入学準備
「巻野、志望校は夏休み中に絞っておけよ。夏休みだから説明会もある。頼んだぞ。」
俺は巻野奏太。
とある中学校に通うごく普通の少年だ、今は3年の夏でこれから進路に向かって突き進むというところだ。しかし俺はまだ志望校が決まっていない。
特にこれといって興味のない高校ばかりで、今のところ自分の学力に見あった所で良いかなんて思っている。
親との三者面談を適当にやり過ごし、親からの質問を軽く受け流して窓の外を見る。
外は青々した空にむっくりとした入道雲が所々に広がっていて、セミの鳴き声も絶えない、いつも通りの夏だった。
本当だったらこの三者面談が終われば夏休みまで僅で心を躍らせているが、今年は受験という大事業があるので心がずっしりと重い。
ああ、いいなぁ…ぱぁっとはじけたいな…
そう思いながら空をながめる
空の入道雲はじわじわと形を変えている。
「あっ、お兄ちゃん!成績ボツった?」
帰ってきた早々、妹の明莉が声をかけてきた。
明莉は俺と同じ中学校の1年だ。
妹は勉強もスポーツも万能、その他もなんだかんだできたしまう、スーパーガールに分類されるそうだ。
小さい頃から一緒の俺にとってはそんなこと感じられないが、相当の青春を送っているようだった。
「ボツってないし、て言うかお前はどうだったんだよ?」
「んとね、確か技術と美術が4でそれ以外はファーイブ‼」
聞くまでもなかったようだ。
明莉は胸を堂々と張っている。
「ああそうかいな。」
「ええっ、聞いといてそれはないんじゃない?」
そう言ってぷっくりと頬を膨らせる。
「やめろぶりっ子。」
まあ唯一の欠点は天然のぶりっ子キャラだろうか。
「ぶりっ子じゃないしー」
抗議する妹を無視して自分の部屋へ向かう。
ドアを開けて正面には小学校から使っている至って普通のの学習机があり、教科書や参考書等が整理されている。
それを中心として、左にベッドで、上に窓があり、右にタンスと趣味のものがおかれている棚があるという平凡な部屋だ。
俺はリュックを机に置こうとすると、机に白の便箋が置いてあった。
リュックを端にやって便箋を手にする。
表裏に宛名は書いておらず、差出人は不明だった。
便箋があまりにも白くて不気味な感じを演出していて、開けるのを少し躊躇うが、思いきって開けてみる。
中にはA 4プリントが四つ折されているのと、細長い高級紙に自分の名前と「5156386107」という10桁の番号と何が描いてあるかわからない丸型スタンプが押してあった。
なぜ自分の名前を?
この番号は?俺はなんかに応募した覚えは無いぞ…
そんなことが頭をめぐり、恐ろしさが増す。
まずは四つ折のプリントを開いてみる。
プリントにはびっしりと文字が埋めつくされていた。
『 当選者の皆様
この度は星の岡学園チュートリアル生にご当選おめでとうございます。
本校は再来年より、開校いたします。
つきましては、生徒指導の向上を図るため、付近の中学3年生の中から抽選にてチュートリアル生を募集しております。
ぜひ、一度、当選者限定高校説明会へ足をはこんで下さい。
ご来場には予約が必要です公式サイトより同封の10桁のID を入力してください。
ご来場心よりお待ちしています。
公式サイト www. …』
読み終わった時、俺は信じられなかった。
何かの上手い詐欺に違いないと思った。
しかし俺は衝動的にスマホを手にして、検索アプリを起動していた。
大丈夫かな?
