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初仕事、当たって砕けて、全力で⑦

「くっはあぁぁ〜、もうやってられませんよぉ」


目の前で雄たけびのように愚痴を吐いた男が、お次は勢いよくダン!とジョッキを店の机に叩きつける。こいつホント質の悪い酔い方すんな。自己紹介の時にいた、学歴マウントマンである。


「そうは思いませんか、笹部さぁぁん。俺TO大出なんでれすよ~」


「そうね、あれはとても面白かったわね。TO大出身だけど秒殺された御方 十夜(おがた とおや)くん」


「ぐっ……そ、それは、そうですが……」


そういって押し黙る御方くん、ざまぁ。そんなこんなで、俺たちはあの後無事に集合を果たして、集まれるもの達で居酒屋に来ていた。いやー、しかしこいつの話だけではないが、他の話も聞く分には俺達は大分ラッキーだったね。


あの時、全員のキャラメイクが終わってログインが始まった時点で、【ギフト持ち】、つまりは10人全員がAIの不正検出の対象となり別の専用リスポーン地点に落とされていた。


その先で待ち構えていたのが、【五使】と呼ばれるモンスター。俺たちの遭遇した白竜【ニッグ】、その他に黒い梟【ミナヴァ】、豪奢な神父【カクゥノス】、青い巨蛇【レピオス】、赤い鈴虫【トランブルネ】があの時を以ってWAO内に発生した。


これまでにWAO内ではその厳重なセキュリティ、複雑すぎるプログラムも相まって不正や改造的行為は一切なかったそうだ。それが売り、というか高評価の要因ではあったのだが、今回は内部からの工作だったので不正自体は達成されてしまった。


初めは困惑したゲーム管理AIも、身内の工作だとは気づきつつも公正さが勝り、俺たちは粛清されたというわけだ。そう、文字通り粛清だ。


俺も含め、今回【五使】によってキルされたのは8人。その8人共がキルされた際に死亡時のペナルティ、所謂デスペナルティを受けた。本来なら始めたばかりでレベルが10に満たない者にはデスペナはつかないのだが、五使によるキルには関係ないようで。


ペナルティの内容は【呪胎】、名前からして縁起でもない。


文字通り呪いを育てている状態異常。【ある期間ごとに増幅する呪いを身に宿した状態。段階により効能が異なる】とのこと。現在は【フェイズ1:ヘイト集中+日付更新時所持金減少(大)】だ。1段階目でも相当きついっす。


特に、まだ検証したわけではないが【ヘイト集中】はマズイ。ソロだろうが、パーティだろうが役割が機能しなくなる可能性が高い。どんだけ良いパーティでもそいつにしかヘイトが向かないのであればもうタンクにでもなるしかない。タンクなら神ペナルティだね。

そうなってくると恐らく、パーティ組んでくれる奴は激減するだろう……


しかも俺の【パパラッチ】との相性も最悪。隠密主体のジョブにヘイトが集中するなんて、最早致命的欠陥である。あー、人生つらいね。


そして、デスペナを食らった、ようは五使にキルされたのは【8人】。残る二人は……まぁ俺がぶん投げて落下死した御薬袋さん(ちゃっかり俺はプレイヤーキル判定も食らってる)と。


「まぁ、私は和解したけどもね」


笹部さんである。御方くんを軽くあしらいながら梅酒が好き、と美味しそうにちびちび味わっている貴婦人である。


「和解……ですか?」


貴婦人の正面で、これまた優雅にワインを味わう貴公子、秋月さん。


「そうよ、そういえば皆個人個人で束内さん達に報告したから、知らないわよね」


そう、あの後もれなく全員死んで予定通り集合場所には集れたのである。但し、【五使誕生】のワールドアナウンスは鳴るわ、全員一斉にエクストラクエスト【監視者】が始まるわで街は大パニック。特に【呪胎】は体に刺青のようなのが入ってるらしく、かなり目立っていた。


それに踏まえて、あのタイミングでの初心者のリスポーンは大いに怪しまれたのである。集ってはみたが、とてもゲーム内で固まって話せる雰囲気でもなかったため、ログアウトして現実で報告をすることになったわけだ。


「私は内容教えちゃうけど、御薬袋さん達は無理しなくていいからね?束内さんから説明があったように、基本的には得た情報は任意で報告することになってるから」


「だ、大丈夫です!折角集まってくれた人たちだけでも共有しましょう」


流石道山さんに次ぐ天使。道山さんが大天使、御薬袋さんは天使、俺は天使をぶん投げた漆黒の堕天使……ちょっと酒が回ってきたかな。あ、ちなみに大天使は俺の左、天使は右です。役得。


