巨人の胞子
二次創作……じゃありません。
「うっわああああ!! た、助けてくれ!!」
干日裕真は必死で逃げた。
父、伊哲が目の前で食い殺されたのだ。異世界の魔獣が父の骨をかみ砕く鈍い音が響く。
「ちくしょう!! ちくしょう!! バケモノどもめ!! 許さん!!」
姉の暁子の手を握りしめて走りながら、裕真は復讐を誓った。
西暦2XXX年。
世界各地に突如現れた異生物群。宣戦布告もなしに人類に襲いかかってきた彼等は、瞬く間に文明を滅ぼした。
後に、その軍勢は十一の種族で構成されることが確認された。
「螺狗貂」「夜狐羽魔」「精武」「銅鑼魂」「禄手」「折樟」「火路縞」「法玖珠」「二本歯」「悪流徒」
そして、裕真の父を殺した「半神」である。
彼等は種族ごとに、性質も姿形も、また文明の程度すら違う。
どこから来たのか、何故、そう呼ばれるのか、誰も知らなかった。
だが、知性を持っていながら、人類に価値を認めていないという点で、彼等は唯一共通していた。
見かければ食い殺すか虐殺するが、食べるために人間を生かしておく事はしない。
地上のあらゆる建造物は破壊され、彼等の支配地域では、文明は痕跡も残らなかった……
そして……地球が支配されて十年が経過した。
人類は異形の悪魔達の前にただ脅えるしか出来ず、まさに害虫のごとく扱われた。
そんな過酷な世界を、それでも裕真は生き延びていた。
異種族どもの勢力圏の狭間に生まれた、人間が存在できる僅かな場所。そこで父の仇討ちだけを願い、自分自身を鍛え続けていたのだ。
ある日、ついに裕真は旅立ちを決意した。隠れ里の長老であり、己の師でもあるマシ=ゲオナ=ガシは裕真を止めたが、彼の決意は固かった。
「裕真……ここを出れば誰もお前を助けてはくれぬ。お前の行くのは、果てしなき試練の道だぞ?」
「父は言いました。それを行くのが、男のど根性だと……」
裕真は、長老に深々と頭を下げた。
「ならば止めぬ。しかし……本当に、お前の言うような切り札が存在するのであろうか……」
切り札……それは、唯一の希望だった。
異種族を倒す修行を積み、異種族を倒す方法を調べる中で、裕真は一筋の光明を見いだしていたのだ。
『巨人の力』と呼ばれるそれは、偶然発見された遺跡に刻まれた記録にあった。
遙か昔……地球が同じように異種族の侵略を受け、危機に瀕した時、銀色に輝く巨人王が現れ、圧倒的な力で地球を救った。
巨人王の額には、真っ赤に燃えるしるしがあったという。
それこそが王者の印。
手に入れさえすれば、巨人の力を得られるはずなのだ。
だが、それが事実という保証はどこにもない。頼るのは鍛え上げた己の肉体と、敵異生物の生命活動を止める科学兵器・DLB一号だけだ。
「たとえ血の汗を流そうとも、構わない。涙は、勝利の日まで拭かない」
「もう止めぬ。ゆけ、裕真。どんと行け」
姉の暁子が止めるのも聞かず、DLB一号を共に開発した友人・晩地勇太と二人、裕真は荒野へと旅立った。
襲い来る異生物群。変貌した過酷な自然環境。迫り来る滅亡に絶望した人々。
数々の試練を乗り越え、微かな手がかりを辿り、裕真達はついに巨大鍾乳洞で巨人王の骸を発見したのだった。
大きい。地底に横たわるその巨人は、全長四十mを越えていた。朽ち果て、干涸らびてはいたが、しかし額の赤い宝玉だけは美しく光を放っている。あれこそが、伝説の王者の印に違いなかった。
「あれを……あれを握りしめさえすれば……っ!!」
巨人の体をよじ登る裕真。
その手がついに、印に触れようとした時。
「待ちたまえっ!! 干日君っっっっ!!」
鋭い声が響いた。裕真の手が一瞬止まる。敵……ヤツらではない。
しかし、聞き覚えのあるその声は……
「貴様……華賀? 華賀民鶴か!?」
「ワシもおるぞ!!」
「砂紋……方朔……!? 貴様まで!!」
二人とも裕真の幼なじみであり、友であった。
共に長老の元で修行し、裕真より先に旅立った彼等。だが、ふたたび出会った時には、異世界の軍勢に魂を売り渡していたのだ。
