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刺青、ウサギ……そして高まる厨二感①

「誠に反省しております……」


所変わって場所は社内のリラックススペース。大部屋の中にドリンクの機械や、イートインできるスペース、喫煙室などが有りお昼前のこの時間でも少なくない人の数だ。


我が会社は社員・外来スタッフの息抜き用にと多種多様なフリースペースが設置されていて、俺と御薬袋さんはチームでの初出勤ということでここで待ち合わせしていたのだ……2時間前に。


目の前には明らかに不機嫌な御薬袋さん。今日も今日とて大きい(色々)が、コーヒーをがぶがぶ飲み、指を机でタンタンしながらそれで?と目で訴えかけてくる。


「もうしません……」


「……あーあ……識守くんとの初出勤だからと張り切ってお弁当まで作ったんですけどねー……あーあー」


そ、れは……やばい。若干茶化しながらというかてへぺろ、みたいな雰囲気出してたのが一気に罪悪感膨れてきた。てか御薬袋さんお弁当って!


いくら同僚だからってそりゃやばいっすよ、大天使はもういるから……大精霊、マジスピリット。


「……あー、御薬袋さん。ほんとに申し訳ない。冗談じゃなく、しっかりするから……」


今回の条件の一つでもあるフレックスタイム制の出勤と、ある程度の成果を出さないといけない歩合制(後から説明があったが、色々目立った功績が有ったらちょっと手当てが出るらしい)、めっちゃ楽じゃんと思ってはいたが自分がいかに甘かったか痛み入る。


この働き方の場合、奴隷のように朝から晩まで会社で過ごさなくてもいい分、自らを律するというのが課題になるのだ。御薬袋さんには申し訳ないが、今ようやく思い知った。


「もういいですけど……明日から一緒にダイブする日は遅刻厳禁ですからね!破ったらなんか美味しいスイーツ奢ってください」


「了解、ありがとう、ほんとに申し訳ない」


「はい、いいでしょう。ほら、折角作りましたし……何故かもうお昼も近いですし、お弁当食べませんか?」


そういって机にお弁当箱を並べだしてくれる御薬袋さんは輝いて見えた……ええ子や。並べられたお弁当も、多分ほぼ手作りでとても美味しそうだ、何より唐揚げは正義!レモンは悪派。


お茶と紙コップまで用意してくれたようで、何から何まで周到というか手間を惜しまないのを単純にすごいと思う。


「すごい美味しそう……だけど、流石に申し訳ないから毎日は……」


「あら、識守くん毎日期待してましたか。私も流石に毎日は大変、というかなんかあれなんで。こういうイベント、とか節目みたいな時にだけ作ってきますね」


ふふ、とほほ笑む御薬袋さん、堅実。というかそのほほ笑みはダメです、そんなわけないと思っていてもコロッと落ちちゃうやつです。ちょっと心拍数が上がった。


「はい、じゃあ、いただきます!」


「いただきます」


やはりというか、もちろん味も完璧で。あーだこーだとダイブしてからの予定を話したり、ちょっとした世間話をしたりして、憩いの時間は過ぎていく。食べ終わって、食器だけ洗わせてもらってからダイブルームに移動した。いよいよお仕事です。



「お、まっ白ちろすけさーん!」


こちらから呼ぶとパタパタ駆け寄ってくるエルフの女性キャラが一人。このゲームではキャラメイキングで自身の顔にする必要もないし、かなり細部までパーツも指定できるので頑張ってメイキングすれば絶世の美女だろうが、超絶イケメンだろうが何でもありなのだが、いいパーツは課金制だ。


すなわちこの初心者の街【アタノール帝国】の城下町付近で、こんなに整った顔立ちのキャラということはよほどメイキング上手か、元の顔立ちが良いか、廃課金勢がたまたま居合わせたか、ということになり、まぁ目立つ目立つ。


御薬袋さんは元の顔に髪の色と体のスタイルの変更、身長を大幅に伸ばすことによって【容姿で身バレしない】という条件をクリアしていたようだ。だが、それもあってかなんというかエルフのお姉さん感がすごい、お姉さんってかお姉様だわ。


更に俺はあろうことか【呪胎】の刺青エフェクトが左目の周囲にでかでかと浮かび上がっている。おかげでなんか厨二病こじらせた痛い少女みたいな目で見られている、ぐ、ぐぅう左目が……やめろぉお。


まぁ目立つ目立つ。


「あぁ、識守くん良かったー。なんかこれだけ人がいてると中々見つけられなくて」


「まぁー、ここアタノールはホームタウンだから人口も多いしね、大丈夫大丈夫!後、ゲーム中は【はなだ】でお願いしまっす」


ネチケットネチケット、まぁまだそんな特定とかされるほどのこともしてないし大丈夫だけど、念のためね。話もほどほどに移動することに、目的地は街の服飾店。一応装備品は初心者セットを最初から装備しているし、帝国周辺くらいなら問題ないのだがなんせ俺の目が目立つ。


