プロローグ
俺は戸惑っていた。
確かに歩いてきた。しかしなぜ?
周りの生徒もキョロキョロとして、どうやら俺と同じ被害に遭ったようだった。
まあそれは新たな環境に馴染めず、そわそわしているだけかもしれない。
しかしもうひとつ気になっていることがある。
それは圧倒的な人数の少なさだ。
普通の高校と同じキャパなはずだが、廊下で見た生徒はすべてこの教室へ入っていった。
窓の外は靄がかっていた。
まるで、真実を包み隠すように。
さてはうまい誘い文句だったのか…
そうと考えるとそれが真実のような気がしてきた。
帰らなくては。
その思いが強くなる。生徒がしゃべっていて、俺が動けばざわめきが起きる。恥ずかしいが今はそれどころではない。ここは危険だ、と心が警告している。
机の横のフックに掛けておいたリュックを掴んで肩に軽くかけて歩き出す。
予想通り、生徒はざわめき出す。
しかし構わない。悠然と、歩き出す。
教卓まで足早に歩き、そして右に曲がればすぐにドアがある。
教卓を曲がり、ドアに手をかけようとして、ドアが勝手に開いた。
自動ではなく、反対から人が開けたのだ。開けたのは、黒皮のカバーの薄い本を持ち、くすんだオレンジのニットのシャツを着て、下はスーツのズボンという不思議なスタイルで、メガネの物腰のやわらかな表情がこちらを見下ろしている若い男性だ。そう、間違えなく先生だ。
「どうした?忘れ物か?今取りに行ったら遅刻だぞ。」
クラスからどっと笑い声が出る。
あーあやってしまった。まさかの事態だ。このまま黙って走る手もあるが、勘違いだったらとても明日から学校に行けない。自分の弱さが出てしまい、口は勝手に
「ですよね、何やってんだか、あはは…」
そう言って誤魔化す作戦へと変更されてしまった。
先生はニコニコ笑っていたが、その目には明らかそうはさせまいというオーラのようなものがあった。
俺が諦めて席へ戻るのでそれにあわせて、先生も着席を促した。
席へついて、リュックを掛けると、右横から、声がかかった。
「おいおい、大丈夫かよ?始まって早々いいもん見してもらったぜ‼」
うひゃひゃひゃと笑う。
心の中で毒づきながらも、俺は何も言わないようにした。
先生が教卓に黒皮の本をおいて広げる。
「はい、そんじゃあね-私が今日からこのクラスの担当になりました…」
直後黒板辺りからバキバキと音がした。
えっえっ、とクラスが騒然する。
バキバキは止まらずやがて先生のお腹から緑の粘着質の手が出てきた。
「キャーーーー」
耳をつんざくような悲鳴がクラスを包む。俺も思わず椅子を引いてしまった。
その手は3本しかなく、明らかに人間の手ではなかった。
手がお腹の中に戻ったかと思うと、反対の手が出てくる。そして腹を横に裂く。
ドバァっと血が垂れて教卓の下に池をつくる。ぼとぼとと固体も落ちていく。
先生の顔を見ればニコニコ笑っている。
あまりの光景に俺は動けなくなっていた。
そして裂け目からにょっとカエルの頭が出てきた。
もうそれは先生と等身大だった。
カエルが先生に包まれていた状態になる。
さらに足が縦に裂けて緑の足が現れる。
最後にカエルが上半身を教卓左、窓側に投げ捨てた。
教室はものの数十秒で変わってしまった。血が溜まり、所々先生だった体が落ちている。
皆カエルにくぎづけだ。
「改めまして、私が今日から担当になりました岡本ピョン吉です。」
俺の予感はドンピシャだった。
クラスの誰かがあちらこちらで嘔吐している。
俺は一体、何をしたんだっけ?