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初仕事、当たって砕けて、全力で④

白い、ただ一面真っ白い世界だ。耳元では風切り音がびゅうびゅう吹いていて、むしろそれ以外の音はほとんど聞こえない。待てよ、風切り音!?それになんで視界一面真っ白なんだよ!?体には未だ浮遊感、感というかほんとに浮いてるわ、これ。体全体で空気抵抗を感じる。風圧すごっ!


いや、普段はログインしたら、確かに一瞬の浮遊感と真っ白な視界にはなるが……こんな長時間、しかも謎の風圧。なんだこれ。そうこう考えていても変わらない現状にちょっと不安になってきて、とりあえずステータスウィンドウを開いてみる。このゲームではステータスを見たい、と念じるか(考える、で反応しないのがミソ。誤って開くのを防げる)「ステータス」と宣言すれば開く。


うん、まぁいわゆる普通の初期ステータスかな。ログアウトボタンなんかはまだ押せないようになってる。これは元からの仕様で、簡単なチュートリアルが終わるまではログアウトできないようになっているのだ。

となると、どうしようもないな。これがバグなりなんなりなら、束内さん達が気づいて対処してくれればいいが、それもいつになるやら……これから1.2時間こんな感じかと思うとぞっとするね。



とかなんとか考えていたら。


ボッ!!とまるで空気が張り裂けるような音と、若干なにやらふわふわした霧状のようなものに包まれたと思ったら視界は白から、雪景色に様変わりだ。雪景色と来たか……だめだ、わからん。前に【アタノール・人族】でプレイしたときはこんなシナリオなかったしなぁ。


そしてようやく思考回路がつながってくる。これはあれだわ、空飛んでるわ、俺。正確には落ちてる。よくあるアニメのOPみたいな感じかな、謎にみんな満面の笑みか真剣な顔して落ちてきてるの笑っちゃうよね。今?凄い風圧で唇ばるんばるんなってる。


しかし雪、あたり一面雪で、なんにもない。ほんとに雪野原の真ん中に向かって俺は落ちて行っている。こうなってくると重要な問題が一つ。このゲーム、物理演算もほぼ現実の法則に則って行っているんだが……この高さ、さっき雲を突き抜けた辺りか、そこから落ちたらどうなるか。


ましてや初期ステの現在、しっかり着地しようが、五点接地法で着地しようが、多分死ぬ。唯一の望みは雪原だということ。ふっかふっかで深めな積雪だったらワンチャンあるかないか、ないか。


とかなんとか思っていたらもう地面はそこまで……「おぉぉぉぉおおぉぉおお……!?」


寸止め、奇跡的寸止めで浮いてる。もう鼻先が雪でひんやり冷えてきたくらいにはぎりぎりだった。あぁ、もちろん頭から行ってました。やがてふんわりと全身が地面に着き、なんだか知らない浮遊感も消え去る。


さて、実を言うと。



「あー死んだ、絶対死んだ。ありがとーございましたー」


ちょっと離れた所に、一人女性キャラが落ちてきていたりする。なんだったら雲抜けた辺りから実はちょっと見えてはいた。まぁ、状況的に御薬袋さん、なのかなぁ。


それにしてもまだこっちに気づいてないのか、ずっと一人でぶつぶつ「冷たい……これが死後の世界か!」とか「あー、ホラー作品だと途中で見つかったけど実は序盤で殺されていたトリックに使われそうな死体になるー」とか、意外にも楽しそうだな。


「御薬袋さん、ですかー?」


近くまで行って頭上から声をかける。WAO内ではプレイヤーネームがキャラの少し上に表示される。そこには【まっ白ちろすけ】、長身で金髪色白まな板な、エルフさんが一人。おぅ、まな板になっちゃったよ……悔しくなんかないんだからね。


「おほっ!!」


なんとも居た堪れない嗚咽の後、そのまましばらく沈黙。みるみる真っ赤になるエルフ耳に、感情からパーツごとの体温上昇まで再現するとかぱねーと感心する俺と裏腹に、ついに悶えだしたエルフっ子を起こし上げるべく手を貸す。


「あ、ありがとうございます……識守さん、ですかね?」


「そうだよ、よろしくね御薬袋さん」


「気づいてたなら言ってくれても……って、女の子じゃないですか!?」


なんか平然を装いながら雪を払うまっ白ちろすけこと、御薬袋さんだったが俺の風貌にようやく気付いたのだろう。色んなところにぺたぺた触りながら確認してくる。やめろ、世が世ならセクハラだぞ!


「ま、まぁね、俺だってわかんないでしょ、言わなきゃ」


「わかんないです、が。ちょっと元のパーツも入ってますよね?なんとなくですが面影を感じるような、そうでもないような……」


すっご、この子昨日今日あった他人の面影とか感じれちゃう系女子か。もう俺のこと好きなんじゃね?……いや、ないか、ないよね。きっと覚えがいいだけ。


「それにしても、ここがアタノール、でしたっけ?なーんにもないんですね」


「いや、ここは違うと思う。2年くらいはやってたけど知らない場所だ。雪のフィールドもあるが……こんなだだっ広いフィールドは見たことも聞いたこともないな」


御薬袋さんにはダイブ前にある程度経験者だとは伝えておいた。自慢じゃないがその2年ほどで結構な場所を見て回った自信はある。だが、こんなランドマークも何にもない雪原は記憶になかった。



「あら~……じゃあどうします?適当に歩きます?」


「そうなるかな、チュートリアルも終わってないし、最悪死に戻りかなぁ」





「初めてだな、この世界にお前らのような屑が現れたのは」


全く、前兆や気配もなく、気づいたら目の前に巨大な、蒼い炎を体中に灯し、見るからに敵対心剝き出しの竜がいた。終わったな、こりゃ。

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