「邪魔をするな!! 裏切り者どもめ!! 貴様達の指図を受ける言われはない!!」
「待つんだ!! その胞子を手にすれば、二度と元の人間には戻れないぞ!! それでもいいのか!?」
「胞子……? 胞子だと? 何のことだ!? これは人類を救うたった一つの希望!! 王者の印だッ!!」
「違う!! その正体は、人間に寄生する、巨大菌類の胞子!! 宇宙支配を企むモノが創り出した「巨人の胞子」と呼ばれる生物兵器なんだ!!」
「分かってくれい干日君!! 真の敵は彼等ではないんじゃ!! ワシらが人類を裏切った……いや、裏切らざるを得なかった理由を考えてくれい!!」
華賀が、砂紋が叫ぶ。
「その、巨人の胞子こそが、地球を……いや宇宙さえ滅ぼす、真の悪なんですタイ!!」
二人は、巨人の胞子を作り出した邪神・ワタ=ナベツ=NEOの存在を知ってしまったのだ。
ワタ=ナベツ=NEOは、巨人の胞子と融合した巨人王を操り、地球ばかりか異世界までもその手にしようとしている。それゆえに異種族達は、そうなる前に人類を滅ぼそうとしていたのだ。
「馬鹿な!! だからといって、我々はおとなしく滅ぶべきだとでも言うつもりか!? 俺は……最後まで戦う!!」
裕真は制止を振り切り、ついに巨人の胞子を握りしめた。
瞬く間に胞子は、裕真の体組織と融合し、異常増殖……巨大化を始めた。
「とうとう……こうなってしまったか………」
「こうなれば、ワシらも戦うしかないですタイ!!」
華賀と砂紋。二人は懐から取り出した蒼く輝く宝玉を天にかざした。
華賀は「半神」から、砂紋は太古に滅びた種族「泰妖」から、変身の技術を授けられていたのだ。
銀の光が彼等を包み、裕真と同じ銀色の巨人へと姿を変えていく。
巨人の胞子を研究して作り出されたその兵器は、それぞれ「バース」「ポンセ」であった。
二人の巨人が襲いかかる。息のあった連係攻撃に、巨人王となった裕真は劣勢に立たされた。クロスした手から放たれる光弾が、巨人王の胸を灼く。
裕真は膝をついた。
ヤツらから巨人の戦闘を学んだ二人と違って、裕真はまだ力を使いこなせないのだ。
しかし、その時!
「うおおおお!! 干日ぃいいい!!」
「ば……晩地?」
巨人の姿をした裕真が振り向く。そこには、新兵器を携えた晩地勇太がいた。
「か……完成したのか……? DLB3号が……」
「おう!! だが、DLB3号は両刃の剣じゃい。これを放てば、ワシは骨一つ残らんじゃろう」
晩地の頬を伝う、熱い涙。
「ば……バカな!! やめろ晩地!! やめるんだ!!」
「ええんじゃ……干日よう……地球を……人類を頼んだぞい!!」
次の瞬間……DLB3号は発射された。
緑に輝く螺旋状の光条が、砂紋の変化した巨人「ポンセ」の土手っ腹に命中した。
恐るべき威力。
緑の光条に貫かれた銀色の巨人の肉体は、たちまち溶け崩れ、蒸発していく。
「せせせ……せからしかぁああああ!!」
ポンセは奇怪な悲鳴を残し、霞のように消え去っていた。
しかし、同時にDLB3号も四散した。それを構える晩地もまた……
「ば……晩地ぃいいい!!」
裕真の叫びが地下の大空洞に谺する。
怒りに燃えた裕真は、華賀に向かって闇雲に突っ込んでいった。
「決着を付けよう!! 来い!! 干日君っっ!!」
しかし、二人の巨人の力は互角。戦いは容易に決着が付かなかった。
ついに二人は地上へと飛び出し、激しく争った。
拡大し続ける戦いは、異世界の十一の軍勢と、人類最後の戦力をも巻き込み、世界の勢力地図を大きく書き換えることとなった。
二人の戦いは地上を蹂躙しつつ、その後百年の長きに渡って続いたのだ。
そして、ついに華賀の巨人・バースを破った裕真は、異世界へ渡る秘密の能力『FA』を身につけ、十一の種族の故郷たる異世界「メジャリグ界」にまで戦火を広げていく事になるのだが……それはまた、別の物語である。
「新・巨人の胞子」につづく
つづきません。