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房総半島迎撃戦:破

東京都内に現れたサイクロプスとの交戦で、穂乃村 鈴音は身を挺して仲間を守り、戦いが終わった後に気を失ってしまった。

「ん……うぅん……。」


私は目を開く。簡素な布を鉄骨が支えているような天井……ここは上野公園のキャンプの医療テント内だとすぐに気がついた。


寝心地が良いとは言えない簡易ベッドに寝かされ、右手が熱いものに覆われている。それはさとっちの手だった。


「ほのりんのバカぁ!」


がばっとさとっちに抱きしめられる。彼女の瞳には涙が溜まっていた。


「あんな無茶なことして! 死んじゃったらウチどうすればいいのよ!」


泣いて大声を出すさとっちの背中を私は擦った。そうか、生きて戻ってこれたんだ。


「穂乃村さん……目が覚めたのね。よかったわ。」


私の右横から声がした。その声の主はベッドに横たわった静乃さんだった。

戦闘服の上からコルセットが巻かれており、とても痛々しい姿だ。骨折したのだろうか。


「静乃さん、大丈夫?」


私が様子を伺った。


「ちょっと肋骨にヒビが入ったみたい。でも里中さんが回復魔法を何度もかけてくれたおかげで大事には至らなかったわ。」


言葉を発するたびに痛みが走るようで、静乃さんの言葉は力みが混じっている。あまり質問攻めにするのは良くなさそうだ。


「まったく! ウチ回復魔法のほうが攻撃より向いてるみたいよ!」


さとっちは『やれやれ』といった様子で腰に手を当てて言った。

その時、医療テントに天文部の2人――ニルガルさんとメイガスさんが入ってきた。


「凡骨、目が覚めたようだな。礼を言うぞ、村正もなんとか無事だった。」


ニルガルさんは相変わらずの尊大な態度で私の無事を祝ってくれた。


「団長、キャンプに戻るまで泣いてた。」


メイガスさんが言うと、ニルガルさんの顔が赤くなる。


「なっ! ばっ! そんなこと、あ、あ、あるはずがないだろう!」


ニルガルさんは顔を背けてメイガスさんの背後に隠れる。

多分これが彼女の本性の一角なのだろう。


「お2人は無事でしたか?」


私は戦いが終わってすぐに気を失った。その後彼女たちに迷惑をかけていないか、それが気になった。


「おう! 我ら黒竜騎士団は最強だ!」


ニルガルさんは自信満々に言い放った。


「なーに言ってんのよ、あんたはずっと泣きじゃくってるしメイガスは魔力切れ起こして倒れたじゃない。」


さとっちはいたずらっぽく笑って言い放つ。


「6重魔法は燃費が悪いし、2人分念力で浮かせて運んでたから仕方ないのよ。」


メイガスさんはあっけらかんとして言い返し、ニルガルさんはぷるぷると震えている。


「あんた達、中学生じゃないの。少しは先輩に敬意というものを見せてほしいわ!」


さとっちは先輩風を吹かせていた。私が寝ている間に随分親交が深まっていたらしい。


「バカを言え凡骨! 余は中1から入学して魔道士科でも3年であるぞ! 歳は下だがこの学園では余のほうが先輩であろう!」


ニルガルさんは頬を膨らませて憤慨する。


「それには同意するわ。私も小学1年から入学して今は中学2年。魔道士科過程は実習を除いて修了しているわ。」


メイガスさんも負けじと応戦した。戦闘で私達より強かったのは既に魔道士科過程では先に行っていたからなのかと、私は納得する。

年齢だけでは決まらない複雑な上下関係がこの学園にはあるようだ……。


「じゃあ我らは村正に会いに行くぞ、元気でな。」


とニルガルさんは言って、すぐ左横のベッドに移動する。真横かよ。


「先輩ぃ……めっちゃ痛いッス……。」


包帯でぐるぐる巻きになった村正さんは演技を忘れて素の性格に戻っていた。

普通にしていれば愛嬌があるのに……。


