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タイムカプセル

作者: ヒデルト


「卒業おめでとう」

「卒業しても絶対友達でいようね!」

「うぅ・・・・・・・」

「泣くなよ~!」

「幸せな6年間だったなぁ」

クラスのみんなが思い思いに自分の感慨を口にしている。


「さぁ~、そろそろ埋めるぞ~!」

「もう入れ忘れたものはないか?」

担任の先生の最後の号令だ。


「は~い!」 

「ありませーーーーん!」

「あっ! 俺、入り忘れた!!」

・・・・・・必ず一人はこういう奴がいる。・・・・・・

「ば~か、おまえは入んなくていいんだよ」

・・・・・・ボケればつっこむ奴もいる・・・・・

「これを開ける時、みんなどんな風になってるかな?」

・・・・・・みんな思ってる事だが、口に出すのは必ずリーダー的な奴だ・・・・・・


そう、小学校の卒業記念に校庭の片隅に"タイムカプセル"を埋めるのだ。

クラス全員の思い出をこの地に、そしてこの場所での再会を心から誓って。


最後の土を埋め戻し終わると、皆から一斉に拍手が起こった。

「早く開けてぇ! 何入れたっけなぁ?」

「ば~か、今埋めたばっかりだろ」

・・・・・・おまえら・・・・・・


10年後とか、20年後とか、

「百年後~~~~~!」

「ば~か、生きてねぇだろ」

・・・・・・また、・・・・・・おまえらなぁ・・・・・・


色々な提案が出る中、最後は民主主義の原則に則り多数決だ。

(ちなみにこの年代の頃の我々はまだ多数派工作だの連立だのという歪んだ議会制民主主義の小賢しいテクニックは教わっていない、自分の思うままに手を挙げるだけだ、それでもめる事もない)


「はーい! ではいいかぁ、15年後の今日に決まったからなぁ。」

「ここにいる皆で、またここに集まって、これを開けよう!!」

「おぉー!!」

「きゃぁー!」

「早くこないかなぁ」

「でも先生生きてるかぁ?」

「・・・・・・・・・」

・・・・・・確かに一人だけ世代が違う、心配はもっともだ・・・・・・

それはともかくとして、一枚岩の皆の誓いがここに確認されたのだった。


とにかく騒がしかったこのイベントも終わり、卒業式、謝恩会と続き6年間世話になったこの思いで多き学校と別れを告げみんなが新しい人生のスタートを切ったのだった。


-----------------------------------------------------------------------


月日は流れ、あの日から14年が経った。

当然だがみんな26才、殆どの者が社会に出てそれなりの責任を持っている頃だ。

そんな中、何度目かの懐かしい小学校の同窓会が開かれた。


「お~~!! 久しぶり~~!!」

「ようっ」 

「あ~っ!」 

「え~!?」

一人、また一人と懐かしい顔が増えるたびに嬌声が湧き起こる。

「先生っ! 久しぶりですぅ~!」

「ばか! 先生じゃねぇよ、俺だよオ・レ!」

「分かってたけど、おまえ、老けたなぁ」

・・・・・・無理もない、12才と26才だ・・・・・・


「まだあそこに住んでるのか?」

「結婚したんだって?」

「今何やってる?」

・・・・・・照れくさそうに名刺交換などもあったり・・・・・・


「おぉ~! 懐かしいな、ところでお前誰だっけ?」

「ば~か、いつも会ってるじゃねぇかよ」

・・・・・・もしかして・・・・・相変わらず・・・・・お前らか・・・・・・


そこにいよいよ先生登場!

「うわぁ~~~~~!!」

「きゃぁ~~~~~!!」

一段と高まる歓声。

(そうなのだ、先生はたとえ本当は早く着いてしまっていても、こういった席には最後に登場しなくてはいけないのだ)


