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部活、委員会、その実態:後編

生徒会長の北斗さんに、パフェで釣られて生徒会室まで連行されてしまう……

「まぁまぁそんな顔するな!」


満面の笑みを浮かべながら私の手を引く北斗さん。その目は完全に捕食者だ。

タダパフェに釣られて生徒会室まで連れてこられてしまった。完全に罠だった。


「さあ入りたまえ!」


開かれた生徒会室は、風紀委員室とは異なり雑然としていた。1教室分の広さの部屋に、8個のデスクが中央に密集するように配置され、うち1つは使用者がいないようで紙が山積みとなっている。


たくさんのキャビネットに、冷蔵庫や電子レンジ、果ては横になって寝られそうなソファやこたつまである。……誰か住んでいるのでは?

生徒会役員と思われる5人の視線が私に集中した。


「さてみんな、彼女がかの『ドレイン使い』の穂乃村 鈴音だ。」


北斗さんが私を紹介すると、役員の人たちが『えっ、この人が?』という視線を送る。


「じゃあ穂乃村、我が生徒会役員を紹介しよう。」


「そこの正面右側の席が八幡(やわた) (りん)、放送委員長と広報を兼任している。」


北斗さんに紹介された八幡くんが立ち上がり、礼をする。

耳まで隠れる程度に伸ばしている黒い髪と、その中性的な風貌で一見すると女性かと思ってしまうが、その制服は男物であり、彼が男性であることを示している。胸のエンブレムはヘルメットを模したものとなっており、機操士科だろう。

ぽわーんとした雰囲気を纏っており、それが男らしさをかき消しているようにも思える。


「で、正面左側は知っての通り古海(ふるみ) 椿咲(つばさ)。風紀委員長だ。

風紀委員は生徒会直轄の委員で、その長は生徒会役員に属することとなっている。」


古海さんと視線が合った瞬間に私の背筋が伸びる。


「会長に騙されたな?」


古海さんは口元を緩ませながら言う。


「おいおい、騙したはないだろう。ギブアンドテイクだよ。」

「それで、右側二列目が篠崎(しのざき) (はるか)。庶務だ。」


北斗さんに紹介された篠崎さんは、立ち上がってから、綺麗な姿勢でお辞儀をする。

とても真面目そうなメガネをかけた女性だ。セミロングの濃紺の髪で、柔和そうな目と動作の節々から伺える品の良さ。垢抜けない印象を受けるが、素材は良く、良くも悪くも飾り気の無い人だ。制服のエンブレムは魔道士科であることを示している。


「次に二列目の左側だな。今は空席……訂正する、大体空席だが会計の瑞江(みずえ) 水樹(みずき)という男だ。仕事のある時期に数分顔を出しては消えていく。」


北斗さんは左側二列目の空席を指さして説明する。他の机のように乱れてはいないが、コンピュータが置いてあった。


「で、三列目右側。今寝てるのが書紀の一之江(いちのえ) 和樹(かずき)だ。」


鮮やかな青色の髪はよく手を入れられており、整った顔立ちをしている。端的に言えば美男子とかイケメンとか言われる種族だろう。しかし、私の勘では彼はモテるタイプの美男子ではないと睨んでいる。

白昼堂々、生徒会室のど真ん中で居眠りしているその根性は見上げたものだ。


「最後は一番奥の左側。我が親友の稲城(いなぎ) 芦花(ろか)、副会長だ。」


最後に紹介された女性が立ち上がり、一礼する。立ち上がったときに机の上の資料が床に落ちる。

垢抜けたクールなお姉さんといった容貌で、黒く長い髪は艶やかでモデルのようだ。黒い瞳はどこか寂しげで、ミステリアスな近寄りがたいオーラがある。


彼女が席に座ると、また資料が床に落ちた。案外ドジっ子なのだろうか。


「さて、簡単に紹介が済んだことだし、会議やるぞ〜」


北斗さんがそう言うと、各々は作業を止める。

ずっと寝ていた一之江くんははっと目を覚まし、机の上にマイクのようなものを置いて、再び眠りについた。


こいつは一体何のために生徒会にいるんだ……。


「さて、今日の議題は各部活の体育館及びグラウンドの使用割当についてだが――」


退屈な会議は1時間ほど続いた。

議事録は置かれたマイクに入力された音声が一之江くんのコンピュータにテキスト化されているようで、会議終了後に篠崎さんが誤変換を修正していた。


書紀の存在意義を問い詰めたくなる。


「おつかれ〜、まぁ生徒会はこんなもんだ。結構地味だろう?」


会議を終え、北斗さんから労いの言葉をかけられる。


「そうですね、もっと破天荒で強権的な組織だと思っていました。」


私の中の生徒会像とは、ドラマやアニメで描かれる学園の絶対的存在という偏ったイメージがあった。


「ははは! まぁこれでも学生主体で運営する方針になっているからそこらの学校よりは権力は持っているが、所詮は学生の総意の代弁者や調停者でしかないからな。存外、好き勝手出来るところではない。」


