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新入生、試される。

ひどく乗り心地の悪い乗り物に乗っている。

上からはけたたましい、空気を叩くプロペラの音が響く。


このドローン型の輸送機は、私とさとっちを任務場所へ運んでいる。


任務。魔道士科の魔法実技の科目で課される活動で、実際の戦地で哨戒や殲滅活動を行う。

これらは達成すると魔法実技の科目の点数となるため、任務に赴くのは魔道士科では必須に近い。

平常点+筆記テスト(最大30点)+課外活動点が60点を超えなければ進級が許されない過酷な(?)システムだ。


ただ、魔道士科1年生は魔法が未熟なため免除されているはずなのだが……。


そもそもさとっちに半ば強引に任務に付き添わされているのは、私が先日吸収魔法でさとっちを昏倒させたため、彼女の先輩心に火をつけてしまったことに他ならない。


「先輩としていいところを見せてやるわ!」と意気込んで、難度の高い任務を選定したようだが、果たしてどうなることやら……と私は不安である。


「この乗り物はね〜『BA-135 Ergaster』っていう無人操作の飛行型『Boolean-Armor』なのよ。」

「あ、『Boolean-Armor』っていうのは大型の対モンスター兵器のことね!機操士科の連中が学んでるやつ!」

「『BA-135 Ergaster』は空中戦はもちろん、輸送用にもカスタマイズできて、オートパイロット機能のおかげで――」


さとっちは目を光らせて、この乗り心地の悪いドローン型の兵器の説明をしてくれる。


ヘリコプターのような爆音のプロペラ音で説明の大半がかき消されていることに彼女は気づいているだろうか。


「ねぇ!それよりこれから何するのか聞いてないんだけど!」


私は爆音に声がかき消されないように、精一杯叫ぶ。

きっと到着する前に喉が潰れるだろう。


「今回はモンスターを探すのよ、結構難度高いからそれなりに強いんじゃないかな。」

「先行して殲滅する人が向かってるみたいだから、ウチらが探してもうひとりが倒すって感じだね!」


入学2日目で危険度の高い任務っておかしくない!? 魔法ほとんど使えないんですけど!

と、文句を言ったところでもう運ばれている事実は改変されない。


さとっちの先輩としての力量を信じるしか無い……が、大型の機械に乗って大はしゃぎするさとっちの姿を見ると、どうにも先輩らしい感じは全く感じられず不安感に拍車がかかる。


移動すること1時間20分。ようやくドローンが着陸し、私達は外に出ることを許される。

まるで文明の香りを感じない、鬱蒼(うっそう)とした森が目の前にあった。


「……ここ?」


私はさとっちに確認をしてみる。

カラスの鳴き声が木霊する。


「ここみたいね!」


意気揚々と答えるさとっち。

まさか森の中とは……。


森の暗がりからメキメキと木の軋む音が聞こえる。

……ベキッっと、大きな音が響いた。


「いるね……はは……。」


私はさとっちの背後から苦笑いする。

さとっちは慣れた様子で森の中へ入っていく。


獣道が延々と続いている。深い森の中で、昼間だというのに薄暗い。

何かが木をなぎ倒して進んでいるようで、徐々にその音が大きくなっていく。元凶に近づいているのだろう。


「なんだ〜。この様子じゃ楽勝ね!」

「……ん?」


さとっちが楽勝宣言をした直後、立ち止まってスマホを取り出す。

ライトを点けて正面を照らすと、それは大きな黒い塊が木をなぎ倒していた。


さとっちは腰から信号弾を天に打ち上げると、発砲音に反応して黒い塊がこちらを向いた。

4M、いや、5Mはあるのか? 大きな1つ目の巨人が吠えた。


「いや、えっ?マジ? これギガースじゃん? 話が違うじゃん?」


さとっちは混乱の声をあげている。

いや、受けたのさとっちでしょうとは言えなかった。


「ギガースって危ないやつなの?」


さとっちにあの怪物の危険度を聞いてみる。

私からするとモンスターは全て例外なく危ないものと認識しているが。


「これ一人で倒せたら上位組になれるって!ウチらじゃ無理!」


ギガースは、その巨体を揺り動かして迫ってくる。

一歩動くたびに微かに地面が振動するのを感じた。


「逃げろおおおお!!」


さとっちが叫び声をあげると、二人は全力で走り出す。

ギガースの歩幅は広く、その巨体に似つかわしくない速度で迫る。


「あし!あし狙って!」


さとっちは叫びながら、稲妻のようなものをギガースの足に放っているが、全く動じていない。

私はというと、走りながらでは集中できず、唯一使えるショックαも発動できずにいる。


……あの時の吸収魔法を使えばあるいは?


