「放課後の教室、夕焼けの魔法。」
※注意:作者は恋愛についてはさっぱりわかりません
私は放課後の、夕焼けに染まった教室が好き。
普段はみんながそれぞれの席に着いて、授業中なら勉強をしたり居眠りしたり、休み時間ならお喋りしたり本を読んだり。そうやって自由に過ごしている賑やかな教室もいいけれど。
放課後の誰もいない静かな教室――吹奏楽部の楽器の音や運動部の掛け声が僅かに聞こえてくる、夕方の茜色に染まった教室が結構好きだったりする。
以前、そのことを仲の良い友達のマナリに話した時は、
「ユミカってなんか変わってる」
と笑われてしまった。
けれど、
「そんなに私って変わってるのかな」
って、私がそういった時に彼は笑顔で
「ボクも放課後の教室って好きだな」
そういってくれた。
その時から私はもっと放課後の教室が好きになったし、彼のことももっともーっと好きになった。
だから、今こうして放課後の教室で彼と二人でお喋りしているこの時間がとっても幸せなんだ。
「それでね、社会科の山口センセがその時転んじゃって」
「それは大変だったね」
「うん、あの後マナリと二人で保健室まで運んであげてさー」
「湯原さんは優しいんだね」
他愛のないふわりとした会話の最中、彼がニコリとほほ笑んだ。
「っ」
ただそれだけなのに、私の鼓動はどんどん早くなって、顔がカーッと真っ赤になっているのがわかる。
夕焼けのおかげで彼にはきっとバレてない。だけど、このドキドキがやけに大きく、彼にも聞かれているんじゃないかと思うほどに大きく聞こえて。
早く収まってと自分の心臓に願う。
「あ、あのさっ」
「どうしたの?」
「空、綺麗だよね」
少しでも自分から意識を逸らしてほしくて、私は窓の外を見ながら話題を変えた。
「そうだね。太陽がだいぶ傾いて、ちょっと眩しいけど」
「うん」
「とても綺麗だと思う」
夕焼けに照らされて、彼がキラキラと輝いて見える。
「きれい……」
気が付けば、私はそんなことを呟いていた。
「あっ、今のは、ちがっ!」
「?」
「えと、綺麗っていうのは、その」
「どうしたの湯原さん。湯原さんも、確か夕焼け空好きだったよね」
「え」
今の、聞こえてなかったの……?
そう気が付いた時、私は恥ずかしくなってさらに顔が熱くなった。でも、彼に聞かれてなくてよかったかも、と同時に安心もした。
「うん、正確には夕焼けに染まった放課後の教室が好きなんだけど……」
「そうだったね」
「私このいつもとは違う感じの教室が好きなんだ」
今日は特に、彼がいるから。
「なんだか湯原さんてとてもロマンチックなこと言うんだね」
「えと、中木くんはそういうの嫌い……だった?」
「そんなことないよ。むしろそういうのって素敵だと思う」
「素敵……」
ドキドキ。ドキドキ。
鼓動が今までにないくらい早い。心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしている。
「ど、どうしたの、湯原さん」
私は彼の顔を見ることができず、顔を伏せてしまった。
彼は私のことを心配してくれていて、とても優しくて、それがとても嬉しい。……でもドキドキがうるさいくらいに大きくなっていって――息ができないほど苦しい。
「もしかして、ボク、何かおかしいこと言っちゃったかな」
「……ううん。中木くんは何もおかしなことは言ってないよ」
「そうかな。でも、うん、そうだね。素敵なことが言える湯原さんがそう言ってくれるなら、安心できるね」
「っ~~」
駄目だ。きっと今の私はとても真っ赤になっている。
夕焼けでも、もう誤魔化せないほど、赤く、熱く、ドキドキしている。
「ロマンチック、といえば湯原さんはこんな話を知ってるかな」
「な、なに?」
「“夕焼けの魔法”って言うんだけどね」
「夕焼けの……魔法……」
いつだったか、マナリがそんなことを言っていたような気がする。
「夕焼けでいつも見慣れたはずのものが、まるで違って見える……って話?」
「そうそう。流石は湯原さん、やっぱり知ってたんだね」
「た、たまたま、前にマナリがそんなことを言っていた気がしただけだよ」
「そっか、笹田さんが。意外だったな」
「そうかな? マナリって結構いいこと言うんだよ」
「類は友を呼ぶっていうくらいだから、きっと湯原さんの周りには素敵な人が集まるんだろうね」
「――――」
中木くんも素敵だよ。
そう言おうとして慌てて言葉を飲み込む。場の雰囲気に飲まれて危なく私はまた恥ずかしいことを言ってしまうところだった。
「それにしても、夕焼けって本当にいいよね。湯原さんの言う通り教室も、教室からの景色も全然違って見えるよ」
「う、うん」
「ただ太陽の光で少し赤みを帯びているだけなのに、神秘的な空間になったみたいだ」
「そうだよね。あまり他の人には理解してもらえなかったんだけど……もしかして中木くんも結構ロマンチストだったり?」