余計に不審になってきたが、不思議と信じられる気がしてきた。
書かれた番号を間違えないように打ち、虫眼鏡をタップする。
ヒットは1つ、星の丘学園公式ホームページとあった。
そこをタップしようと手を伸ばすが、躊躇う。
詐欺の線が捨てきれないからだ。
多分このサイトをタップすると、請求画面に飛んでしまうとかのワンクリック詐欺かなんかだろう。
しかし手は迷いもなく動いた。
すると大きく校舎と滅多に見れない、雲一つ無い青空が後ろに広がっている写真が表れ、その下に大きくログインと書かれていた。
またも手は迷いもなくそれをタップ。
無音でキーボードが現れた。
「えっ、何で?」
俺の慌ててる態度も構わず手はまるで誰かに支配されているかのように名前とID を打っていく。
「どうなってんだよ‼」
5156
「止まんない?」
俺は右手の人差し指に力をこめるがまるで麻痺したかの様に感覚が無い。
515638
「止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ…」
51563861
「止めろー‼止まってくれぇー‼」
5156386107
そして手が確認ボタンへと伸びる。
「とまれげええええええええええ!!!!!!!!!!!」
フッと指先に感覚が戻った。
確認ボタンの僅か数ミリ手前で指はピタリと止まっていた。
俺の背中と頭は汗でびっしょりだった。
何が起こったんだ?
どうなってんだよ。
何でこんなことに?
こんなもの今すぐ棄ててやる。
その時タイミングよく母の和恵が入ってきた。
「ノックぐらいしろよ。」
「だってあなたがなんか叫んでいるから心配になって。」
「ああ、えと…」
このことを母に伝えるべきか迷う。
こんな超常現象誰かに言ったって理解されるはずが無い。
「ああ、えっと、ネットニュースに俺の好きな漫画が映画化されるってのを見てさ。」
あははと空笑いしてごまかす。
「全く、やめてよね、一生が終わるようなことに遭遇しちゃったのかと思ったじゃない。」
「やだなぁもう。」
母さんの言うことはあながち間違ってはなかった。
あーあやだやだ、これでも受験生かしら、なんとかいって母さんは部屋を出ていった。
まるで呼吸してないかのような状態に陥っていたため、とりあえず深呼吸をした。
とにかくこんなものは今すぐ捨てなきゃ。
紙を持って、くしゃくしゃに丸める。紙はもうどんなにアイロンをかけたりしようと、二度とシワがとれないくらいをシワでいっぱいにした。
はずなのに、紙からパリパリっという音が発生し、なんの力も無いはずなのに、きれいに元の姿に戻った。
そう、あんなに作ったシワ一つなく。
やめろっ、やめてくれ。
俺が何したってんだよ。
とりあえずもう一回丸めたが同じ現象が発生するため、ついに俺は最終手段へ手を打った。
筆箱をあさり、ハサミを握る。
ハサミで切ってしまえば元に戻りようもない。まさかと思うが切った破片がすべて元通りに修復するなんてことが起きたら困る。いいや、そんときはそれを録画してしまえばいい、重大な証拠になる。
念のため鞄からスマホを取り出して、カメラアプリを起動しておく。
そしてハサミを手にしっかりと掛けて、深呼吸。そして
「かっ、った…なんだこれ。」
あんなに容易くくしゃくしゃにできたものとは思えないほど硬い。ハサミが食い込みもしない。
これはもはや紙ではない、何か別のもの、別次元の物質ではなかろうか。
ならば捨てる。くしゃくしゃにもせず切り刻みもせずそのまま捨ててやる。
そう決心して、ゴミ箱に放り込む。
確か明日は燃えるゴミの日だよな。
去らばだよ、紙屑。
結局昨日の事は今日になってもかわらず、俺はあのプリントをどうすることもできなかった。
朝、早く起きてリビングに向かう。
やはり、母さんが出すゴミの準備をしていた。
「おはよう」
突然の俺の挨拶に驚くも、すぐに笑顔を取り戻した。
「おはよう、今日は何かあるわけ?」
