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冬童話2016 湯煙と雪の「またね」

作者: 雪だるま

冬童話2016 湯煙と雪の「またね」





「えっと、一緒に遊ぶ?」


女の子はそういいました。


「え、私?」


声をかけらた女の子は驚いているのか、目を丸々して、声をかけてきた女の子を見ます。


「うん。私も暇なんだー。お父さんとお母さんも温泉温泉ばかりだから」

「あー、そうだよね」


そう。

ここはある有名な温泉の観光地。

大人にとっては、とても素敵な場所かもしれないが、一緒に連れてこられる子供たちにとっては、温泉なんて、家のお風呂と変わりない。

ただ、遊びが制限されるだけである。


「だから一緒に遊びましょう。そっちも暇なんでしょう?」

「うーん。でも、あんまり遠くへいけないよ?」

「そうだね。お父さんもお母さんも遠くに行っちゃだめって言われてるわ。どうしよう?」

「じゃ、私ボール持ってるからそれで遊ぼう」

「あ、そうなんだ。いいの?」

「うん。私も暇だったから。ちょっと待っててね」

「うん。待ってる」


彼女たちは旅館のロビーで別れる。

それと入れ替わりに、待っている女の子の両親が戻ってくる。

体から湯気が上がっているから、お風呂からの上がりたてだろう。


「優、待ったかい?」

「優ちゃんも一緒に来ればよかったのに」


そう両親が言うが、子供にとって、お風呂に入るのとは眠るための準備であり、遊びは終わりの合図だ。

元気一杯の優も同じように、昼から露天風呂に入る気にはならない。


「いやだもん。お風呂はいったらお休みしないといけないんだもん」

「うーん、でも暇だろう?」

「大丈夫。さっきね、私と同じようにこの旅館に来てる子がいてね。一緒に遊ぶためにボール取りに行ってるんだ」

「あら、そうなの?」

「一緒にほかのお風呂に行こうと思ったんだけど……」

「お約束はやぶちゃダメだから、私はいかないよ」

「そっかー。でも遠くに行っちゃだめよ?」

「そうだぞ。ボールも十分気を付けてな、周りの物を壊さないように」

「はーい」

「じゃ、これ。おこずかい。そのお友達と何か暖かいものでものんで」

「寒いからちゃんと友達の分も買ってあげるんだぞ?」

「うん、分かってる」


そういって優の両親は、そのままほかのお風呂に向かう。

その後ろ姿を見送って、優は自分の手を見る。


「もう、あんにお風呂に入ったら手がふやふやになっちゃう」

「だねー。あんなに入るとそうなるよね」

「うわっ」


気が付いたら優の後ろに、ボール持ったさっきの女の子が立っていた。


「脅かしちゃった? ごめんね? あの人たちと話してたから、ちょっと様子見てたんだ。もしかして、お父さんお母さん?」

「そうだよ。私のパパとママ。また、ほかの温泉に入るんだって。手とかフヤフヤになるのに何がいいのかわかんないわ」

「そうだね。大人って温泉何回も入るから不思議だねー」


大人にとっては気持ちのいいのだけれど、子供に理解されるのは、彼女たちが大人になってから。

何とも矛盾した話である。


「あ、そうだボール持ってきたよ」

「ありがとう。じゃ、どこで遊ぼうか?」

「そうだ、旅館の中に広いホールがあるよ。人は今ならいないんじゃないかな?」

「そういえばあったね。あそこなら大丈夫かな? 行ってみよう」


2人は連れだって、その場所に行く。

そこはガランとしていて、隅に卓球台などがある。

おそらく、遊びたい人はここで自分で準備しろというこだろう。

張り紙があって「道具は大事に使ってください」とある。


「ここなら広いし、壊れそうな物はないわね」

「そうだね。じゃ、私あっちにいくねー」


女の子はそういって、優の反対側に走っていく。

そして、ある程度、優から距離を取ってから、ボールをもって構える。


「いくよー」

「うん、いいよー」


優が返事をすると、ボールがポーンと山なりにゆっくり飛んでくる。

それを危なげなく、キャッチする優。


「もっと強くても大丈夫だよー」

「わかったー」

「じゃ、私も行くよー」

「いいよー」


そういって優も、女の子にボールを投げ返す。

