リーマンになる前に③
「3点で890円です。」
あれから出かける支度を済ました俺は、家から徒歩数分のコンビニへ履歴書を買いに来ていた。先ずは職探しをするにしても、必要なものを揃えなくては。
コンビニの安っぽい籠の中には、帰ってから飲もうと入れた缶コーヒーと、朝食用の菓子パン、電子チケットが入っていた。
これで履歴書アプリに課金をすることによって、アプリ内での履歴書使用回数が増える。一昔前までは手書きでないと……と断るような会社も多かったようだが、近年の技術進化と、「電子履歴書にすれば何度も書き直しする必要がない」という声に後押しされ、これが主流となった。
履歴書は、就活をしていた時期に何度も使っていたので下地はある。少し訂正を加えるだけで完成だ。
ということで、自宅で朝食を取りながら訂正を加えることにする。10代であろう、まだあどけなさの残る店員にお金を渡し、コンビニを後にした。
まるで天気まで後押ししてくれているかのようで、昨日の雨は何だったのかというくらいの快晴だ。足取り軽やかに家路につく、働こうと思えるのがこんなに心地良いとは……
◆
「えー……ご希望の条件ですと……現在20件程ですね、ご紹介できます」
えらく萎びれた感じの印象を受ける、求人会社の女性社員が俺の端末に募集要項のページを送ってくる。この女性は覚えてないかもしれないが、俺はこの人に仕事を紹介してもらうのは2度目だ。1度目のは余りにブラック過ぎて退社してしまった例の会社。
着ているスーツはアイロン等は当てていないらしく、所々ヨレて、髪は辛うじてポニーテールにしてはいるが枝毛が目立つ。目の隈が酷くて、話し方なんかは普通なのに暗い印象を与えている彼女は、実は同い年だと以前聞いた。
即退社してきた俺に同情したのか、はたまた自分自身も社会への不安を感じたのか、しばらくしょーもない身の上話に付き合ってくれたのだ。その時は彼女に少し救われた。
「えーっと……体力系10件に飲食6件、倉庫関係…これに至っては社員じゃないですね。……最後はテスター、ねぇ」
心なしか前より体調が悪そうな彼女は申し訳無さそうに謝罪する。
「すみません……何分中途半端な時期ですし、地域指定があると中々……」
「あー、いえ。渉さんは悪くないです!こんな時期に、こんな履歴書スッカスカのやつが悪いんです!」
渉さんの名前は以前教えてもらった。彼女も名前を呼ばれて少し考えたが、思い出してくれたようで、ややはにかむ。あ、意外に……
「すみません……私としたことが。識守さんまた来てくださる気になったのに他人行儀な対応で……」
さっきのはにかみからまた申し訳なさそうな表情になる。実にもったいないなぁ……ともかく、このままでは謝り合戦になるので程々に諌めつつ、資料に目を通す。
体育会系と飲食はもう、分かりきった地雷職だ。キツイ、キタナイ、安い。代名詞だね。ゆとり通り越して悟りのもやしっ子にはきついっす。倉庫整理は派遣契約だな、求めていたのは腰を据えることだったので上記は除外される。
となると……
「ふぅん……【空百合】株式会社ねぇ」