第4話 私の想い、伝えたつもりが・・・<前篇>
主人公と瑞野愛未の出会いの場面が、この小説にはありません。「淡く清き季節 出会い篇」を『新政未来』(新政未来の党の機関誌)に連載していますので、よかったらそちらも読んでください。
湯口さんと陸奥君の話の詳細も、「出会い篇」に掲載する予定です。
湯口さんは陸奥君の彼女ということだそうですが、ここまで交際の事実が疑われるカップルは、少ないでしょう。
本当に二人が付き合っているのか?まあ、二人とも付き合っていると主張してはいますが、付き合っていないほうにかけたほうが、賭けに勝てるのではないか、とついつい思ってしまいます。
「二人とも付き合っているといっているじゃないか!」という人もいるでしょうが、世の中には「自称・リア充」同盟という関係が存在します。普通じゃない人には、普通じゃない関係があるものです。
その、湯口さんの後ろに座っている、瑞野さんは、今のところはおかしいところはありませんね。
だけど、私は、瑞野さんのことが、無条件に好きですから、仮に瑞野さんがおかしい人であっても、極端な話、レズビアンであったとしても、瑞野さんのことが好きです。
どうやら、瑞野さんは、自分が私の観察対象下に入っていることに、気づいていないようです。と、いうと、危ないストーカーを連想してしまうかもしれませんが、これは決してストーカーではありません。
私は、湯口さんと会話をしながら、瑞野さんに声をかける機会をうかがっているのです。
これがストーカーだというのであれば、世界中の男性がストーカーでしょう。そもそも、政治家を目指す人間は、結婚相手の「身体調査」を行うのが常識です。
その日の朝、私は、湯口さんのところに近づくように見せて、湯口さんの席の後ろのほうに立ちました。
瑞野さんに、声をかけるためです。
瑞野さんは、なにか、裁縫のようなことをしていました。瑞野さんは、家庭科部所属か、何かなのでしょうか?
「瑞野さんは、席が同じところになったんですね。」
いかにも下手な声のかけ方ですが、馬鹿にしないでください。
ほとんど話したこともない好きな女の子が相手で、上手な声掛けをする人は、誘拐犯予備軍ないし結婚詐欺予備軍です。私には、できない芸当です。
「うん、同じなんや。」
ちょっと、そこで、話を終わらせてしまいますか?用もないのに男子が女子に声をかける時点で、私の気持ちに気付いてくれても、いいんじゃないですか?
とは思っても、向こうが私のことを嫌っている、という意思表示なのかもしれません。或いは、湯口さんと一緒で、恋愛能力が欠如・・・・いや、ただ単に私を恋愛対象だとは粕ほどにも思っていないだけなのかも、しれません。
もしも、瑞野さんが私のことを嫌っているのであれば、菊井さんから連絡が来るでしょう。あるいは、心理術を仕掛ける、という手もあります。
不自然に力を入れないように注意しつつ、全身の感覚を使って、タイミングを計ります。裁縫をしているときは、色々なことを聞く、絶好のチャンスです。別のことに関心が言っているからです。
「瑞野さんの出身中学校は、宍禾ですか?」
「え?違うで?」
瑞野さんは、少し私のほうを見上げてから、再び、裁縫のほうに目をやります。
「あ、そうなんですか!湯口さんと同じ中学校の出身だと思ってました。それじゃあ、菊井さんと一緒、ですか?」
「いや、ちがうで。」
「そうなんですか?瑞野さんの出身中学校は、どこですか?」
「新鵤中。」
最近、柚木市に併合された地区の名前が出てきました。『風土記』の昔からの、由緒ある地名です。
メンタリズムを駆使すれば、もっといろいろなことが聞けるのですが、私にはそんな勇気はありません。
瑞野さんのことが、とにかく、好き。会話をすること自体が、そもそもの目的であって、情報収取は、二の次、三の次です。
なんだけど、菊井さんがもうそろそろ、やってきそう。菊井さんは、私が瑞野さんのことをが好きだとすると、かなり高い確率で妨害してきます。だって、菊井さんは私の過去を知っていますから・・・・・。
私が立っているポジション、よく見ると、瑞野さんよりも湯口さんに近く立っています。これ、わざとそうしているんです。
菊井さんが教室に入ってくると、湯口さんのほうを向きながら自分の席に戻っていく、そうすると、菊井さんを含め、たいていの人は、私が瑞野さんのことが好きだとは気づきません。あの、上野君もまだ気づいていないのですから。
だけど、瑞野さんは、私の気持ちに、気付いているはずですよね?
私の調べた範囲内では、瑞野さんが特に鈍感だということは聞いていないのですが・・・・・。
気付かないふりをしているのでしょうか?
「気付いていないふり」をされたからといって、好きな子を諦めるような、だらしない男はだめです。私は、瑞野さんを、あきらめません。
私が瑞野さんに再び声をかけたのは、その次の週の火曜日でした。
私としては、かなり思い切ったことを話したつもりなのですが、瑞野さんは依然、なんの反応もなし、でした。
瑞野愛未の元カレ(釣本一心都)のことを書こうとしましたが、この小説には保険をかけていないので、そちらについても「出会い篇」に書きます。
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