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10.魔女に報告しましょう

◆ステージ2「林」◆


 ――魔女の館にて。


 なるほど、見くびっていたようだ。

 まさかお前たちのようにちっぽけなもの共があの厄介な大蛇を倒してしまうなんてな。

 約束してしまったものはしょうがない。

 一度叶えてやると決めた以上、お前たちの願いを叶えてやらんわけにはならない。


 さあ、話すがいい。

 お前の願いはなんだ、ヒヨコよ。



「ここまで来ちゃったか。なんだか寂しい気もする」

「私としては十分満足だけれども……」


 大蛇を倒した余韻に浸っていたハヤロクたちを操作し、魔女の館に戻ってみれば、すぐにイベントは始まった。

 もしかして、魔女の館に戻らなければもっといろいろ移動できたのだろうかと思ったけれど、時すでに遅し。イベントは終わる気配も見せない。

 会話する魔女とヒヨコとネズミ。

 猫のような魔女の風貌はまさに捕食風景にしか見えないが、それはともあれこの雰囲気、もしかしてハヤロクの願いはもう叶ってしまうのではないだろうか。

 しかし――。


◆ステージ2「林」◆


 なに、不死鳥になるために来ただと?

 そのために生まれ故郷の鶏の王も倒し、この林を荒らしていた大蛇までもを倒したというのか。

 なるほど、お前はどうやら相当いかれたヒヨコらしいな。

 気に入ったぞ。

 だが、その願いをそのままそっくり叶えてやるには、まだまだ対価が足りん。


 さて、ネズミよ、お前は勇者として魔王の倒し方を聞きに来たと言っていたな。それなら簡単だ。魔王を倒すには聖剣があればいい。ただし、聖剣は七つの聖域に封じられたまじないを解かねば仕えぬようになっている。

 場所? それなら私の渡す地図でも見ればよかろう。人間どもの描くような無能な地図と一緒にするな。この地図ならば、正しくお前を導くだろうからな。

 問題があるとすれば、そのすべての聖域を優秀な守護者に託していることだろうか。守護者は力ある者の訪れを待っている。きっとお前ごときのネズミでは力不足だろう。


 そこでだ。

 ヒヨコよ、お前に提案がある。

 不死鳥になりたいというのなら、その勇猛なネズミと共に魔王を倒してみてはどうだろうか。不死鳥になりたいというのなら、雄鶏やら大蛇程度の敵を倒したくらいじゃ何にも足りない。

 ヒヨコのお前が不死鳥になれるほどの力を授けるに値するには、お前が魔王を倒すくらい活躍しなければならないだろう。

 どうだ、ヒヨコ。

 お前はそこまでして不死鳥になりたいか?



「な、なんか騙されてない? 魔王を倒しても何だかんだいって不死鳥にしてくれなさそう」

「あり得るよね。でも、ハヤロクの性格だとたぶんまんまと釣られそうだよね」


 確かに、魔女は早くもハヤロクの性格を見抜いているようだ。

 これはうまい具合にハヤロクが利用されるような気がする。いやでも、約束は守ると言っているわけだ。もしも魔王を倒しても魔女が約束を守らないようだったら、下手したらハヤロクに殺されるかもしれない。

 ただの雄鶏なんかになりたくないハヤロク。

 可能性がかけらでもあるのなら、きっと――。


◆ステージ2「林」◆


 魔王を倒せ?

 このネズミの勇者のサポートというわけか。

 面白い。

 雄鶏、大蛇、どれも骨のない奴らだった。

 ヒヨコという身分のオレに倒される程度の者だったのだから。

 そんなオレにとって、魔王なんてのも同じだ。

 このネズミと聖剣なんか正直どうでもいいが、それでオレを不死鳥へと変えてくれるというのなら、喜んでサポートしてやろうじゃないか。

 いや、サポートどころじゃない。オレが魔王を倒してやる。このネズミと違って聖剣なんぞ持てないが、そんなものハンデにすらならないだろう。


 いいだろう。やってやるよ、魔女。

 その代り、魔王を倒しても約束を守らぬようだったら、この嘴で貴様の心臓をえぐり出してやるから覚悟していろ。


 ――微笑む魔女と驚くネズミの勇者。


 こうして、ヒヨコ:ハヤロクの新しい冒険は始まった。

 TO BE CONTINUED...