「いや、ちょっと……ゴミ、たまにはだそっかなって……」
「あら、助かるわぁ。だけど何で今日だけそんなこと…さては何か目的があるわね。」
「や、やだなぁ母さんたら。別に何もないよ。」
ただ便箋がちゃんと捨てられたか確かめたいだけだよなんて言っても理解はしないだろうから、言わなかった。
「まぁ何でもいいけど、外にでなくていいのなら、助かるわ。」
母さんはゴミ袋を縛ろうとしていた。
「まっ、待った‼俺も捨てるものがある。」
キョトンとしてから、あらそうといって袋をパスされた。
「もう入れるもの無いから、このまま入れたら捨てちゃって。」
そういって渡されたゴミ袋を受けとると、ずっしり重みがあって、思わず地面に置く。
「重すぎだろ、これ。」
「やだ、そんなんだったら野菜残さなきゃだねぇ。」
「そんなに残してねぇ‼」
母さんのトゲの刺す言葉に応戦しながらもゴミ袋を引きずって部屋へ行き、例の手紙をしっかりと奥へ押し込める。そして飛び出てこないように、素早くしっかりと結ぶ。
そしてよいしょこらしょとゴミ捨て場に持っていき、最後の気合いで、放り投げた。
そしてしばらくゴミ袋を見つめる。
早くあの紙の事は忘れよう。そうしてしまえば一番いい。
踵を返して家へと戻る。
何度かゴミ捨て場を振り替えるが、人の気配はなかった。
家に入って速攻自分の部屋へ行くと、机に初めて見たときおいてあったとおりに便箋がおいてあった。
「チクショウ‼」
壁をグーにした手で殴るが、ドンという音しかならない。
どうして、誰が俺の部屋に?
俺はゴミ袋に入ってるのを確かに確認した。ならば、あのゴミ捨て場から持ち出さねばここへは持ってこれない。
だけど、あのあとそれを便箋に取って、俺を追い越して、家に入ったやつなんていないはずだ。
なぜなら、俺は誰にも追い越されてないから。
「人じゃない…」
そう呟いた瞬間、ふと脳裏にあることが浮かんだ。
それは少し前に呼んだSF 小説のテーマだ。
異次元生物の侵食
異次元生物がこのせかいと間接的な通信を取って物体を移動させたり、人を殺したりする事だ。
確かこの小説の主人公は周囲でその現象が怒って悩まされて、追い詰められるというホラーな小説だった気がする。
そんなことを思い出しながらも、片隅ではまさかなと雑念を否定している。
とりあえず便箋を手に取る。
何か付け足されてるかもしれないと思ったが、全体に生臭さが染み付いていたが、それ以外に変化は見当たらなかった。
そこまでして俺を入学させたいのか?
なら、見に行ってやるよ。
後日、親に相談してみた。
「なにそれー。そんなことあんの?」
母の第一発言はそれだった。
俺は頂上現象以外の全てのことを話した。
母はそんなシステムあるの?と聞いてくる。何かの詐欺かもよという。
その線は捨てきれないが、何か違う気がした。
ここにいかなければいけないような気さえする。
「確かに心配もあるけど、こんなチャンス無いんじゃない?見るだけでも良いから行ってみたい。それで、合わなかったらやめればいいだけだから。」
俺の必死のアピールが伝わったのか
「それもそうね、このままあんたがどこへも入れずに家にいられたら困るわ。」
と茶化しを入れた許可をもらった。
「んんーーっ」
例の高校は俺の家の最寄り駅から二、三十分辺り電車に揺られると高校の最寄り駅に着く。
改札を抜けて、スマホに表示されてるマップをみる。
北口から出てそこから更に十五分くらい歩いた所にあるらしい。改札は二階にあって、改札回りにチェーンハンバーガー店、コンビニ、小さなイタリアンレストランが展開していて、更に吹き抜けていて、したにバスやタクシーのターミナルが一望できる、デッキのような場所があり、奥には喫煙所まで整備されていた。
そこをまっすぐ進むと、階段があり、それを降りる。
そこから、川が流れいて、橋を渡ったら、マップに従って歩く。