ポーンと飛んだボールを女の子は問題なく取る。


「私ももっと強く投げて大丈夫だよー」

「わかったわ。もっと強くいくねー」


ボールを投げて受け取る。

ただ、それだけのやり取り。

普通なら、こんな投げ合いだけではすぐに飽きてしまう優だったが、この時はこのやり取りだけで十分に楽しめていた。

きっと、女の子も同じ気持ちなのだと、優は確信していた。

だって、とても嬉しそうな笑顔だったから。

優は思った、きっとパパやママが「私が笑ってくれると嬉しい」と言っていたのは、こんな気持ちだったからなんだと。

でも、そんな時間ほど早く過ぎていくもので、気が付けば、柱時計が音を鳴らして、時間が経っているのに気が付く。


「あ、もうこんな時間だ」

「ほんとうだね。今日はもう終わりにしようか? 明日も旅館にいるの?」

「うん。明後日までいるんだ。明日もよかったら一緒に遊びましょう」

「うん。遊ぼうね」

「また明日ねー」


そう言って優は彼女から離れて言ったのだが、すぐに引き返してくる。


「どうしたの? 忘れ物?」


女の子は不思議そうに首を傾げる。


「忘れてた。パパとママに怒られるわ」

「え、何か大事な物!? どこにあるんだろう?」


優の言葉に、女の子は驚いて辺りをきょろきょろ見回す。

そんな女の子をほっといて、優は飲み物の自動販売機に近寄る。


「その下のあるの?」

「ううん。えっとね。パパとママがあなたと、お友達と一緒に飲み物でも買いなさいってお金くれたの。一生に飲みましょう」

「えと、いいのかな?」

「いいよ。お友達だもん」


優がそう言うと、女の子は嬉しそうな顔をして、パタパタと自動販売機に近寄ってくる。


「どれが飲みたい?」

「うーん。私はお茶ぐらいしか飲んだことないなー。ほかの物って美味しいの?」

「あー、ジュースってあんまり飲めないよね。私のパパとママも厳しいんだ」

「うん。そんな感じ。なにがいいか、わかるかな?」

「そうだなー。私が一番好きなのはこの販売機にはないけど……、じゃ、これかな」


そう言って優はボタンを押して、自動販売機からコロコロとジュースが出てくる。

それを取り出して、女の子に渡す。


「こーらって言うのよ。しゅわしゅわしてて甘くておいしいの。はい」

「ありがとう。へー。冷たいね」

「うん。こーらは冷たいのが美味しいんだよ」


そういって、優は自分の飲みたいぶどうソーダを買って、蓋を開けるとプシュっと炭酸ジュース特有の音がする。


「ふわー、本当にしゅわしゅわだー」


それを見ていた女の子は目を輝かせている。


「そのこーらも同じだから、開けてみるといいよ」

「うん」


女の子は優と同じように、缶の蓋を開ける。


プシュ……。


「あわわ!? 泡があふれてるよ!?」

「あー振っちゃったかな? 降ったりするとそんなふうに泡があふれるんだ。早くこぼれる前に飲まなきゃ」

「う、うん」


泡が吹きこぼれているジュースに慌てて口をつけて飲む女の子。

その様子を見ている優。


「どう? 美味しい?」

「うん!! 美味しい!! しゅわしゅわで甘いね!!」

「よかったー。と、私もう行くね。また明日-」

「また明日ねー。じゅーすありがとー!!」


優は女の子と別れて、泊まっている部屋に戻る。


「お帰り」

「お帰りなさい」

「ただいま」


部屋にはすでに両親は戻っていて、のんびりしていた。


「友達と遊んでたのかい?」


優のお父さんはそう聞いてくる。


「うん。旅館の中に自動販売機がおいてあるだけで、広い場所があるんだ。そこでボールの投げ合いっこしたんだよ」

「ああ、遊技場ね。卓球台とかもあったね。ママ後で行ってみるかい?」

「そうね。ご飯を食べた後で3人で行ってみましょうか。優は卓球初めてだから教えてあげるわ」

「ほんとう!!」


そして、優は両親と一緒に晩御飯を食べて、卓球でうんと遊んで、ぐっすり寝た。

次の日、女の子と卓球で遊ぼうと思いながら。



「あれー? いないなー?」


次の日、優は昨日と同じように、両親の温泉巡りには付き合わず、女の子と一緒に遊ぼうと思って、昨日の遊技場に来ていたが、その姿は見えず、ほかの大人が卓球で遊んでいた。