ひと通りの再会の儀式を終えると、後はもう時代がどんどん遡って行くだけだ。

みんながいよいよ12才頃に戻ったころには宴も最高潮となっていく・・・・

本当に12才に戻る事はできないので、話は過去形のオンパレードだ。

はたで聞いていると面白い、だが微笑ましい。


「あんときのお前~」

「おぉ! あれだろ! あんときは笑ったよなぁ」

別の一角では

「ほんとにあの時は頭に来てたんだからぁ~」

などすべてが過去形、でも心の中は現在形なのだ。不思議な瞬間。


また別のところでは、

「本当はあの時、俺お前が好きだったんだよ」

・・・・・・遅すぎた告白であった・・・・・・


「そういえば、あいつ来てないな?」

そうなのだ、懐かしくも楽しいこの宴ではあるが、さすがにクラス全員は揃わない。

遠方に行ってしまった奴、

どうしても時間が取れなかった奴、

来たくない奴、

所在不明の奴・・・・理由は様々だが。


しかしながら、大盛況である。

日頃のストレスなどはこの瞬間には全く無い。皆会心の笑顔だ。

そう、めんどくさいなどと思いつつも、来て見ると何とも不思議に楽しいのだ。

そして時間は過ぎていく

・・・・・・他愛も無い会話の中で・・・・・・


楽しい時には必ず終わりが訪れる。

またの日の再会を誓って皆が会場を後にした。

おそらく具体的な"次回"は決めていないだろう、同窓会とはそんなものだ。


回を重ねるごとに参加者は減っているのでは無いだろうか?

来年に迫っている筈のメモリアルイベントの事は覚えているのだろうか?


------------------------------------------------------------------------


あの日から15年が経った、いよいよ今日だ。

あの日皆で埋めた"タイムカプセル"がそれぞれの思い出を蘇らせてくれる。


"タイムカプセル"はその瞬間を楽しみに待っていた。

地震にも耐えた、校舎の建替え工事の重機の重さにも耐えた。

自分の中にあるみんなの大切な思い出をこの日の為に守り続けて来たのだ。

当たり前だ、今日"俺"に会うのを皆あんなに誓い合ってたんだ。

あの日の皆の顔は忘れる筈も無い、それがどんな風に変わったのか?


隣の"桜"も楽しみにしている。

俺の1年後にここに引っ越してきた奴だ。

"俺"には外が見えないから、"桜"にいつも外の事を教えてもらっていた。

最近は子供が減ってきているらしい、1クラスに20人位だそうだ。

当然クラスの数も減ったらしい。

何となく寂しい時代だな・・・・

でも、"俺"の中には42人分の思い出があるんだ、そして今日みんなに会える。


「まだ誰も来ないか?」

「ああ、今年卒業する子達しか見えない」

焦ってはいけない、15年も待ったんだ、あと数時間くらいどうってこと無い。


暫くして"桜"が言った

「卒業式、終わったな。もう誰もいないぞ」

「そうか、じゃあそろそろ皆来るかな」

「そうだな、楽しみだよ」


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それから更に時間が過ぎた。


「表の様子はどうだ?」

"俺"は聞いた、が"桜"は答えない。


「おい、聞いてんのか?」

「・・・・・・・・」

「おい、何とか言えよ」


やっと重い口を開いた"桜"

「誰も来てない・・・・」

「もう暗くなってきたよ・・・・・」

「え?!・・・・・・・・」

それから先は"俺"が黙る番だった。


あの日、確かにみんな本気だったのに・・・・

今日の再会をあれほど楽しみに誓い合っていたのに・・・・・


人間とはそんなものなんだろうか?

子供の頃の約束なんて忘れてしまうものなのか?

それとも月日が人の気持ちを変えてしまうのだろうか?

団体での誓いは、個々の心に与える影響力が小さいのか?


様々なな思いが"タイムカプセル"の中で巡っていた。


寂しかった・・・・


「仕方ないさ、人間は一つの思いをずっと持ち続けていけるほど簡単じゃないんだよ」

「皆が忘れている訳じゃないさ」

「いつか、誰か一人でもお前に会いにくるさ」

「思い出を捨ててしまった訳じゃ無いだろう」


"桜"はそう言っていた、なるほどそうなのかもしれない。


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更に月日は経った。

"タイムカプセル"はずっと思い出を守り続けていた、今度は自分の思い出として。

そう思うようにしてからは、誰も自分に会いに来なくても気にならなくなっていた。


時代も変わっていた。

少子化、高齢者の増加でいよいよこの小学校も閉校となるのだった。

次は老人ホームだそうだ、"俺"どうなるのかなぁ?