走りながら腕をギガースに向け、イメージする。

魔力を抜き取るイメージを。


3つの光る玉が飛んでいき、ギガースに直撃すると紫色の光線となって私に帰ってくる。

体の芯が熱くなる。どうやらモンスターにも魔力があるらしい。


今ならβクラスの魔法も行けるかもしれない。


「ショックβ!」


増強された魔力が、本来唱えられない領域の魔法を無理やり発動させる。

握りこぶし2つ分ほどの大きな衝撃の塊がギガースの足に直撃すると、爆裂音と共にギガースを転倒させる。


「なんかよくわからないけどナイス!ほのりん!」


さとっちが叫ぶ。

眼前には岩の壁がそびえ立っており、これ以上は進めない。


「ここに洞窟があるよ!」


私は偶然見つけた壁の穴を指差してさとっちに伝える。

そこは入り口が広く、奥に行くにつれてに狭くなっていく。


二人で息を切らしながら、じめじめとした洞窟に逃げ込む。


「ほのりん、さっき何したの?」


先程の吸収魔法からのショックαのことであろう。

咄嗟の思いつきで実行したら偶然できただけのものなのだが……。


「吸収魔法で魔力を奪ったら、私でも魔法を撃てるんじゃないかと思って……。」


さとっちはかなり衝撃を受けた……というよりも自信をなくしたと言った感じでうなだれる。


「入学2日でβクラスの魔法撃てちゃうって凄くない?その固有魔法チートすぎるでしょ……。私も固有魔法手に入れたら強くなれるんだろうかぁ……。」


さとっちは今までになく元気をなくしているようだった。


「ま、まぁ私は吸収魔法使わないとファイアαも撃てないし、走りながらでもバンバン雷撃てるさとっちはかっこよかったよ!」


私がフォローを入れてみる。


「ま、まぁこれでも魔道士科2年生だし??」


さとっちは元気を取り戻したようだ。先輩の威厳は保たれただろうか……。


「それで、ここからどうしようか。」


私は問題提起してみる。差し迫った問題として、この洞窟から出るとギガースに襲撃される可能性がある。いつまでもこの洞窟に籠もっているわけにもいかない。


「さっきウチが信号弾撃ったから、別動の人には伝わっていると思うけど……。」


さとっちは自信なさげに答える。

ギガースを撃退したなら、スマホになんらかの連絡が来るはずだし、外は戦闘が起きている様子はない。


二人でスマホをいじりながら、時折外の様子を伺って時間を潰す。

1時間ほど経過した時、ふと考えが浮かんだ。


スマホ……確か生徒会長の連絡先があったな。すこし知恵を借りるのも悪くないかもしれない。


『すみません』とメッセージを送ってみる。

背後から『ピロン』という着信音が聞こえた。


「えっ」


私は背後を振り返ると、青白い光が空に浮いていた。


「おっ?」


その光の方向から声が聞こえる。どこかで聞いたことがあるような……。

それは生徒会長の北斗 聖桜だった。


「お前らが捜索隊か?ってかなんで穂乃村がいるんだ。」


「もしかして……討伐の人って北斗さんだったんですか?」


私は北斗さんに聞いてみる。


「そうだが……里中はともかくなんで穂乃村がいるんだ?」


さとっちは胸を膨らませて答える。


「私が先輩としていかにゆーしゅーか見せてやるために誘ったのよ!」


北斗さんはその大きな手でコツンと、さとっちの頭をかるく叩く。


「馬鹿野郎、魔法もロクに使えない新入生を連れて怪我でもさせたらどう責任を取るつもりだ?」


「まぁ穂乃村に友達ができたようで何よりだ。……とんだ悪友のようだが。」


さとっちは気まずそうに苦笑いしている。

ありがとう北斗さん、私の言いたいことは全て代弁してくれた。


「で、でもほのりんったらもう固有魔法使えるのよ!? 魔力奪い取って無理やり魔法撃っちゃうんだもん!」


「ほほう、それは興味深いな。ぜひ見てみたい。」


北斗さんのオレンジ色の瞳はいたずらっぽい色を浮かべて私を見つめる、まるで実験を行うときの子供のような目だ。


嫌な予感がする……。


「よし決めた!いざとなったら私が手を貸すから、穂乃村と里中、お前たちがギガースを倒せ!」


私とさとっちは同時に「はい?」と反応を示した。


「ギガースくらい知恵を絞れば勝てるもんだ。それに、アリーナ・ナンバーズ3の私がついているんだ。指一本触れさせないから、今やれることをやってみろ!」


北斗さんはいつものように自信満々に言い放つ。豪胆というか、恐れ知らずというか、大胆不敵なのか……。この場には「やらないという」選択肢がないことは明確だ。


「じゃあ……やってみようか、さとっち。」


「ほのりん、マジ?」


一応、作戦らしいものはある。私達はギガースと比べて移動速度でも劣るし、力も劣っている。だが、それを封じる方法を1つだけ考えついていたのだ。


「ねぇ、さとっち。耳を貸して。」


私はさとっちの耳元で作戦を伝える。


「えぇ! 私が!?」

「……わかったわ、先輩の働きぶりを見ておきなさい!」