前回のログイン時に自分の刺青の場所は確認していたので、先ずはこの目立つ左目を隠してしまおうと眼帯を探しに行くことに決めていた。厨レベル上げに行くぞー。


しかしあれだなこうして並んで歩いていると……


「ふふっ、こうしてると私の方がお姉さんみたいですね」


「あ、人が言おうとしたの先に!」


俺の従妹基準で考えていたので、身長も150あるかないかくらいで作ってしまった今は、長身のまっ白ちろすけさんに見下ろされる感じだ。現実では逆に、俺の方が同じ分くらい大きいのでなんだか新鮮な感じ。


そうそうこんなこと考えてて思い出したがニッグの野郎、あいつこっちの【中身】当ててきやがったな。小僧とか言ってたしな……やっぱなんか特殊な能力とか直接プレイヤーの情報見えてたりすんのかなー。


「はなだちゃん、よしよーし」


「や、やめてください、中身俺ですよ!」


や、やめてくださーいとかやってると、着いた。服飾屋、まぁ何の変哲もない初期町にある初期の服飾屋なもんで、これまたなんの変哲もないおばさんNPCが店番をやっている。


一応、店内にはマネキンや棚に陳列された商品も置いてあるのだが、眼帯は流石にコーナーとかもないし見当たらないのでNPCに直接確認する。


「やぁ、いらっしゃ……」


おや?


「あ、あんた!一体白竜様に何したんだい!」


おやおや?


「え?ちょっと眼帯を……」


「何したか知んないけど白竜様の呪いを受けた奴に売る物なんかないよ!さ、出ていきな!」


ばしばしと店脇に置いてあった竹ぼうきで叩きにかかってくるおばさんNPC、痛い痛い!ダメージは食らわないけど衝撃は伝わるんだから!


仕方なしに店を出てきてしまった俺たちはしばらく呆然とするしかなく、道行くプレイヤーには容姿も相まってちらちら見られる羽目に。


「えっと……これって普通ですか?」


「いや、全然……これはマズイ、俺買い物出来ないかも」


「NPCってプレイヤーの顔覚えます?」


「覚える、常連みたいになったら受けれるクエストや情報とかもある、から多分まっ白ちろすけさんもここは使えないかも」


やらかしてしまった……せめて警戒して御薬袋さんに一人で入ってもらえば良かった。この町にある服飾店はNPC経営なのはここ1店舗のみ、後はプレイヤー経営の店なら行けるかもしれないが割高だ。呪胎の効果で所持金が一夜明けて半分以下になっていた俺のお財布で手に入るかは怪しい。


こうなったらもうダメもとでプレイヤー経営店を漁ってみるか。


「なんかごめんね、とりあえずプレイヤーマーケット見に行ってもいいかな?」


「もちろん、別にはなださんのせいでもないですし、気にしないでください!というか他の皆さんも困ってそうですよね……」


そうか、御薬袋さんの他には笹部さん以外は皆【呪胎】を受けている。刺青の発現場所はランダムっぽいけども、今後一切NPCから買い物をしないわけにもいけないし、二人にはしょっちゅう頼むことになるのかもしれない。


そう考えると受けなかったのが頼み易い、この二人でよかった……砂塚とかだったら頼みづらくて仕方ないし。


「まぁ皆気づいたら引っ張りだこになっちゃうかもね……ほんと、苦労かけます」


なんだかんだと二人でため息をつきつつ、テクテク歩いていると大きなレンガのアーチが見えてくる。アーチにはこれでもかというくらい目立つように【プレイヤーマーケット】と、ご丁寧に夜の時間帯には光るのだが、書いてある。


これはどのホームにも共通である施設で、外観もほぼ同じように町の中心付近に設置されている。中ではいくつかのルールはあるものの、基本的には自由に売買できる。RMTリアルマネートレーディングは一切禁止、発覚次第アカウント剝奪の上、再度のアカウント登録ができなくなる、というペナルティまであり平和なものだ。


店を構えて大口で販売するもの、物々交換形式や、日雇い労働みたいなパーティの募集なんかもあったりする。


「うわー、すごい、すごいですね!」


うきうきを隠すこともなく、色んな出店の商品を手に取ってははしゃぐ御薬袋さんの後をなんとなく妹と仲良くお祭りとかに出かけたらこんな感じかなぁと思い、思わず笑みを零す。何ニヤついてるんですかーなんて飛んでくるが、仕方ないのだ。


