素材、【蒼蝗の絹羽根】が数枚手のひらに広げられる。


途端に湯煙が解りやすく距離を置いた。飛び退いたという方が正しいのかもしれないが、湯煙であるのでそこまで素早くはない。だがあからさまに嫌悪が滲み出るような呻きも漏らしている。


「ムゥ、ソレ。……イケスカナイムシハドウシタノデス?」


『あの飛蝗達っすか?昔仲間達とか他のパーティーと一緒に戦って、倒したっす』


「ノコラズ?」


『……多分』


自信なさげだ。恐らくだが数が多すぎたのであろう。飛蝗、それも蝗害を想像するなら仕方のない事だ。実際に遭遇した事など勿論無いが、あんなもの虫が苦手とか以前に誰だってパニックになるだろう。


そんな中での他パーティーと共闘するなんて、しっかり撃破数や殲滅確認なんて出来やしないはず。討伐数はしっかり記録されていたが、元の数がわからない以上、全員の記録を見たところで当てにもならないだろうしな。


「フムゥ……ソウデスカ」


「そろそろこっちの質問とかも良いか?」


「アァ、アナタタチ……ソウイエバナンデコンナトコロニ?」


蒼の者関連に夢中になっていらっしゃったようで、此方に漸く気付いたような、再度驚いたようなリアクションをされる。相変わらずモクモクしていて解りづらいな。


御薬袋さんも最初はお化け的なものかと警戒していたのだが、柴鴨thが普通に話しているのを見て少し警戒が解けたようだ。今は俺の後ろからちょっと顔を出して、湯煙の様子を見ている。小動物のようで可愛い、今は俺の方が小さいけど。


「俺達は【黄衣の蜥蜴】って奴を探しに来た……仲間だよな?」


「オォ、カレ、カレデスネ……ナラバナットクデスネ。コンナナニモナイトコロマデヨクモマァ、キタモノトオモッテ」


「ま、まぁそうだな」


確かに、こっち方面は次のエリアに移るエリアボスがいる方向でもなく、素材が何かしらあるわけでも無い。プレイヤーも殆ど見かけず、見かけたプレイヤー達も道を間違えたかとマップを睨んだり、道を引き返したりしていた。


こちら側に来て長く滞在するプレイヤーは、確かに珍しいものなのだろう。しかし中々オブラートには包まないお方かな。


「カレハ、イイカタデシタネ」


「そうなのか?実は俺達は昔そいつと戦った知り合いから、手がかりを探すよう請け負ったんだよ」


「私たちは実際にお会いしたわけではないんです。どの様な方だったんですか?」


御薬袋さんが恐る恐るといった様子で会話に参加してくれる。一応まだ討伐したことは伏せておこうとしているのは、感じ取ってくれたみたいだ。


討伐した事が知れたら、湯煙からしたら俺達は仇敵か、その仇敵の所在を知る者だ。何されるかわからないからね。


此方からの質問に、暫くうんうん唸ったりして悩んでいるようだったが、湯煙さんが口を開く。その口振りには此方が心配していた交戦した事への咎めはなく、懐かしい故郷を想い馳せるような、初めてわかる感情の起伏が浮かんでいた。


「ソウデスネ……マァオチカヅキノシルシトシテオキマス。カレハ、ワレワレノナカデモヌキンデテ、アナタタタチノコトガスキナカタデシタヨ」

カタカナ表記は疲れるし、読みづらいものですね

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