医療テントの入り口が勢いよく開かれると、次には生徒会長の北斗さんが現れた。テントの中を見渡し、私を視認すると近づいてくる。


「やあ、穂乃村女史。一晩も目を覚まさないとは心配したぞ。」


北斗さんは私の額に手を当てる。熱が出ているわけではないのだが……。


「身を挺して仲間を守ったと聞いたぞ。サイクロプスの攻撃を何発も食らって無傷とは……ドレインの力か?」


会長の言葉に私はコクンと頷いて答えた。あの時は咄嗟に体が動いて――確証のない考えを実行した。


「そうか。仲間の命を守るのも重要なことだが、一番大事なのは生きて帰ることだ。生きていればリベンジできるからな。」


会長はベッドの、私の足元に腰掛ける。


「北斗さん、今の戦況は……。」


私は今の状況を聞いてみる。


「芳しいとは言い難いな。しかし不測の事態が起こったにしては上々。」


「学園生は続々とキャンプに戻ってきている、医療テントもパンパンで軽症の者は応急手当で外に放り投げているようなものだ。」


「相手がサイクロプスの群れだからな……しかし半ば相打ちに近い形ではあるが着実に数を減らしている。死人が出ていないのは幸運だよ。」


北斗さんは顔に影を落として現状を教えてくれた。まだ本番の迎撃戦が始まっていないのに大損害だろう。


「お前の無事を確認できてよかった。医者によると緊張と疲労のようだから少し休め。じゃあな。」


北斗さんは私の足に手を置いてから去っていった。会長だからやることが山積みなのだろう。


「会長、アンノウンに動きがありました。」


副会長の稲城 芦花が医療テントの外で会長を待っていた。


「芦花か、何があった?」


会長が聞き返すと、副会長は会長の手を引いて指揮所まで向かう。


「こちらを見てください。」


――国防軍総司令部 司令室

間もなく時計が12時を指そうという中、総司令部は丸1日動きのないアンノウンを監視し続けていた。いつ動き出すかわからないため、部隊を動かすこともできずに時間だけが経過していた。


曇天の空の下、無数のモンスターを侍らせて静止するアンノウンは、きっかり12時に動きを見せる。


アンノウンから遠く離れないという性質だけは守り、無秩序に飛行していた取り巻きのモンスター達は、まるで地上の兵器からアンノウンを守るように、集団で円形の盾を作るように集い、アンノウンの姿を地上から見えないように隠す。


アンノウンは徐々に房総半島に接近を始めた。


司令室は慌ただしく部隊に命令を伝え始める。

第2フェーズ、房総半島の鉄道線、内房線に沿って配置した遠距離攻撃部隊によるアンノウン上陸前の先制攻撃。


司令部のモニタに内房線に沿って配置された戦車――『BA-244 Neanderthal』と呼称されるBoolean-Armorが綺麗な隊列を組んで整列している。


砲塔部には誘導弾を発射する装置、足元にはカタピラが取り付けられている。もちろん機関砲や戦車砲等にも換装することができる。このカスタマイズ性の高さこそ『BA-244 Neanderthal』の強みだ。


「Ne013部隊、攻撃用意。」


男性の士官が現場の部隊に指示を送る。モニタには『BA-244 Neanderthal』の起動信号が続々と届く。

全機起動完了。アンノウンが射程に入るまで、3……2……1……。


「Ne013部隊、攻撃開始。」


攻撃許可を下す。ようやく第2フェーズが幕を開けた。


「こちらNe013部隊、攻撃を開始する。」


現場の部隊が攻撃開始を告げる。レーザー投射機を搭載した無人ドローン兵器 『BA-135 Ergaster』がアンノウンにレーザーを投射する。


「レーザー目標指示確認。撃ち方用意……放て。」


現場の指揮官の指示が下り、戦車から誘導弾が何百発と発射される。誘導弾はセミアクティブ・レーザー・ホーミング方式であり、レーザー投射機の指し示した対象に向かって飛行する。


