儚く脆い人工物は時が止まっていた
黒くて大きな波が押し寄せていた。
道路を走る車は前に前にとどんどんスピードを上げているが、迫りくる波には車と思われるものが巻き込まれていた。
その場に居たわけではないのに、その映像は僕に津波の脅威を十分に教えてくれた。
TVやインターネットで観る映像でも、確かに脅威が伝わってくる。
しかし、その津波が襲った場所に実際に行ってみたら。
単純に自然の驚異を感じるだけでは済まなかった。
ぶふぁーぶふぁーざざざざー
季節外れの台風のお陰で、バスの外では雨と強い風が東北の寒さを強調していた。
そして、こんな季節外れの台風と共にやってきた僕たちの恰好も寒さを表してるかの様に厚着であった。
「えーと、そこを右です。」
「そこ、通行止めじゃないですかね?」
ガイドさんのお話は重く当時の悲惨な様子がよく伝わってくるが。
さっきから、ガイドさんが話を途中で辞めては運転手さんと話しているが大丈夫だろうか。
あれ?信号も無いのに止まったぞ。
「あっ。なんか通行止めみたいですね。」
目的地に着き、バスを降りた。
バスの外は相変わらず雨が降っている。
でも、風は止みぽつぽつぽつと静かに雨はふっていた。
まるで「目の前の光景に集中しろ。」と気を使ってくれたように、雨は静かに降っていた。
一体ここには何があったんだろう。
ガイドさんの話では、お墓とか、民家が在ったらしい。
一体何人の人が亡くなったのだろう。
ガイドさんの話では、この町だけで637名亡くなってしまったらしい。
一体誰がこんな事をしたのだろう。
それは、誰もが知っている。
何もない更地。いや、昔は何かがあっただろう更地の真ん中には小学校が当時の姿のまま建っていた。
外壁には何も違和感が・・・いや、窓ガラスがすべて無くなっていた。
その、窓枠から学校内を覗くと、天井に吊るされている電燈や天井の中を通っていただろうパイプがむき出しになっていた。
教室内の壁も外側は剥が中の空洞が雨に晒されていた。
学校独特の横にスライドするあのドアの枠組みを折れ曲がり・・・。
この非現実的な現実は違和感の塊だった。
周りにはコンビニも、自動販売機も、工場も、トラックも、車も、家も、木もない。
ただあるのはこの非現実的な小学校と、道端に黄色く咲いている花と、季節外れの台風が作った大きな水たまりだけだ。
この大きな水たまりも当時と比べると水の量も少ないだろうが、どうしても関連付けて観てしまう。
まるで。本当に、この季節外れの台風は気を使ってくれているのだろうか。
当時の様子を少しでも多く僕たちに伝えてくるかのように。
大きな水たまりには小さな小さな波紋が沢山広がっていた。
暖かいバスに戻ってみるとと、クラスのみんなは思い思いの感想を隣に座ってる子達と話していた。
なんとなくだが、現実に戻ってきたんだなと僕は感じた。
最後にバスに戻ってきたガイドさんは、バスが動き出してしばらくすると
「学校の外に置いてあった。時計を観てくれましたか?」と問いかけてきた。
ああ。確かに大きな時計が学校の外に置かれていたな。
勿論だが、その時計は止まっていた。
本来なら、学校に通っている子供たちに時間を教えてくれるはずのモノが止まっていた。
今はただ、この学校の時間が当時のまま止まっている事を表すかの様に置かれていた。
しかしだ。その大きな時計には「針が無かったと思います。それは、当時、この周辺に出没した窃盗団が時計の針だけを盗んでいたっからです。窃盗団はーーー。」
なるほど、時間泥棒とはよく言ったものだ。
儚く脆いものだと僕は実感した。
人間が作ったものは自然の圧倒的な力には敵わないと。
あの光景を見ていると切ない思いや何とも言えない悔しさが胸の中に広がっていた。
しかし、この町の時間は止まっていない。
しっかり道も整備され、僕たちみたいな学生を案内し、当時の悲惨な状態を伝えれるほどに回復している。
避難所での生活の大変さや、仮設住宅0の難しさなどを沢山聞いた。
それと同時にこの町はそれを乗り越えてきたんだという事も聞いた。
この町は以前と比べたらまだまだなのかもしれない。
だが、この町の時間が動き続けているならきっと・・・。
そして、止まったままの学校もいつか必ず動くようになるだろう。
大人になったらもう一度来よう。
こんどは季節外れのお節介な台風が付いてこないを祈りつつ。
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