第5話 私の想い、伝えたつもりが・・・<後篇>
その日の朝、私は学校に来るのが少し、遅れました。
瑞野さんは、もうすでに来ていました。
菊井さんは、とても登校が遅いので、まだ来ていません。
そこで、私は、瑞野さんに、何とか自然に話しかけようと思って、とても不自然な声のかけ方をしてしまいました。
「菊井さんは、まだ来ていないのですか?」
「うん、まだ来てない。」
「菊井さんはいつも遅いのですか?」
「そう、美代は当分こうへんと思うで?いつも遅いから。」
「そうなんですか。瑞野さんは早く来るのですか?」
「いやいや、そんなことないで。結構遅いで。」
「そうだったんですか。ところで、瑞野さんには、彼氏はいますか?」
とても、不自然な質問。
私の記憶が正しければ、瑞野さんは釣本さんと付き合っているはず。だけど、今も付き合っているのか、それが、わかりませんでした。
そこで、私の気持ちに気付かれることを覚悟のうえで、聞いてみたのです。
「おるわけないやん。」
怪しい答えですね。口調は真実っぽいですが。
彼氏との関係を隠す人にも思えないのですが・・・・・というか、それより、私の気持ちには、気が付いているのでしょうか?
男性が女性に彼氏の有無を聞くのは気がある証拠、とメールマガジンに書いて買ったはずです。女性向けの記事だったので、柚木高校に通うような、学力の高い女子にとっては、メルマガを読むまでもなく、常識の話ではないでしょうか?
あ、私がその記事を読んでいたのは、たまたまですよ?超保守派で右寄りの私が、おかまの訳がありません。そういう疑惑は、たびたび出てきますが・・・・。
瑞野さん、大好き!そう、ストレートに言わないと、わからない人なのかも、しれません。
彼氏の有無を聞いても、瑞野さんは、普通に私と会話を続けました。
「瑞野さんは、何部に所属しているのですか?」
「家庭科部やで。」
「ああ、家庭科部なんですか。だから、前は裁縫を…。」
「ああ、あれは関係ない。」
「え?関係ない!?」
「あれは、ちょっと綻びがあっただけやから。それで直しとっただけで。ほころびがあったからな。」
「道具も自分で?」
「そう、中学生の頃の道具。少し破れていたから、直しただけ。家庭科部ではそんなことせえへんし。」
「よく、自分でしようと思いましたね。」
「中学校で習ったことやし、みんなしてるんじゃない?綻びがあったから直しただけで、家庭科部の部活じゃないから。」
「そうですか。」
「これは家庭科部とは関係ないから!」
瑞野さん、貴女が長いことしゃべると、全然要領を得ない言葉になるのですね。そんな貴女でも、どんな貴女でも、好きですけど。
もうそろそろ、菊井さんが来る時期です。
私は、自分の席に戻りました。
瑞野さんと話をするには、自分でチャンスを作らないといけません。ところが、私は瑞野さんと話す機会がそれほどないのです。
相手が湯口さんであれば、何かの拍子に話ができるわけですが、瑞野さんにあまり話しかけていると、私が瑞野さんのことが好きじゃないか、と思われてしまう。
むしろ、今は、湯口さんのことが好き、と思われているほうが、都合がいいのです。
そこで、昼休みに、菊井さんが手を洗いに行った隙に、瑞野さんに声をかけてみました。
「瑞野さん、あなたの誕生日はいつですか?」
「6月11日です。」
「もうすぐじゃないですか!それじゃあ、誕生日プレゼントを贈りますね?」
「え?ほんまに?」
「ええ、まあ、女性相手には99円と決めているんですけど、それでもいいですか?」
「ええで。ありがとう。」
これを、告白と気づかないということは、瑞野さんは、いろいろな男子から、誕生日プレゼントをもらいまくっている感じなのでしょか?