「あれ? どうしたの? 迷子?」

「あ、ほんとだ。大丈夫かい?」


その姿を見ていると、向こうも優に気が付いたのか、心配して声をかけてくる。


「ううん。違うよ。今日ね、ここで友達と遊ぶ約束してたんだ。お姉さん、お兄さん、こうんな黒髪で、きものを着た子みなかった?」

「見なかったなー。ね、そっちは?」

「うーん。着物の子なんて目立つとおもうけど……。って、おい。まさかあれじゃないか?」

「え、あれって?」


お兄さんはそういって、お姉さんにボソボソと話し始める。


「まさかー」

「でも、それしかないだろう?」

「だけど、それって私達が……」

「いいんじゃないか? この子の話だとこの旅館にいるって話だし、ならあそこしかないだろ? 別に部屋を譲るわけじゃないんだし。これって、きっといいことの前触れだよ。」

「……そうね。私達なんかよりも、同じ年代の子のほうがいいに決まってるわよね」


そんな声が聞こえてきて、優は思わず質問してしまう。


「何か知ってるの?」

「あ、うん。その子がいる部屋を知ってるけど行ってみるかな?」

「本当!!」

「たぶんだけどね」

「行く!! 約束は守るんだ私!!」

「そっかー、いい子だね」

「じゃ、こっちだよ」


優はお兄さんとお姉さんに案内されて、ある部屋の前につく。


「このお部屋?」

「うん、たぶんね。じゃ、僕たちはいくね」

「女の子によろしくねー」

「ありがとうございました」


お兄さんとお姉さんは部屋に入らずに、そのまま行ってしまう。

優はお礼を言って、その部屋に入ると……。


「うわぁ」


驚きで部屋を見回す。

その中は、おもちゃでいっぱいだった。

ぬいぐるみから、ラジコン、果てはアニメのヒーロー人形やヒロイン人形まである。

そして、その中にポツンと昨日の女の子が座っていた。


「あ、いた」

「あれ? どうしてここに?」

「お兄さんとお姉さんに案内してもらったんだ。あなたがここにいるかもって」

「あの人たちが……」

「兄弟?」

「ううん。ちょっとした知り合い」

「そっか。でも、すごいねこの部屋。おもちゃでいっぱいだ。こんな部屋を見つけたら、私との約束を忘れちゃうのはしかたないなー」

「え、ううん。忘れてないよ。そうだ、一緒にここで遊ぼう。おもちゃもいっぱいあるし!!」

「え? いいの? ここ誰か泊まってるんじゃないの? おもちゃはここの人の物だよ?」

「えーっと、私がこの部屋に泊まっているんだ。だから大丈夫。昨日もここからボールをもってきたの」

「あ、そっか。昨日のボールもあるね。ここに泊まってたんだ。じゃ、今日はあなたの言う通りここで遊びましょう。昨日の広い場所はお兄さんとお姉さんが遊んでるんだ」

「うん、知ってる。そこに優ちゃんがいなかったからどうしようって思ってたんだ」

「そうだったんだ。お兄さんとお姉さんに後でもう一度お礼いわないといけないね。おかげでまた会えたし」

「そうだね。で、どれで遊ぶ?」

「うーん、じゃ、これとこれとこれとこれ!!」


優はたくさんのおもちゃを指さす。


「そんなにたくさんあそべないよぉ」

「うーん。じゃ、1つずつ遊ぼう」

「そうだね」


そして、2人でその日は沢山のおもちゃをつかって、たくさん、沢山遊んだ。

気が付けば、時間が両親との約束の時間で、明日でこの旅館をでることになる。


「私、明日帰るんだ」

「うん。遊べて楽しかったよ」

「私も楽しかった。明日会えるかわからないから……、今、言っておくね」

「……うん」


優の言葉に女の子は悲しそうにする。


「また遊ぼうね」

「え?」

「パパとママはよくここに来るんだ。この前来たときは気が付かなかったけど、今度からはこの部屋に遊びにくるね」


そういわれて、女の子は満面の笑みでうんと頷いた。


