第9話:旧王国からの不当な督促
続きは明日にー
眩しい朝の光が、エルディア王立監査室の広いデスクを照らしている。
私は、昨日までの疲れが嘘のように軽い体で、最新の魔力銀行の運用実績を帳簿に書き込んでいた。
「…ふふん、相変わらず完璧な黒字決済。お肌の調子も最高だし、健康資産がうなぎ登りよ」
自分の頬を指で突くと、吸い付くような弾力がある。
アルリック陛下から頂いた「投資」の効果は、単なる栄養補給に留まらなかったようだ。他人の負債から解放され、正当な報酬と安らぎを得た私の魔力回路は、今や純白の光を放って最適化されている。
そんな時だった。
部屋の扉がノックされ、一人の若い伝令官が入ってきた。
「リゼット監査官。あ、あの…国境検問所経由で、アステリア王国からの『緊急親書』が届いております。あまりにも不躾な封蝋だったので、警備隊が一度開封して魔力汚染がないか確認済みです」
「アステリアから? ああ、ご苦労様。そこに置いておいて」
私はペンを休めることなく、事務的に答えた。
アステリア。その名前を聞いても、今の私の心には一欠片の波紋も起きない。ただの、経営破綻した隣の会社の名前、程度の認識だ。
伝令官が去った後、私はようやく、デスクの端に置かれた煤けたような羊皮紙を手に取った。
封蝋はボロボロで、まるで書き手の余裕のなさを象徴しているようだ。
中身を引き出し、一読する。
『親書:聖女リゼットへ
お前の不手際で、我が王宮の魔力回路に不具合が生じている。
早急に帰還し、修理を行え。
今戻るなら、先日の婚約破棄は無効としてやり、特別に側妃として迎えてやってもよい。
慈悲深い私に感謝し、一刻も早く戻れ。
――アステリア王国第一王子、ウィフレド』
「…………はあ?」
監査室の静寂の中に、私の素っ頓狂な声が響いた。
私はもう一度、一文字ずつ丁寧に読み返した。読み間違いであってほしかった。
けれど、何度読んでも、そこには「常識」という言葉を知らない無能が書き散らした、身勝手極まりない文字列が並んでいる。
「……不手際? 修理? 側妃?」
私は思わず、椅子に深く背もたれを預けた。
(…正気? 不手際って……私が五年間、無給で肩代わりし続けた負債が爆発しただけじゃない。それに修理って、私は整備工じゃないし、婚約破棄の無効なんて、契約解除後の後出し条件変更は法的に認められるはずがない…!)
呆れ果てて笑いすら出てこない。
アステリアで命を削っていた頃の私なら、この高圧的な命令に震えていたかもしれない。
でも、今の私はエルディア王国の破産管財人だ。
数字の真実を知る者として、この「不渡り手形」のような手紙を放置するわけにはいかなかった。
「……よし、監査(添削)してあげましょう」
私は、普段使っている黒いインクではなく、棚の奥から重大な欠陥を指摘する時にしか使わない、真っ赤なインクを取り出した。
羽ペンをたっぷりと赤に浸し、王子の親書という名のゴミに、容赦なく赤線を引いていく。
「まず、ここ。主語が不明確よ。魔法が使えないのは私の責任じゃなくて、そちらの『支払能力の欠如』でしょう。……はい、削除。それからここ、『側妃として迎えてやる』? リスク高すぎ、リターン無し。メリットが欠片も見当たらないデッド・プロジェクトね……二重線で抹消!」
私は流れるような動作で、王子の尊大な言葉を次々と赤く染めていった。
余白には、びっしりと実務的な指摘を書き込む。
その時。
「リゼット。楽しそうに何を添削しているんだ?」
予告なく、アルリック陛下が部屋に入ってきた。
彼は私のデスクの上で真っ赤に染まった羊皮紙を見て、面白そうに片眉を上げた。
「……ああ、陛下。ちょうど良いところに。これ、アステリアから届いたんですよ。あまりにも『帳簿が合っていない』内容だったので、少しばかり教育的指導を入れさせていただきました」
「ほう、どれ」
アルリック陛下が横から親書を覗き込む。
中身を読み進めるにつれ、彼の周囲に漂う空気が、一瞬で凍りつくような冷徹さを帯びた。
特に『側妃』という言葉の箇所に差し掛かった時、彼の瞳には隠しきれない不快感と…そして、獰猛なまでの独占欲が宿った。