全ての誘導弾は、アンノウンを守る分厚いモンスターの盾に阻まれる。

しかし、人間側の圧倒的な数の誘導弾により、徐々にそのモンスターの盾に穴が空き始める。


アンノウンは急速に加速を始め、房総半島内の上空に飛来した。


「第3フェーズ開始。陸上部隊の『BA-042 Heidelbergensis』及び『BA-244 Neanderthal』の部隊は適宜攻撃を開始せよ。」


士官が司令室から指示を下す。

『BA-042 Heidelbergensis』は、世界的に存在価値を否定された二足歩行戦車――端的に言えば人型ロボットである。確かに言われているように関節部分の故障率と費用面のバランスが取れていないが、山の斜面等の不整地でも配備できることにより、攻撃の密度を高めるために細かな需要がある。今作戦では肩部に連装ロケット砲を搭載しており、FCSの偏差射撃により命中精度を高めている。


『BA-244 Neanderthal』は第2フェーズで使用した装備とは異なり、足元はタイヤで、砲塔は90mm高射砲を2門装備している。


連装ロケット砲と高射砲による対空攻撃が開始される。アンノウンに直撃することはないが、房総半島を横断するころにはモンスターの盾は半壊していた。


ところが、モンスターの盾が形を崩し、黒い塵となって房総半島全体に向かった。


房総半島に配備された部隊から続々とモンスターから襲撃を受けている旨の報告が届く。だが、それらは現状の装備及び強化外骨格Binary-Armorを装備した歩兵で十分駆逐できると司令部は判断している。


アンノウンは房総半島を抜け、東京湾を目指して進行中。


「第4フェーズを開始する。全機攻撃準備。」


第4フェーズには首都高湾岸線に沿って、誘導弾を搭載した『BA-135 Ergaster』と、一撃の威力を重視した120mm高射砲を搭載する『BA-244 Neanderthal』及び連装ロケットを装備した『BA-042 Heidelbergensis』が配備されている。


全フェーズの中で最も単体への攻撃力の高い布陣となっており、モンスターの盾を失ったアンノウンに対して理想的な迎撃環境を作り出せたというのが司令部の見解だ。


司令室にも120mm高射砲の砲声が轟く。攻撃が始まり、アンノウン本体に120mm高射砲や連装ロケット、誘導弾が続々と着弾する。偵察機からの映像でも明らかな欠損が見て取れる。


「こちら第4フェーズ指揮長、アンノウンが高度を落としている。」


現場の第4フェーズの指揮を取る者から報告が上がる。確かにアンノウンの高度が低下している。しかし、司令部としては『東京湾沿岸で叩き落とせ』と言う他ないのが現状であり、現場ではそのような具体性を欠く命令は命令として受け取られない。


「全機撃ち方やめ! 東京都内に墜落するぞ! 全機配置転換!」


現場の指揮官が大声を上げて全機の避難を促す。アンノウンは高度を落として――都内に墜落した。


「こちら司令部。墜落地点はわかるか? おくれ。」


士官が墜落地点を把握するために現場に指示を送る。偵察機では東京タワー付近に墜落し――真っ黒な霧または塵のようなものを噴き上げてアンノウンが崩壊していく様子が映っていた。


