リーマンになる前に②
俺はその時、一体どんな顔をしていたんだろうか。本当にフルフェイス型の防具を装備をしていて良かったと思う。
シバックスは大学を入学してから3年、碌に就活もせずフラフラと遊んだり、たまに金が無くなっては日雇いの仕事をする。そんな生活を送っていたと聞いていて、失礼な話だが勝手に同志扱いを行っていた、心の中で。
何やら彼は内定祝いと称してそこそこの課金を行なったらしく。ピカピカと虹色に輝く大剣を真っ直ぐと身体に沿わせるようにして持っていた。今日は彼が主役のようだ。周りのメンバーも彼を祝福している。俺だって嬉しい、のだ。
嬉しいのだが……
やはり、仕事を探さないと、かなぁ。
「シキさん‼︎ 避けてください‼︎」
なんだよ……あ。
彼の持つ虹色にボンヤリと見惚れていた俺の目の前には、いつの間にやらウッドロックの突き刺さる寸前の巨大な根の束が構えられていた。
【ウッドロック】とは、このゲームでのMP的なのが溜まり、発生したモンスター。枯れた巨木が猛威を振るうが、朽ちた大木部分より下の根っこが本体だ。
ログインして直ぐなので、肩慣らしがてら狩ろうと移動していたのだが。そんな感じで狩られる位にはステータスもUIも高くないモンスターだった。いつもならシバックスがヘイトを受け持って他がダメージを与えるが…今日はあいつアタッカーだったな。
衝撃、普通なら飛ばされそうな、まるで自動車と衝突したような衝撃を受けるが、身体は根に貫かれ、空に留まる。
パァンと、身体が砕け散る死亡エフェクトの音を最後に暗転。目が覚めるとリスポーン地点であるキャンプ地点のベッドだった。
◆
あれからプレイは続けたが、調子が上がらず途中でログアウト。寝てしまって解消しようとしたが、眠れもせず、モヤモヤとしながら寝転がっていた。
ワーカーホリックというワードが一昔前に話題になった。ブラック企業による強制労働や、身の上の事情で致し方なく仕事をしているわけではないが、一般的な仕事量より自ら多く引き受ける。仕事をしていることが楽しい。自分が認められるのが快感だ。そんな感情が行き着き過ぎた先が仕事依存症だ。
今の俺も大体同じで、周りが働いているのに自分だけ何もしていないのが、居た堪れないのだ。誰に咎められるわけでもないし、金もある。それでも、彼の言葉を聞いてから最近抱いていた焦燥感が一気に膨れ上がった。
世界は回る。俺がいてもいなくても、個人の話じゃなくて地球がそうなってるんだ。今も窓を外界から切り離しているカーテンの隙間から、その証拠の朝陽が差し込んで来ている。
もうそんなに時間が経っていたとは。
今日の予定は……もちろん無い。
今日は雨だとしても行ってみようか。ログインボーナスは……帰ってから、かな。
俺は今度こそ一念発起し、朝陽を背にベッドから重たい体を持ち上げた。