「……リゼット。このウィフレドという男は、自分の置かれた状況だけでなく、君が今『誰の管轄下にいるか』すら理解していないようだな」
「ええ。典型的な『現状認識能力の欠如』ですね。既に債権放棄した相手に対して、再び無担保で労働を要求するなんて、金融リテラシーが絶望的すぎます」
私は陛下に気づかれないように、心の声で(それ以前に人間として終わってるのよね、あのクソ王子)と吐き捨てた。
陛下は冷たい笑みを浮かべ、デスクに手を突いて私を覗き込んだ。
「それで? 君はどう返事をするつもりだ?」
「返事、ですか? ふふ、会計士として、最も『合理的』な回答を差し上げます」
私は親書の最後の一行、王子の名前のすぐ下に、これ以上ないほど力強く、そして美しい文字でこう書き加えた。
『本通知書をもちまして、貴殿とのあらゆる契約関係は完全に消滅しております。支払期日を過ぎた債権の履行要求は法的根拠がありません。また、当方の信用スコアに悪影響を及ぼす不当な接触と判断いたしました。二度と連絡しないでください(※以後、一切の親書は開封せず破棄いたします)』
私はそれを封筒に入れ、さらに表に大きく赤いペンで「受取拒否:宛先破産につき交渉の余地なし」と書いた。
「これです、陛下。エルディアの公認魔導スタンプを借りてもよろしいでしょうか?」
「ああ、好きに使え。……いい返事だ。君のその、数字に基づいた冷徹な強さが、私はたまらなく気に入っている」
アルリック陛下は、私の手から封筒を取り上げると、自ら「王室返送」の魔印を力強く押し当てた。
その時の彼の、獲物をいたぶるような愉しげな顔!
私はその横顔を見て、胸が少しだけトクンと鳴った。
「陛下、私に惚れ直しました?」
冗談めかして聞くと、陛下は真顔で、私の腰をぐいと引き寄せた。
「直す必要はない。最初から、君のその価値を誰よりも高く評価しているのは私だ。この手紙を書いた愚か者には、その報いを受けてもらうとしよう」
「報い、ですか?」
「ああ。我が国は現在、アステリア王国に対する『魔導負債』をすべて買い取った。つまり、私は彼らの最大の債権者だ」
陛下の口から出た言葉に、私は目を丸くした。
(陛下、いつの間に…!? さすが超合理主義者、仕事が早いわ!)
「リゼット、君が突き返したこの『添削』は、単なる返事ではない。宣戦布告以上の絶望を与える『最後通牒』になるだろう」
アルリック陛下は、私の肩を抱きながら窓の外を見やった。
そこにはますます活気を増す、美しいエルディアの街並みがあった。
「さあ、業務に戻ろう。次は彼らの『差押え』のスケジュールを詰めなくてはならないからな」
「はい、陛下! 喜んで、徹底的な清算プランを作成いたします!」
私は、陛下と並んでデスクに向かった。
アステリアでは、私は捨てられた不要品だった。
けれどここでは、私は世界の基盤を司るパートナーだ。
アステリアに、私の言葉が届く頃。
彼らは知ることになるだろう。
期限を過ぎた「未払い金」には、慈悲など一欠片も含まれていないということを。
(前回の続き)
弁護士さんから「これ持ってきてー」と言われた物
・記帳済みの預金通帳(2年分)
・3ヶ月分の給料明細
・前年分の確定申告書、決算書
たぶん住民票や戸籍謄本のたぐいも必要な気がするけど、なにぶん結構前のことなので覚えていない
記帳済みの預金通帳は全部の口座が該当するよ、あればあるだけ持ってきてね
ネットバンキング?履歴を印刷してね、コンビニでプリントできるよ
3ヶ月分の給料明細も印刷してね
私は個人事業主なので、3ヶ月分の収入を一覧にしてくれればいいかな、とのことだった
前年分の確定申告書・決算書も印刷して持ってきてね
こうして見ると結構大変
準備に時間がかかるので、次の予約日までに余裕を持ってそろえるか、準備が終わってから予約を取るといいかもしれない
私は追い詰められないとやらないので地獄を見ました
次は実際にここまでやった感想をば
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