「あはは、どうかな。あまり考えたこともなかったけど……」
「あ、もしかして、私変なこと言っちゃったかな」
「そんなことないよ。全然変じゃない、むしろ素敵な湯原さんと同じだって言ってもらえて嬉しいよ」
「ぁ」
今まで必死に抑え込んでたのに。
そんな眩しい笑顔で、そんなトキメクようなこと言われちゃったら、私はもう――。
「ね、ねぇ、中木くん」
「なに?」
もうドキドキは止まらない。今更止めようとも思わない。
「実は私ね、ずっと中木くんに言いたいことがあったんだ」
「そうなんだ。なにかな」
夕焼けの魔法。世界を茜色に染めて、いつもとは違う神秘的な世界に作り変える。見るものすべてがキラキラと輝いて見えて、まるで魔法がかかったような時間。
「中木くんとは1年生の時から同じクラスだったよね」
「そうだね」
日の光を浴びて体温が僅かに上昇する。
口を開こうとすると緊張と熱っぽさで喉が渇いてしまって、私は唾を飲み込んだ。
「私が廊下で転んじゃったとき、中木くんが手を差し伸べてくれて」
「女の子が転んでるのに、無視はできないよ」
「うん、中木くんは本当に優しいね。私はあの時、中木くんが、その、王子様に見えたんだ」
ドキドキと心臓の音がうるさい。視界も霞んで、彼の顔がよく見えない。
けど、そのおかげで私は彼から目を逸らさずに伝えられそうだった。
「王子様って、おおげさだな」
「ううん、本当にあの時の私には、中木くんが王子様に見えたの」
あの時、私の心にはとても小さく弱く、それでも確かにある気持ちが芽生えた。
「だから、私は中木くんにこれを伝えないといけなきゃって」
それはどんどん大きく強くなって、そして今、その気持ちはもう私の中には留めておけなくなった。
「中木くん、あの時は助けてくれてありがとう」
「そんな、気にしなくてもいいのに」
「それから、あの時から私は中木くんのこと――」
だから私はこの気持ちを彼に伝える。
この、私が大好きな場所で、私が大好きな彼に。
私の大好きって気持ちを、夕焼けの魔法がかかった放課後の教室で伝える。
「初めて会ったあの時からずっと、私は中木コウタくんのことが――」
「コウター?」
ガラッと教室の扉が開かれ、誰かが入ってきた。
人生で初めての告白のタイミングで、私と彼と、二人だけの特別な教室。全てをぶち壊した人物は誰なのかと私は恨みの籠った視線で扉の方を見る。
「……マナリ?」
そこには私の親友であるマナリの姿があった。
「あれユミカじゃん。何してるのこんなとこで」
「え、あ、いや……」
なにをしているのか。それを改めて認識したとたん急に恥ずかしくなってきた。
「あれ? あれれ? ユミカ、そんなに顔を真っ赤にしてどうしたの~?」
「な、なんでもないっ」
「笹田さん。湯原さんはボクのお喋りに付き合ってくれていただけだよ」
「あ、そなの?」
「そうだよ。それより、笹田さんは何かボクに用事があったんじゃないの?」
「あーそだった。ちょっと運ばなきゃいけないのがあったから、コウタにも手伝ってもらおうって」
「そう。わかった」
「ほらほら、早く来て」
「あっ」
マナリが彼の手を掴む。
「湯原さんごめんね、さっき何か言いかけてたよね」
「あ、そなの?」
「えっ、あ、ううん! 大したことじゃないから気にしないで」
「本当?」
「ちょっとコウタなに疑ってるさ。ユミカが嘘つくわけないでしょー」
「……そうだね。じゃあボクはちょっと笹田さんを手伝ってくるよ」
「あ、うん」
「結構時間かかりそうだからユミカは先に帰っててー」
「……うん、わかった。それじゃあね、マナリ。中木くん」
「ばいばーい」
「さようなら、湯原さん」
マナリに引っ張られながら彼は教室から出ていった。
いつの間にか雲で太陽が隠れてしまったのか、教室はただ薄暗くなっていて。
私はいつもの教室で一人佇む。
「……寒い」
春とはいえこの時間になると少し寒い。
ドキドキはいつの間にかすっかり治まっていて、汗が滲むほど熱かった体はこの寒さで徐々に冷えていく。
さっきまでごちゃごちゃとしていた頭の中は、今じゃやけに冷静になっていて、私の中には特に何の感情も残っていなかった。
「……帰ろう」
鞄を担いだ私は、誰もいない教室を後にする。
夕焼けの魔法だなんてものは、あっけないほど簡単に解けてしまうんだなと。
私は廊下を一人歩きながらそんなことを思っていた。
春の陽気と西日の差し込んだ部屋の熱気で
ぼーっとしながらパソコンの前に座っていたら出来上がっていました。
前書きの通り恋愛経験はなく人を好きになったこともない
恋愛小説も読まなければその手の話がどういったものかさえ理解していない
そんな人が「たぶん恋愛?」と軽い気持ちで書いたのでジャンルは恋愛。異論は認めるが反省はしない。
あと未だに下手な文章は許して。
それからイマイチ書き方を理解していないのも許して。