「そうだ。また、パパとママからお金もらってるんだ!! またジュース買おう!! 乾杯してお別れ!!」

「なにか変じゃないかな? でも、いいかも。近くの自動販売機はあっちだよ」


自動販売機の前でどれを買おうか2人で悩んでいると、優がふいに口を開いた。


「そういえば、お名前なんていうの?」

「あ、言ってなかったね。私は……」


そうして、2人のお別れは楽しく美味しく終わった。




翌日、優は車に乗っていて、旅館を離れる時を迎えていた。

なぜか、優の両親と昨日のお兄さんとお姉さんが楽しそうに話をしているのが不思議だったけど、知らないところで知り合いにでもなったのだろうと思った。

そして、ある程度、両親が話を終えて車に戻ってくる。


「さ、お家に帰ろうか」

「うん」


父の声に優が返事をすると、車がゆっくりと動き出す。

優は車の窓から手を離さず旅館のあちこちに視線を向けている。

外には雪が降っており、窓は優の吐息で白くなる。

それでも何度も窓をぬぐっては優は外を見続ける。

すると、優の母が声をかけてくる。


「ねえ、優ちゃん」

「なに?」

「真心ちゃんと楽しく過ごせた?」

「え? 真心ちゃん知ってるの?」


昨日、私だけが聞いたと思った女の子の名前を母が知っていることに驚いた優は母に振り返る。

そこには、とても優しい表情をしている優のママがいて……。


「ほら、あっちの方向」


ある方向を指さすと、そこには旅館の窓からのぞく、優のお友達の真心が手を振っていた。

慌てて、車の窓を開けて、大きな声を出して、手を振り返す。



「またねー!! 一緒に遊ぼうね!!」



その声にこたえるように、真心も笑顔になり、口が開くが窓越しになっていてわからない。

だけど、優にはわかった。


『また、一緒にあそぼうね』

「うん!!」


そして、優はその旅館から離れて、家路につくのであった。





車を走らせる音だけが響く。


優が疲れて車の中で寝てしまっている。

その優を優しそうになでる、優のママ。


「よかったな。彩」

「うん。真心ちゃんにまた会えた。でも、優だけしか遊んであげられなかったのが残念だわ」

「仕方ないよ。だって真心ちゃんは……」

「ううん。座敷童なんかじゃないよ。私の大事なお友達」

「……そっか、そうだな。なら、今度はちゃんと予約取れるといいな」

「もう。それは言わないでよ。……でも最後に会えてよかった。名前呼んでもらえたの」

「え? 俺には見えなかったし、声も届く位置じゃないだろう?」


そういう旦那の言葉を否定するように、嬉しそうに笑って。


「女だけ通じ合うものがあるのよ」

「そういうもんか」

「そうそう」


そして、彩はあの時の真心の別れの言葉を思い出す。



『またね。彩ちゃん。慌てんぼうなのは変わってないね』



彩はそんな言葉を思い出し……。


「うっさい。恥ずかしがり屋にいわれてくないってーの。……またね。真心」







その旅館には座敷童が住むという。

部屋、旅館で着物の少女と出会えば幸せになるという。

ただ、ごく一部にこんな噂がある。

その座敷童は決まって冬の雪の降る日姿を現す。


が、恥ずかしがり屋で誰でも会えるわけではないらしい。



彼女は今日も、湯煙のと雪の舞う旅館で1人遊んでいるかもしれない……。






どうだったでしょうか?

期限ぎりぎりで詰め込んで書きましたが、なんとか投稿できました。

楽しんでもらえたのであれば幸いです。


最後に


日本のどこかに、こんな旅館はありそうですよね?



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[一言] 真心ちゃん、会ってみたいものです。
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