「まっ、また気が向いたら来てくれ! うちは優秀な人材を歓迎するぞ!」


案外素直に開放された。無理強いはしないということだろう。


「あっ、ほのりん発見!」


次は何かと思えばさとっちだった。

相変わらず栗色のツインテールをぴょこぴょこさせている。


「生徒会室になんか用でもあったの?」


会長に図られました。


「北斗さんとちょっとね。」


さとっちはあまり興味がなさそうに相槌を打った。


「それよりちょっと来てよ!」


と、さとっちに手を引かれて連行される。なんかデジャヴを感じる。

連れて行かれた場所は部室の立ち並ぶ階で、茶道部の手前に止まった。


「さとっち茶道部だったの?」


私が尋ねると、さとっちは胸を張って答える。


「そーよ!見込みのある友人は連れてこないとね!」


さとっちまでもか勧誘の尖兵と化しているとは予想外だった。

そして、部室に入ると静乃さんまでもが毒牙にかけられていた。彼女は剣道部だというのに。


その部室は茶道部の風情の欠片もない普通の空き教室から机と椅子を撤去してカーペットを敷いただけのような部屋で、冷蔵庫といくつかの棚が置かれているだけだった。他に部員はいないようで、私とさとっちと静乃さんだけだ。


綺麗な正座をしている静乃さんの横に座る。


「あ、今お茶淹れるね。」


さとっちが言うと、冷蔵庫を開けて、あろうことか2Lペットボトル入の烏龍茶を取り出し、透明のグラスに注いで出してきた。


茶道をナメているのだろうか。


「……ちょっと、静乃と同じ顔しないでよ!」


さとっちは憤る。

静乃さんは笑いを堪えてプルプルと震えていた。


「あ、お菓子も出さないとね。」


さとっちは棚から、あろうことかポテトチップスを取り出し、ガバっと大きく袋を開いてカーペットの上にボサッと置いた。

真面目に茶道をやっている人が見たら、恐らく殴られるだろう。


「里中さん……茶道って何かわかる?」


静乃さんが鋭いツッコミを入れる。

さとっちは虚を突かれたような顔をして後ずさる。


「うちの部でその言葉を出すのは許されないわよ……静乃。」


さとっちは自分の分の烏龍茶を注ぐと、あぐらをかいて座る。


「元々我が部は歓談部として設立申請を出したわ……だけど、あの頭の固い生徒会連中に却下されたから仕方なく! 仕方なく茶道部と名前を変えて出したのよ!!」


さとっちの迫真の告白は、まるで探偵に追い詰められた殺人犯のように悲憤に満ちていた。


静乃さんは、さとっちの芝居がかった告白をまじまじと見つめながら、烏龍茶とポテトチップスを楽しんでいる。マイペースか。


しばらく3人で歓談を楽しんでいたが、突如スピーカーから大音量で警報音が鳴り響く。


さとっちと静乃さんの表情が険しいものになる。


「全校生徒、現時刻を持って全作業を中断。傾聴せよ。」

「繰り返す。全校生徒、現時刻を持って全作業を中断。傾聴せよ。」


警報音が鳴り止むと、スピーカーから女性の音声が流れ、学園内に緊張が走る。


「国防法第34条2項に従い、国防軍総司令部より学徒動員令が発令された。」

「繰り返す。国防法第34条2項に従い、国防軍総司令部より学徒動員令が発令された。」


「以下に読み上げるクラスの生徒は、自身のクラスルームに30分以内に集合せよ。」

「繰り返す。以下に読み上げるクラスの生徒は、自身のクラスルームに30分以内に集合せよ。」


スピーカーから中等部以上のクラスが続々と読み上げられ、やがて私とさとっちと静乃さん――全て同じクラスがだ――も読み上げられる。


「ほのりん!静乃!いくよ!」


さとっちが叫び、自身のクラスルームを目指して駆ける。校内は移動者で溢れ、慌ただしい足音が轟く。


私達のクラスルームに到着したときは、皆息を切らして自席に着席する。

まだ全員が集まってるわけではなく、まばらに空席が見える。


着席してから十数分と経たずに席は埋まる。同時に、自動で黒板側からスクリーンが降りてきて、東京と千葉周辺を大きく写した地図が表示された。


教室のスピーカーから教官の西影の低い声が流れる。


「本日15:00頃、小笠原諸島付近のEEZをモンスターの群れが越境した。数は数千から1万弱。その規模の大きさから国防法を適用し学徒動員を発令した。」