「おぉ、はなださん、あそこのすごく大きな建物。あれもお店なんですか?」


指さす先にはちょっとした学校位の大きさ広さの建物の群れ。まぁ色や形なんかはコンセプトにもよるんだがあれは……


「大店だったり、専門店だな。ようは大手だよ、リアルで言うマッケドナルデゥ、みたいな。このゲームをやってれば誰もが知ってるし、お世話になるお店さ。今こっから見えてるので言えば……食材卸の大手に、他主要都市との貿易大店、後あの煙出てるのが大鍛冶場だったかな」


「ほぇー、ほんとリアルみたいですねー。なんというかファンタジーの中にも商業味を感じますね」


「まぁ【なんにでもなれる】ってのもこのゲームの売りだからなぁ」


ホント、広場の真ん中では【大道芸人】ジョブの奴らがサーカス開いてたり、【風水師】ジョブは占い業してたりするし自由極まりない。俺達も【ギフト】で初期からジョブを与えられてはいるが、本来ならレベルが10を越えると選択する機会がある。


というか、ちょっと久々に来て俺も楽しんでいたが本題よ、本題。


「まっ白ちろすけさん、先に服飾店だけ探してくれない?終わったらお詫びに屋台でなんか食べよう、ゲーム内で食べるの初めてでしょ」


「え!確かに……食べ物の屋台も見かけてましたが、味はどの程度再現されてるんですか?」


「うーん……体感、9割、かな。ぎりぎりリアルの勝ち、位」


「それは俄然楽しみになってきました。じゃあ行きましょう!」


さぁ、ちゃんと買える金額であるかなー。



「いらっしゃい、【テーセウスの糸】へようこそー」


気だるげ、というか蠱惑的な雰囲気の女性店員から声がかかる。あれから服飾店を探し回ってぱっと目に入ったのがここだ。決して店員さんに目を奪われたわけでなく、店頭に並べられていた商品が非常にお手頃だったためだ、うん。


ここも先程のNPCが開いていた店と同じような規模の、恐らく彼女が個人で開いているお店で、見た感じ眼帯のコーナーもなかったので最初から聞いてみる。


「すみません、この店って眼帯とか置いてませんかね?」


「あら、貴方達ね。今結構この広場のチャットで話題になってたわよー……超絶美女エルフと超絶厨二美少女って」


「え」


忘れていた……今自分は見た目闇が宿った伝説の竜神っぽいことを……不覚っ。っとまぁ、ある程度は予想してたさ、どうしようもなかったしね。


「それで、隠すための眼帯を探してたのね……NPC店には無かったの?」


「それが……色々ありまして……」


「ふぅん……色々、ね」


頬に手を当て、考え込む姿がまたエ……なんでもない。というか色々察せられてんな、あんまり話過ぎるとボロが出そうだ。なるべく【呪胎】の情報は隠しておきたい。


「あるわよ、眼帯」


「おぉ、助かります!幾らですか?」


「2つあるけれど……こっちの赤のフリルがついたのが1000ドン、こっちの黒のシンプルなのは特殊効果付きだから1.5万ドンね」


くっそたっけえ!!そんなもん赤いフリフリは恥ずかしくて明らかに黒一択だよ、明らかに足元見てんな。ちなみに【ドン】は通貨のこと、1ドン=1円で簡単。


「……効果って?」


明らかに不機嫌になった俺の表情を見て、楽しそうな顔をする店員さん綺麗。


「着けていると任意のタイミングで1分間、ダンジョンやフィールド内での出口がわかるようになるわ。インターバルはあるけれど、何回でも使える」


むぅ、結構いい効果だ。デザイン的にもこれ一択なんだが……金がないな。多分俺と御薬袋さんの初期装備を見てわかって言ってるんだろう。いい性格してるよほんと。


「ちょっと費用無いんで諦めます、ありがとうございました。まっ白さーん、いくよー」


御薬袋さんは店のあちこちを物色して回ってた。あ、なんか淡い草色のマント持ってる、買うのか。


「あら、残念……そうね。今、時の人が折角来てるんだし、その刺青がなんなのかの情報と交換でもいいわよ。わざわざここに来たってことは、恐らくNPCからは買えない事情があるのよね、まだ始めたばっかりみたいだからあんまりお金もないだろうし」


目ざといな……どうする。ここでそりゃあ情報を渡すのが特に見えるが……ワールドアナウンスまで鳴らした出来事の情報だ。広まると厄介かも知れない。


「あれ?眼帯なかったんですか?」


「あら、お連れさんはそのマントね?良い目をしてるわ、それもこの眼帯と同じで特殊効果付きよ。着けていると任意のタイミングで30秒浮遊できるわ、これも何回でも使える」


わーありがとうございますー、なんて乗せられるんじゃないよ!眼帯もあるじゃないですかーじゃないよ!


「今ならそっちのマントも付けてあげるわ、どうかしら?」



どぅうえええい、こうなったら小出しだ、小出しでいこう。

俺のネゴシエイト力を見せてやるぜ!

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