さとっちは快諾してくれた。よかった、拒否されたら作戦は成り立たなくなる。


「じゃあ……行ってくるわ。」


さとっちはそう言うと、洞窟の外へ向かった。


「じゃあ私達は奥に行きましょう。」


私は北斗さんと一緒に洞窟の奥へ進む。


「穂乃村、一体何を……?」


北斗さんはよくわかっていない様子だが、どこか楽しそうだ。

LANEがさとっちから、『ギガースに見つかった』というメッセージを受信する。


ギガースが鳴らす重低音が近づいてくる……。

『もうすぐ!』と、さとっちから追加のメッセージを受信した。


「北斗さん、来ます!」


「お、おう。」


直後、洞窟の壁面が揺れだし、『ドドドドド』と低く大きな音が洞窟内に響き渡る。


「助けてえええ!!」


さとっちが風の如くの全力疾走で洞窟に戻ってくる。

背後からは凄まじい速度の匍匐(ほふく)前進で洞窟に侵入してくるギガースがいた。


「みんな奥へ!」


私の指示で、3人はさらに洞窟の奥へ走る。

走っているうちに、ギガースが何かに突っかかったように急停止し、手足を暴れさせている。


「作戦、成功です。」


私は呟く。

前述したとおり、この洞窟は”入り口が広く、奥に行くほど狭くなる”のだ。

速い移動速度と、その怪力で無理やり洞窟に押し入った結果、徐々に狭まる壁面に挟まれて身動きが取れなくなったのだ。


「ほほう、見事だ穂乃村。」


北斗さんは感嘆の声を上げる。

さとっちは息を切らして地面に突っ伏したまま、無言でピースサインをしていた。


「これを使ってみろ。」


北斗さんは私に1枚の魔道紙(スクロール)を渡した。


「これは?」


私が問うと、北斗さんはにっこりと笑って答える。


「これは『サンダーボルトγ』だ、里中もあと1年訓練すれば使えるだろうが……固有魔法とやらの力を見せてもらおうか。」


さとっちがあと1年は訓練しないと使えない魔法……かなりプレッシャーを感じるが、ギガースを倒すにはこれを使うしかない。


ギガースに向き直り、吸収魔法を放つ。3つの光る玉が飛んでいき、ギガースに直撃すると紫色の光線となって私に帰ってくる。

体の芯が熱くなる、魔力が増強される感覚だ。


スクロールを構え、魔力を流す……何も起こらなかった。


魔力がまだ足りない。再度、増強された魔力で吸収魔法を唱える。

4つの光る玉が飛んでいき、ギガースに直撃すると、先ほどとは異なり、赤色の光線となって私に帰ってくる。全身が熔けるように熱い。


「サンダーボルト……γ!」


スクロールに魔力を流すと、先程の不発が嘘のように、素直に起動する。真っ暗な洞窟が昼間のように明るくなり、眩い稲妻がギガースの巨体を貫く。直視していると目が眩みそうだ。


やがてギガースの全身が燃え上がり、黒い塵となる。


「フハハハ!想像以上だな!」


北斗さんは大喜びで叫ぶ。が、幾ばくの間もなく言葉を続ける。


「だが言ってやろう。お前はその魔法に頼っている限り進歩はない。」

「魔法の発動は魔力と素養の足し算で決まる。その固有魔法で魔力を奪い取れば確かにある程度の魔法は使えるだろう。」


「しかし、そんな強引な魔法の使い方をしていると……。」


「素養が育たず、すぐに頭打ちになる。」


彼女は塵の山をひっかいて崩しながら言う。

――吸収魔法に頼っている限り成長はない。

唯一の特技であるが、これを持ってしまったことは不幸なことなのだろうか。


「しかし、真っ当に訓練すれば別だ!」


「固有魔法に頼りすぎるな、そもそも吸収魔法を使わなければ普通の魔法が撃てない時点で普通の魔道士と初動から遅れているのだ。」


「それを肝に銘じて訓練に励め!」


洞窟内に風が吹き、北斗さんの体がゆっくりと浮き上がる。

彼女の両腕は紅蓮に包まれ、洞窟内が明るく照らされる。


塵の山に燃えたぎる拳を打ち付けると、爆発とともに塵の山が消し飛んだ。


「さあ、帰ろう。二人共手柄だったな。今回の討伐達成はお前たち二人にしておくぞ……っと、大丈夫か里中。」


さとっちはゆっくりと立ち上がる。私は肩を貸して支えた。


「いやぁー、ハードワークだったわ……。」


さとっちは薄ら笑いを浮かべ、私達はよろよろと洞窟から抜け出した。


――また1時間20分かけて学園に戻る。

ドローン型の乗り物からヘリポートに降り立ち、学園の冷えた空気を胸いっぱい吸い込んだ。


……入学二日目の出来事がコレ?


「ほのりん学食いこ〜」


さとっちの提案に乗って学食に向かう。もう19時になっていた。

共同校舎内の学食の券売機前には北斗さんが立っていた。


「やあ、さっきはおつかれさん!おかげで今日は楽できたよ!」

「今日は奢ってやるから好きなものを食え!」


今夜は北斗さんの奢りだ。

お腹いっぱいのご飯を食べたあと、私達は寮に戻って、泥のように眠った。


明日はどんな一日になるだろうか。


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