「こちら第4フェーズ指揮。目視では東京都港区の東京タワーに直撃し、墜落したと思われる。東京タワーが――折れている。」


現場から報告が届く。もう偵察機の映像では黒い塵に覆われて東京タワーの姿を確認することはできないが……作戦は成功したのだろうか。


「いや待て、東京都内にモンスターが大量に出現している!」


士官が叫ぶ。司令室のモニタは、東京タワー付近に無数のモンスターが出現したことを表していた。


――学園生用キャンプ地 指揮所テント内

地響きのような、大きな重低音が轟き、少しの間を置いて地面が振動する。

指揮所テントの外が騒然とし、混乱が起きているようだ。


「何が起きた!」


会長がテントの外に出ると、東京湾方面に黒い塵が空中に滞留しており、同時に砂埃が地平線を隠していた。そして、以前までそこにあったはずの――東京タワーが消えている。


会長の生態デバイスに着信が入る。


「会長、八幡です。今国防軍から連絡がありまして、東京タワー付近から大量のモンスター反応を検知しました。どうしましょう。」


東京タワーから大量のモンスター反応。アンノウンは墜落して撃退できたのではないのかと会長は疑問に思うが、学園生の安全を優先しなければならない。


「凛、今指揮所に戻るが、とりあえず出撃中の全学園生をキャンプに戻せ。サイクロプスだけでヤバイんだ。他のモンスターが乱入したら手に負えん。」


八幡 凛に命令を下して指揮所に戻る。嫌な予感の正体はこれだったか。

会長の野性的な勘はよく当たることで有名なのだ。


「学園生はいつ頃までにキャンプに戻れそうだ?」


会長が指揮所テントに戻って早々質問する。


「多くの生徒はサイクロプス戦で負傷してキャンプに戻っていて、今動いているのはそこまで多くありません。離れているPTでも1時間以内に到着するかと。」


広報の八幡が答える。

国防軍がキャンプから遠く離れないように作戦領域を設定してくれたのが功を奏した。しかし1時間でどれだけモンスターが拡散するか……。

今でも戦闘を続行出来ているPTは優秀だろう。なんとか乗り切ってくれることを祈るしかない。


――1時間後。


「会長、全PTがキャンプに戻りました。全生徒点呼済みです。」


庶務の篠崎 遥が報告しにテントに戻ってきた。


「そうか。無事でよかったが――1時間も立ったというのにモンスターの目撃報告がないな。」


会長の言葉に、指揮所テント内は静寂に包まれる。


「……東京タワーまで偵察に出る。今動けるものは?」


会長が尋ねると、庶務が一枚の資料を取り出して会長に提示する。


「現在動ける者はリストの通りです。」


会長は渡された紙を読み込む。戦闘不能者がこれだけいるにも関わらず、重傷・死傷者がいないなんて。ペンを取り出し、いくつかマークをつける。


「今書き記した者を集めて偵察に出る。それ以外の戦闘要員はキャンプを死守しろ……訂正する、防衛しろ。」


死んでまで守る必要はないのだ。

会長はメモを付け加えたリストを庶務に渡し、集めるように指示する。


庶務はリストに書き記した3人を集めて戻ってくる。


「よし、私と篠崎と芦花を連れて行く。指揮は凛、任せたぞ。」


会長を含めた6人はキャンプを出て東京タワーを目指す。

デバイスのルート案内では片道1時間30分と結構な時間がかかる。かつて必要以上に整備された鉄道網は大抵の場所まで1時間以内に届けることができる優秀なものだが、それがない今は足に頼る他にない。


上野駅、秋葉原駅、東京駅と順調に歩を進める。優秀な魔道士科3年過程以上の生徒を選抜したため、サイクロプスと遭遇しても安定して撃破が可能であった。


遭遇したサイクロプスはいずれも、私達と同じく東京タワーの方面に向かっていた。しかも遭遇した3体全てが。これから想像できることは、アンノウンの墜落地点にモンスターが向かっているということ。


「これは……ひどいな。」


一行が足を止める。

ぽっきりと折れた東京タワーの巨大な残骸に、膨大な数のモンスターが周囲を囲っている。数千で済むだろうか。


「東京タワーを守っているのでしょうか……?」


庶務が疑問を呈する。


「試してみようか。」


会長はそういうと、モンスターの群れに接近する。

しばらく進むと、ある一線を超えた瞬間に大量のモンスターが血相を変えて襲ってくる。


比較的弱い者から、中級クラスまで。遠くにはサイクロプスも見える。


「よし、大体掴んだぞ。撤退する!」


会長は迫りくるモンスターの群れに強烈な魔法を放つと、一目散に逃げ出した。


――学園生用キャンプ地 指揮所テント内

一行がキャンプ地に戻った時、既に日は落ちて暗くなっていた。

焚き火ではなく投光機がキャンプ内を照らしている。


「そういうわけで、モンスター達は東京タワーを防衛していて、一定距離内に入ると好戦性を見せる。明日の目標はその何かを突き止めて、東京タワーを奪還することだ。」


会長は指揮所に集まっているメンバーに目標を伝達する。


「国防軍のセンサーには東京タワー付近以外にモンスターは映っていないそうだ。不気味なことにな。」


「つまり、最低限の護衛をキャンプに残し、最高戦力で東京タワーを奪還する。参加者については篠崎にリストを渡してある。拒否したならキャンプ防衛に回してくれ、無理強いはしない。」