ふいに見えてきたのは、確かに新設を思わせる。綺麗な白いペンキが日光を反射させ、光輝いている。
そして正面には青い校門が佇んでいて、数人の教師だとおぼしきひ人達が立っていた。
「こんにちは‼」
挨拶してきたのは、黒いスーツのズボンだけを履いて、上は青色のYシャツにカフェオレのような黄土色のを着た眼鏡の奥に柔らかそうな瞳が覗く、清楚な若い先生だ。俺からしてお兄さん的な存在ぐらいの年頃だろう。
「こんにちはー」
「当選通知票を見せてくれるかな?」
例の便箋で送られてきた、細長い高
級紙を渡す。
1度、こっちをチラッと見てきて、また紙に視線を戻してから紙を返される。
「はい、ありがとう。ここから入ってまっすぐの建物です。」
と、奥の校舎指す。
なんだ。普通の学校じゃないか。いや、まだ安心できない。中に何があるかわからないし。
三学年しか高校は無いのに、中学校よりはるかに昇降口が広くて少し驚いた。ロッカー状の下駄箱が左右で、高く背伸びしている。
この下駄箱はまだ使えないので、持ってきた中学校の上履きに履き替え、靴はビニール袋にしまう。
入ってきたときは気づかなかったが、右側の壁に沿って自動販売機が三台並んでいた。
学校に自動販売機は俺にとって初めての光景で、少し驚いたが、内心の興奮が一気に高まった。
「すげえな、自販機あるよ。」
「そーよ。高校はどこもこんなもんよ。」
母親は素っ気なくそう返事した。
なんだ、しってんのか。と、少し悔しくなったが、まぁ俺より長く生きてるし、もしかしたらこんなことは常識なのかもしれない。
自販機の先にはテーブルと、ベンチが何セットかある、休憩所みたいになっていた。そしてその左側が廊下になっていた。
「はい、では、ここからまっすぐ行っていただいて、突き当たりの階段左手にありますので、そちらで二回まで上がっていただいて、体育館への通路が在りますので、そこから体育館に入ってください。」
目の前の光景に目が一杯で、そこに案内のもうすぐ定年を迎えそうな男の先生がいることになのど気がつかなかった。おわっと、心臓がガクンとぶつかったような感覚になる。
少し怖いのはその先生がかなりのギョロ目ということだ。ホントにこんな目が産まれたときからあるのだろうか?
案内の先生が少し不気味だっため、何でも恐れている自分がいる。
いけない、ここはまだ最初の最初だぞ。もっと、何かあるかもしれないのにこんな事で驚いてたらやってけねーな。
そう自分に言い聞かせ、ギョロ目せん先生に会釈して、その場を足早に立ち去る。突き当たり左に階段があるはずだ。いまは、角度からして壁と一体化しているように見えるが…
指示通りに行くと体育館に付いた。体育館は、2階で建築されているらしい。一階は武道場で、二階がいわゆる式などを行う体育館だ。
体育館には何人かの先客の親子がいた。
チュートリアル生は少ないのか、椅子が100個あるのか無いのかぐらいだった。
チュートリアル生は1クラス分だけのようだ。
「思ったより人数少なめなのねぇ。あなたも運がいいのか…」
「どういう意味だよっ」
母の言う通り人数が少なすぎる。せめて3クラスあってもいいはずなのだが、でもまぁ確かに多すぎても最初は困ってしまうかもしれない。
説明が始まるのは9時からだ。あと20分少々ある。
いきなり人に話しかけるのも勇気がなくて、スマホを開いてSNSや、ゲームで時間を潰すことにした。
そんなことしてれば20分なんてあっという間で、席は全部埋まって、体育館が騒がしくなった。
その中マイクのスイッチが入った音がスピーカーからなり、騒がしいのが一瞬で消えた。
「えー、只今より、星の丘学園チュートリアル生説明会を行います。始めに、校長先生のことば。」
ここしかない。説明会を終えた俺はそう直感した。
なに、普通の高校ではないか。無駄に心配した俺が馬鹿みたいに思えてくる。
母も賛成して、父に相談すると言ってくれた。
後に父からも許可を貰って…中学を卒業して…
今になる。