トリック・オア・トリート
今朝思いつきました。
「……というように、今年もハロウィンは大きな盛り上がりを見せていました」
朝のニュース番組がそんなことを言っていて、僕はようやく今日がハロウィン当日なのだと思い出した。
けれど、僕には関係がない。楽しい人にはとびきり楽しいのだろうが、僕は仮装して街を練り歩いたりお菓子をねだったりしたいわけでもない。だから、今日も周りが騒いでいるだけで僕は台風の目の如く、いつも通りの学校生活を送るのだろうと思っていた。
教室に入ってみると、どのグループもハロウィンのことで盛り上がっている。僕はそれらを避け自分の席に座り、いつも通り本を読み始めた。
「がおっ!」
その声が聞こえたのは僕が本を読み始めてから数分後だった。声の主は僕の机の前に屈んで、飛び出しながらそう言った。
僕はというと夢中で本を読んでいたので、その声が聞こえた時は心底びっくりした。こんな事をするのはあいつしかいない。幼馴染の京香だ。
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞっ!」
「お菓子を持っていないからイタズラしていいよ」
「え⁉︎」
予想外の反応に京香はしどろもどろする。
「……イタズラの範囲はどこからどこまで?」
京香は周りに聞こえないように小さな声でそう呟いた。
ーー終ーー
「この通り、歩行者天国なので人とぶつかることはありません。今年のハロウィンは去年より盛り上がりそうです」
朝のニュース番組が昨日の映像を流していて、今日がハロウィンだということに気がついた。けれど僕には関係ない。興味がないのだ。だから、今日も普段通り、平穏で何事もなく学校生活が送れると思った。
予想通り、クラスはハロウィン一色に染まっていた。僕はそれらをかいくぐるように自席についた。
僕が席に着いてから数分間、一人の少女が僕の近くでもじもじしている。彼女は佐山ゆかり。僕のボッチ仲間だ。
僕は消極的なというよりは排他的な性格なので、学校に友達はいない。けれどそれだと色々不便なので僕は早々に佐山を見つけ、声を掛けた。それから僕たちは必要があれば相手の事を利用する、共依存的存在となった。
普段の佐山ならばさっさと席に着いて本でも読んでいるのだが、どうしたというのだ?
それから一分も経たないうちに佐山は近づいてきてこう言った。
「ト、ト、トリックぅオアぁトリート。お菓子を、くれなきゃ、イタズラしちゃうぞ!」
僕は数秒見惚れていた。顔を真っ赤にさせた佐山はとても可愛らしかった。というか、佐山でも浮かれることってあるんだな。
「ごめん、今お菓子の持ち合わせがないんだ」
僕がそう答えた瞬間、佐山は僕の頬にキスをした。
「え?」
「だって君は、お菓子を持っていないじゃない。イタズラするって言ったでしょ」
……佐山、これはイタズラじゃなくてご褒美と言うんだ。
ーー終ーー
可愛くて仲のいい女の子にイタズラされたいですね。