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淡く清き季節  作者: 日野智貴(讃嘆若人、旧:暴走若人)
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第3話 席替えの時

プレゼントの値段は、99円。リボンすら、つけていない。

そんなお菓子でも、プレゼントはプレゼント。今日の朝、私は、菊井さんにプレゼントを渡すのです。

上野君への、若干の、皮肉を込めて。

値段が安い?それには、最高の言い訳が、あります。

彼氏がいる女子に対して、あまりexpensiveなものを送ると、その子の彼氏に失礼、以上!

私が、修学旅行中に、行くときの飛行機で菊井さんにしたことの方が、はるかに幸村君へ失礼なのですが、その時の話は、また後にしましょう。

男子の9割はプライドで動きます。幸村君よりも高いプレゼントを贈ることは、幸村君のプライドを傷つけることです、と、こうやって、自己正当化を図るのが、生活の知恵。

今の国会は、安東政権の提出する「戦争参加法制」を(めぐ)り、大荒れに荒れています。私の関心は、そちらの方。

そんなことの情報ばかり集めているから、成績が下がるのですけどね。

まぁ、人生、楽しまないと!


「菊井さん、誕生日おめでとうございます!」

そう、私は、上野君のほうをちらちら見ながら、菊井さんに、誕生日プレゼント送りました。

「なんや、あのドヤ顔、腹立つなぁ。」

とか何とか、上野君かその周りの人間の声が耳に入ったかもしれませんが、聴かない、聴かない。

「ありがとう!マヨネーズの無料券は?」

「それが、上野君にごみ箱に捨てられたから、さすがにゴミ箱に入ったやつをプレゼントに――――」

などという会話をしながら、上野君のほうをちらちら、満面の笑みで見てやりました。


昼休みのこと。

菊井さんと、瑞野(みずの)愛未(まなみ)さんが、黒板の下のところ――――少し床が高くなっているところが教室の前方にあるのですが、教卓と黒板の間である、そこです――――に、一緒に座って、膨大な量のお菓子を食べていました。

瑞野さんの席は、一番窓側―――黒板に向かって左側――――の前から二番目。二人がどうして仲が良いのかは知りませんが、まさか、席が近いのが理由でしょうか?四月からすでに仲が良かったところを見ると、部活で一緒だったのでは?と考えてしまいます。

二人が、私が送った99円のお菓子を食べたかどうか、そこまでは、見ていません。

私は、自分の弁当を食べると、さっさと、図書室に行きましたから。


図書室で、久しぶりに『優生学と人間社会 ― 生命科学の世紀はどこへ向かうのか』という本を読んでみようと思いました。この本は、初めて読んだのは二年生の時でしたが、なかなか示唆に富むいい本だったからです。

本を手に、新刊書を長椅子が囲んでいるコーナーへと向かいました。背もたれ付の長いす、いい読書場所です。

すると、二年生の、杉本さんがいました。

私が二年生のころ、この少女は一年生。

二年生の時、私は、上記のような本を読みまくり、政治活動をしていました。

そして、私を襲ったのは――――すざましい、Character Assassination の嵐でした。

人物破壊工作――――即ち、Character Assassination ――――は、政治活動をしていると、それは、必然的についてくるものです。

しかし、もしもそれに、学校権力が絡んでいた場合、生徒は、どうなるでしょうか?

学校権力も絡んだ、Character Assassination を受けて、無傷な生徒が、果たして、どこに、存在するのでしょう?

杉本さんと会ったときの私は、少なくとも、メンタル面では、壊滅的な破壊を受けていました。

そこから、立ち直ることができたから、今の私がいるわけですが・・・・・・。

「杉本さん、ですか?」

「はい。」

杉本さんは、私を見て、誰か、記憶の中を殴るような顔をしました。

「あの時は、ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。」

こういうと、向こうも、私のことが誰か、分かったようです。

「いえいえ、私は何もしていませんでしたから。――――お土産、ありがとうございました。」

私は、軽く会釈して、新刊書の棚を挟んだ、向かい側の席に座り、読書にふけりました。


さて、7時間目に、席替えです。

私は、視力の問題もあり、黒板に向かって左から三番目の列の、前から二番目を指定しました。他の人は、(くじ)の運に身を任せています。

比較的親しい男子が、近くの席になったので、とりあえず、満足。

湯口さんのほうを見てみると、席替えの結果を、露骨に、嫌がっていました。

一番窓側の席の、一番前。

その後ろは、というと・・・・・・・。

瑞野さんです。

瑞野さんの席には、変更はなかった模様です。

こういう偶然が起こるのも、籤引きの(たの)しさ。

帰りの時に、私は、湯口さんに言いました。

「湯口さん、どうでした?」

「もう、いややわ!」

私が去った後、湯口さんは、女子同士の会話で、今回の席替えに関する愚痴を、思う存分に言った模様です。


私が好きなのは、瑞野さんです。

瑞野さんの雰囲気が、好きというか、とにかく、瑞野さんが好きなのです。

上野君とかは、私が湯口さんのことを好きだと思っているようですけど、私が恋愛感情を抱くのは、瑞野さんだけ。

いつから好きになったのか、と言われると、ちょっと、困ります。最初に出会った時のことは、私は、忘れてしまっているぐらいですから。

ただ、二年生のころに、6組だった寺田さんと間違えたことが、あります。寺田さんのそっくりさん、ということで、名前を覚えていました。

その時、私と菊井さんは、5組でした。そして、瑞野さんは、7組でした。

7組には、私は、様々な事情から、入ることは、清水の舞台から飛び降りることと、同じぐらいには可能でしたが、そこまでする必要性は、皆無でした。

したがって、三年生になって、同じクラスになるまで、瑞野さんとの接点は、ほとんどなかったと思います。

しかし、クラスが一緒になると、菊井さんといつも一緒にいる、瑞野さんは、目につきます。

そして、瑞野さんの雰囲気は、完全に私の好みだった、というわけです。

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