クラスのみんなは固唾を飲んで放送に聞き入っている。


「週末には千葉県の房総半島付近に到達するとウィスダムが試算し、国防軍は迎撃作戦を立案した。」


「房総半島及び東京湾沿岸から国防軍正規軍が迎撃行動を行う。」

「我々スイケレ学園の任務は国防軍と協働し、東京都内に侵入したモンスターの排除することである。」


「海上での第一フェーズ、房総半島沿岸での第二フェーズ、房総半島内での第三フェーズ、東京湾での第四フェーズの全てを潜り抜けたモンスターであるため、数も少なく体力も相当に削られているとのことで、最も安全な領域での行動となるが、本物の戦地である以上、普段の任務とは比べ物にならない敵の戦力だ。加えて作戦時間も長い。」


「詳細なブリーフィングについては後日行う。なお、今作戦が初の正規戦である者は直ちにアリーナに集合せよ。以上、解散。」


張り詰めた緊張が一気に途切れ、やがて重苦しい空気がクラスを支配する。


「私、アリーナに行くね。」


さとっちと静乃さんに一声かけてアリーナへ向かう。

アリーナには十数人ほど集まっており、教官の西影の横には見慣れない物品の山ができていた。


「集まったな。今から正規戦用の装備を配布し、説明する。」


西影から手渡しで大きなバックパックを渡される。

中には小さな箱に収まったコンタクトレンズのような物体、黒いぴっちりとした服、飲水や食料等が入っていた。


「まずこのコンバットスーツだ。」


西影はバックパックから黒いぴっちりしたスーツを取り出し、皆に見えるように掲げる。


「普段の任務では制服で行っているが、正規戦ではこのコンバットスーツを着用することとする。これは長期戦でも体が疲れにくい構造となっており、過酷な環境下でも耐えられるよう設計されている。また、味方識別信号を常に発しており、フレンドリーファイアを防ぐ目的もあるため必ず着用すること。」


この黒い服を着なければB-SA兵器に巻き込まれる可能性があるということであろう。正直ボディラインが強調されるため、恥ずかしくて着たくないのだが……生死を分ける装備には個々の羞恥など知ったことではないのだろう。


「次、生態デバイスだ。これはコンタクトレンズのように装着する、やってみろ。」


コンタクトレンズは入れたことがないが……箱から取り出して目に入れてみる。不思議と違和感も不快感もない。というより装着している感覚がなかった。


着用した瞬間に、眼前に様々な情報が現れる。


「この生態デバイスはお前たちの使っているスマートフォンのコンタクトレンズ版だと思えばいい。倍率5倍までのズーム、300M以内の味方の位置把握や、命令の確認、仲間とのコミュニケーション等全て行える。」


「操作に関しては起動したい機能を意識するだけで起動する、脳波コントロールとなっている。くれぐれもズームした状態で歩くな、コケるぞ。」


生態デバイスで倍率を収縮して遊んでいると、気分が悪くなってきた。

味方の位置把握に関しては、前述した黒いスーツの発する信号で識別しているようで、スーツの輪郭が青く光っている。また、遮蔽物に隠れていても場所が識別できるようだ。


コミュニケーションツールにはLANEが使用されており、テキストが視界の邪魔にならない程度の半透明で表示されている。文字入力も頭の中で入力したい文字を唱えるだけでよいスグレモノだ。なぜ民生化しないのだろうか。


「次は簡易テント。大体正規戦では待機用キャンプが設置されるから位置は確認すること。寝床は自分で作る必要があるが、このテントはワンタッチで展開と収納ができる。やってみろ。」


教官がテントと呼称した銀色の球体の、赤いボタンを押下すると、ものすごい勢いで一人用のテントが展開された。ふわふわの床面は地面の冷たさを感じさせない。テントの天辺のボタンを押下すると、銀色の球体に戻った。


……どういう原理なのだろう。


「質問があれば適宜受け付ける。実戦になれば操作方法を教えてくれるやつはいない! 今のうちに習熟すること。以上!」



初めての戦争が……始まる。

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