「そうね、ありがとう。さて、じゃあ私と、そこのTO大卒の御方くんはね……とても深い森でね、とても大きな黒い梟に出会ったの」


「あれは……心底恐ろしかった。森の暗闇から……こっちをあの赤い目で……っおぇ」


おっと、吐くならトイレ行きやがれ!ギリギリ堪えたのか、いそいそとトイレに移動していくTO大卒。品格はどこへやら。


「あらあら、若いわねぇ。……それで、梟は【ミナヴァ】と名乗り、私たちが不正をしたから粛清に来た、と告げたわ」


これね、とちゃっかりフォト機能で撮った写真をみんなに見せてくれる。俺より全然パパラッチじゃん、すっかりフォト機能とか忘れてたわ。全然メニュー欄にあるんだけどね。


「これはまた……ちょっと鳥肌立っちゃった」


わかるよ、大天使。根源的怖さを感じる。真っ暗闇に浮かぶ赤い瞳、うっすら輪郭が見えるその巨体。羽は黒く、滑らかだが、光を吸収し、より一層闇と体を同化させている。俺これニッグでよかった……こんなん落ちた直後にいたらチビるわ。


「彼女はね、私たちが何故不正をしたのか問うたわ。それで、先にあの子が答えずに取り乱した。で、気づいたらあの子は梟の嘴の中だった」


「食べられた……んですか?」


「いや、へし折られてたわね。その後は消えちゃったけど消えるまで、へし折られ続けていたわ。どうせ歯向かっても無駄だし、私は手を出さなかったけれども」


御方……じゃなかった、TO大。不憫な奴……まぁそんな反応も妥当な怖さ。めっちゃホラーじゃん。てか女性なんだね。


笹部さんの話は終わらない、俺も適当な突っ込みを入れているが、つくねをもぐもぐしながら真剣に聞いている。


「あの子が消えて、私とミナヴァだけになったわ。それからは、まるで小さな子を相手するかのように、何故何故、だったわ。何故不正をしたのか、何故生きるのかとか、哲学みたいな話を延々続けていたの」


「攻撃はされなかったのですね……答えていたからか、あるいは笹部さんがミナヴァにとって正解を出し続けていたからか……僕らは気づいたら死んでたからなぁ」


と秋月さん。先に聞いていたが、自らを鈴虫【トランブルネ】と名乗る、得体のしれない何かに、得体のしれない攻撃をされて気づいたらキルされていたそうだ。


「そうねぇ、まぁ彼女たちにもなにかしら基準やこだわりでもあるんじゃないかしら。それである程度納得したら去って行っちゃたの。で、仕方なく真っすぐ歩いていたら普通にモンスターに襲われて死んじゃったわ」


成程、だからデスペナはなく、死に戻れたわけか……ということはだ。


「笹部さん、差し支えなかったら、なんですが……なんかミナヴァ関連で報酬や称号もらったりしてません?」


「あら鋭いわね、識守くん。そう言う貴方ももらったのね」


更に鋭いじゃないですか、と。まぁこんなこと言い出したらそう思われるのも無理はないか。


「え?そうなの?識守くん、私だけ投げ殺しといて……そうなの?」


な、なんか右隣から圧力がすげえんですけど……ご、ごめんなさいぃぃ。ちなみに御薬袋さんはただ死に戻りしただけ、何にも貰ってないし、何にもペナルティもなし。


「まぁまぁ、その辺にしてあげて。識守くんもこの後ちゃんと説明してあげなさいね」


「あ、はい……じゃあちゃんと説明してくださいね」


ありがどお笹部ざん、やばかった。梟も目じゃなかったよ、何がとは言えないけど。笹部さんに言われてちゃんと元の御薬袋さんに戻る、なんかお酒入ってるにしても段々色んなとこが見えてきた気がするなぁ。


「そうね、ミナヴァが去ってしばらくしたら称号とアイテムが手に入ったわ。【有識者】と【宵闇の風切り羽根】を手に入れていたわね。」


「確かこのゲームでは称号はステータスアップや特殊な効果、ジョブやクエストの条件だったりするんだよね」


その通り、道山さん。彼女はこのゲームどうやら初めてだったそうで、色々お勉強中なのだ。


「の、ようね。さぁ、私はこんなものかしらね。次はお二人よ?」


そういって視線が俺と御薬袋さんに集まる。まぁ、笹部さんは全部話してくれていたわけだし、俺も頑張りますかね。


最近ちらほらとブックマーク等してくれる方がいらっしゃって、大変励みになっております。

本職も忙しく、更新も早くはないですが応援の程、よろしくお願いいたします。

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