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また、更に少しばかり月日が経過する。


今、"俺"は老人ホームの一角に元気に埋まっている、要するにずっとここにいるって訳だ。

勿論隣の"桜"も元気だ、また少し大きくなったようだ。


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「この度は、こちらにお世話になります」

一人の老人が新しく入居してきた。

とうに引退して、連れと余生をのんびり送っていたが、先立たれてしまったのを機に子供達の世話にならずにこのホームでの生活を選んだのだった。


何でも若い頃、ここが小学校だった頃に先生として赴任していたのだそうだ。

その後、何校かを転任している間も、引退した後もこの地に住んでいたのだ。

なぜかここが好きなのだそうだ。


それにここなら思い出もある。


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老人がこのホームにもなれた頃、来客があった。

「先生、元気?」

「どう? 慣れた?」

教え子だった、小学校を卒業してからずっと付き合いのある憎めないやつだ。

「おまえか、よく来たな」

「ここは快適だよ、なんて言っても思い出が沢山あるからなぁ」


「先生、今日は懐かしい奴と一緒なんだ」

「こいつ、覚えてる?」


「久しぶりです、先生」


「おお! おまえか?」

「噂はよく聞いていたぞ」


「今日はちょっと難しい宿題があって教えてもらいに来たんです」

「ば~か、そんな訳ねぇだろ」 

「変わんねぇなぁ、おまえは」

・・・・・・変わってないのは一人じゃない、ずっと名コンビだ、お前らは・・・・・・



3人で庭を散歩した。みんな昔の、小学校の校庭だった頃を思い出していた。

「懐かしいなぁ、あの頃」

「面影残ってるね、まだこの辺」

「ここ、砂場だった所だ!」

とめどない会話をしながら歩いた。


「あれ? この桜、あったっけ?」

「お前たちが卒業した次の年にここに移ってきたんだよ」


久しぶりに来た懐かしいこの場所を歩いているうちに少しづつ当時を思い出してきたのか、ボケ役が突然立ち止まって何かを考えているようだった。


「そういえば確かこの辺にタイムカプセル埋めなかったっけ?」

何十年も前の記憶を呼び覚ました。


「あっ、そうだ、そうだった! 埋めたよ」

突っ込み役も、言われてすぐに思い出した。


「そういえばそうだったかもしれないなぁ」

「すっかり忘れてしまってたよ」


「どうなったんだろう・・・?」

「誰か思い出して掘り起こしてるかなぁ?」

三人は、今まで忘れていた自分が何となく気恥ずかしいような思いがした。


  ・・・・・・ずっと忘れていた訳ではなかった、

  ただ、大人になってから分かったのだった、

  全員でまたここに集まる事は不可能な約束だったのだと、

  といって自分だけで来る訳にもいかない。

  そのうちに記憶の奥底にしまい込んでいたのだ・・・・・・


「まだあるんじゃないか?」

「ば~か、あるわけ無いだろ」

「分かんねぇよ、この一角、あの頃とあんまり変わってないから」

「俺、ちょっと掘ってみようかな」 

「スコップ借りてこよう」

ボケ役、思い立ったらすぐ行動、行ってしまった。


「しょうがねぇな、ちょっと付き合ってやりますか?」

「そうだな、まだあるかもしれないしな」

・・・・・・みんな同じ気持ちなのだった・・・・・・


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"タイムカプセル"は昼寝をしていた。

自分の上が何やら騒がしいので目を覚ました。


"桜"に尋ねる。

「"俺"の上で何かやってるのか?」


「・・・・・・」

"桜"は一部始終を見ていた、3人の会話も聞いていた、

友人の思い出の主たちである事はとっくに分かっていた。

が、黙っていた。 

・・・・・・嬉しかった。・・・・・・


「おい、また何かの工事か?」

「ちぇっ!寝てんのか」


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ゴツ!

「何か当たったぞ」

・・・・・・三人の期待が膨らむ・・・・・・


「あっ! あったぁ! 俺達のタイムカプセルだ!!」

「本当だ! あったぁ!」

「おぉ! あったか!」


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何十年ぶりなんだろうか?

"タイムカプセル"はあの日以来、時を数える事を止めていたから分からない。

でも、今となってはそんな事はどうでも良かった。

顔をほころばせて懐かしそうに"俺"を見ている奴らはすぐに思い出せた。

かなり老けたが、確かにこいつらだ。 ちくしょう、懐かしすぎるぜ。


"タイムカプセル"はとても嬉しかった。

確かに今、あの懐かしい奴らの手の中に”俺”は居る。

もう諦めてかけていた“思いで”の主達と再会を果たしたのだ、少し少ないが。

人間も捨てたもんじゃない、覚えていやがった。


「遅かったじゃねぇか、しっかり守ってたぞ、お前らと"俺"の思い出を」

「紹介するぜ、俺の・・・・・」

「分っているさ」

"桜"が3人と一個の再会を祝福して満開にその美しい花を咲かせていた。


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