 《続きは製品版で!》



「お、おおおお、お、おっ、終わったぁぁぁ!」


 静止画が表示される古めかしいテレビを前に、私はコントローラを床に置いてそのまま仰向けに倒れた。

 達成感と安心感で眩暈すらした。

 ずっと緊張していたのだろう。体が微妙に震えている気がする。なんだろう、歳の所為? いやまだ若いはずなんだけれど、最近、緊張すると手足が震えるんだよね。大丈夫なのかな、私。

 さて、少女はというと、静止画面を見たまま固まってしまっている。呆然としたままだ。テレビから落ち着いた雰囲気のBGMが流れてきている。その余韻に浸っているのだろうか。しばらくそうしているうちに、少女は大きくため息を吐いた。

「終わったんだね……」

 薄らと涙が浮かんでいるような気がする。

 気のせいだろうか。いや、きっとずっと画面を見ていたからこそ、目が疲れたのだろう。やっていなくても、見ているだけでも、目は疲れるものだしね。

「終わっちゃったんだね……」

 そう言ってもう一度だけため息を吐くと、テレビから視線を逸らしてじっと私を見つめてきた。

「お姉ちゃん、ありがとう。私一人だったらきっとここまで来れなかったよ」

 屈託のない笑みを私に向けてくる。愛らしいその笑顔。でも、目元には涙のあとが残っているのが少し切ない印象を与えてくる。

 終わった。そう、終わったんだ。ゲームが終わったということは、今度は少女が私の願いを叶えてくれる番になったということだ。

 つまり、これは別れ。この不確かな世界との、そして、その世界の主人たる少女との別れなのだ。

「約束、だもんね。付き合わせちゃってごめんね。本当に、ありがとう」

「いいの。だって、私も何だかんだで楽しかったしさ」

 嘘なんてない。楽しかったのは本当だ。変なゲームだったし、無理やりやらされたのは確かかもしれないけれど、それはそれで面白かったし、困っていたのなら役に立てて嬉しいのだって確かだ。