「以上だ。各々苦労をかけた。休んでくれ。」


作戦の概要とメンバー候補を伝え、夜の指揮会議が終わる。


「会長、どちらへ?」


会長が指揮テントから出ようとした時、副会長が呼び止める。


「ああ、最後のひとりは私が声をかけようと思ってな。」


会長の言葉に、副会長の顔色が変わる。


「まさか、西王寺さんを?」


会長がうなずくと、何も言わずに出ていった。


会長が向かった先は、西王寺専用のテントだ。

一般生徒よりも大きいのは、彼女の機嫌を取るためと、監視をつけるためだ。


「入れてくれ、西王寺に話がある。」


入り口の監視に声をかけて、テントの中に入る。

内部は人を20人は入れられる大きなテントだ。しかし、多くの私物を置いている様子はなく、ところどころに引き裂いたような痕跡が残っていた。そして中にはランプ一つが灯っているだけで、薄暗い闇が広がっていた。


「良い夜だな。」


闇の向こう側から、低くハスキーな女の声が届いた。

西王寺(さいおうじ) 焔子(ほむらこ)。アリーナ・ナンバーズ2位、学園で最も危険な女。群れることのない孤独な不良。

命令に従うことなく破壊の限りを尽くし、国防軍の魔道士3PTをまとめて相手にして全員に重傷を負わせた。


矯正施設送りも打診されたが、学園が彼女の矯正を行うことを約束し、施設送りは回避したが、それからは授業に出席もせずアリーナか任務に明け暮れている。


「西王寺。お前の力を借りたい。」


会長の言葉に、暗闇の向こうから爛々と輝く2つの金色の瞳が覗いてきた。

心の奥底が、本能的な恐怖に捕らわれる。逃げ場のない場所で、獣に追い詰められたウサギのような……。


「2日もこんな場所に閉じ込めて、利用する時だけ開放する。まるでペットだな?」


西王寺の声は、今は落ち着いて聞こえるが、明らかな殺意が籠もっていた。

その瞳から放たれる殺気が、死の香りを鼻で感じられるほど増幅された瞬間、会長の右頬に浅い切り傷がつき、会長の背後のテントが大きく切り裂かれる。


切り裂かれたテントから差し込む月光が、西王寺の姿を照らし出す。

伸び切った灰色の髪は狼のようで、180cmを超える大柄の体は筋肉質。

狂気、殺意、そして憎悪に満ちた金色の瞳。決して獲物から目を離さない。


服装は腹のあたりが引き裂かれたような迷彩柄のタンクトップにファーのついた黒い外套を纏い、ボロボロのハーフパンツ。それに軍靴。


緊張が走る。西王寺にとって"死"というものは物の状態程度でしかない。


「……私達にお前を止める術がないんだ。許してほしい。」


会長に出来ることは、ただ誠実に対話することのみ。


「私が求めているのは謝罪ではない。」


西王寺が言葉を発するたびに周囲の空気が張り詰めていく。


「戦場を用意した。サイクロプス10体以上、スキュラやガーゴイル。その他にも数千体以上。」


会長の言葉を聞くや否や、テントの暗闇に西王寺の姿が消える。


「小兵が! いくら湧いたところで変わらねぇんだよ。」


突然眼前に現れた西王寺に胸ぐらを掴み上げられ、足が地面から浮く。

会長自身も170cmを優に超える体格の持ち主だ。


「お前らは手を出すな。それが条件だ。」


足が地面に着き、掴まれた胸ぐらも開放される。


「襲ってきた分はこちらで対処していいな?」


西王寺に尋ねる。金色の眼が再び会長の目を捉えた。


「その程度はくれてやる。とっとと失せろ。」


テントに強風が吹き荒れ、外にはじき出される。

会長は緊張から解き放たれ、安堵する。


これで最後のひとりが揃った。後は東京タワーを奪還するのみだ……。

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