 そう、だから――。

「……もしも寂しいんだったら――」

 ――もう少しここで一緒に。

「お姉ちゃん」

 言いかける私を阻むように少女が口を開く。

「約束通り、あなたを元の世界に帰してあげる。それが私の役目だもの。神様が私に与えたお仕事なんだもの。だから、何も心配しないで。私に任せて」

 その途端、少女の周りが真っ白に輝きだした。

 美しい白の光が広がり、辺りを包み込む。薄暗くて目に悪そうだったあの引きこもりの部屋はすっかりなくなり、私と少女だけの二人が光の間にふわふわと浮いていた。

 私を見つめ、少女はもう一度にっこりと笑う。

 じっと見つめる彼女に向かって、私はおずおずと口を開く。

「あなたはまた一人で――」

「私は大丈夫。だって、もう慣れっこだもん。お姉ちゃんに心配されることはないよ」

 気丈に振る舞い、寂しげな笑みを浮かべる。

「ありがとう、優しくしてくれて。お姉ちゃんと過ごした時間、楽しかった。お姉ちゃんのおかげで製品版も貰えるから嬉しい。だから、これでおしまい。ゲームは終わったの」

 ゲームは終わった。

 時間も忘れて名前も知らなかったゲームに没頭し続ける時間は終わってしまったのだ。

「ありがとう」

 言ったのは私の方。

 訳も分からずこの場所に迷い込み、訳も分からずゲームをさせられてきた私。でも、楽しかったのだ。終わってみれば、いい思い出となった。

 悪い気はしなかったのも、少女がいたから。

「こっちも楽しかった。楽しかったよ。だから、ありがとう。ありがとうね」

 これは夢なのだろうか。それとも――。

 感謝する私を見つめ、少女は笑みを浮かべたまま片手をあげる。白い光が四方に散らばり、私の視界も真っ白に染まる。

 ふわふわと漂う私の前から、少女の姿が白い光に呑まれていく。何もかもが消えていくその瞬間、私の耳に届いたのは、少女の言葉だった。

「さようなら、また会えると楽しいかも」

 それっきりだった。


 目が覚めた瞬間、ここが何処なのかはっきりと分からなかった。

 聞こえてくるのはテレビの音。しばらく天井を見つめる私の脳裏に、少女の顔とヒヨコRPGの文字が浮かんで、すっと消えていった。

 誰かが近くのテーブルにことんとコップを置き、目が覚めている私に気づいてはっとした。

「あらま、おはよう!」

 母だった。

「え、あれ、お、おはよう……」

 起き上がってみればなんだか体がだるい。

 見渡してやっと気づいたのだけれど、ここは自宅のリビングだった。ソファの上で、厚着に毛布。とにかく体を温められている。はて、どうして私は此処に。

「あんた、扇風機に直接あたったまま寝てたでしょう! 見つけた時、身体が冷たくなっててホントもうびっくりしたんだから!」

 母に言われ、あっと気づいた。

 そうだ。イライラするくらいの熱帯夜。暑くて仕方ないけれど、クーラーを入れるのは何となくもったいない。だから、私は扇風機の強風当たりながら寝たのだ。首振り設定にするのも忘れて、直接ずっと当たり続け、そのまま寝てしまった。

 言われてはいた。身体に悪いから気を付けなさいと言われてはいたのだけれど、真面目に聞いちゃいなかった。軽い気持ちで分かった分かったと聞き流していたのだろう。


 そうか。

 私は死にかけていたんだ。


 ――元の世界に帰してあげる。


 あの場所は、あの少女は……。


「まあ、大丈夫なようでよかった。んもう、心配かけて全く。こっちの心臓が止まるかと思ったじゃないのもう! とにかくそれでも飲んで、今日はゆっくりしとき!」

 散々言いながら母は立ち去っていく。

 目が覚めた途端がみがみ怒られてしょぼんとなる私に残されたのは、出来たてのココアだった。

 手に取るとやけに温かく感じる。

 ああ、これが現実世界の感覚なんだ。ゲームをしていたあの世界は夢だったのだろうか。少女とは、ヒヨコRPGとは、幻だったのだろうか。

 疑問と共にココアを飲むと、身体の芯まで冷えていたのがやっと実感できた。


 ――何も心配しないで、私に任せて。


 あれは死後の世界だったのだろうか。

 神様のいる世界だったのだろうか。

 それとも、衰弱した私の脳が見せた幻だったのだろうか。

 真相は何にせよ、こうして温かなココアを飲めて、母の小言を聴けるようになったのも、名も知らぬあの少女のおかげに違いない。

 彼女がいたから、戻ってこられたのだろう。

 また会えるだろうか。いや、また会えるようなことになってはいけないのだけれど、もしもまた会えるようなことがあったら、今度はちゃんとお礼を言おう。そして、今度は製品版とやらをお手伝い出来たら面白いかもしれない。

 その頃には少女のゲームの腕も上がっているのだろうか。

 腕をあげておくために、体験版の練習をしているのだろうか。


 ヒヨコRPG、ハヤロク、猫耳の少女。

 ただの夢ですますにはあまりにも強烈な記憶が私の脳には刻まれてしまった。その余韻に浸りながら、冷えた体を毛布で温めながら、私は静かにココアの温かみに浸った。

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