第7話:世界初の魔力銀行、設立
続きは明日にー
「…よし、これでスキーム(枠組み)は完成よ」
私は羽ペンを置き、深夜の監査室で大きく伸びをした。
窓の外には、エルディア王国の穏やかな夜景が広がっている。アステリアにいた頃の、常に何かに追われ、他人の負債を埋めるために神経を擦り減らしていた夜とは違う。今の私の脳内にあるのは、この国の黒字を推し進めるための、壮大な設計図だ。
翌朝、私はアルリック陛下の執務室を訪れた。
彼は淹れたてのコーヒーの香りに包まれながら、山積みの書類を鮮やかに捌いていた。その隣に、私は一束の厚い報告書をスッと置く。
「陛下。先日お話しした『魔力銀行』の詳細プランを作成いたしました」
「早いな、リゼット。どれ、見せてみろ」
アルリック陛下は、鋭い瞳で私の書いた書類を読み進めていく。
アステリアの王子のように「数字ばかりの紙クズ」と投げ捨てることは決してない。彼は一行一項を吟味し、その裏にある論理を読み取ろうとしてくれる。
「……面白い。国民から余剰魔力を『預金』として募り、それを必要としている者に『融資』する。余剰分を世界に垂れ流すのではなく、国全体の総資本としてプールするわけか」
「左様でございます。これまでの魔法社会は、持てる者が浪費し、持たざる者が喘ぐという『一点集中型』でした。ですが、この銀行システムを導入すれば、魔力というエネルギーを流動化させ、国全体の経済(魔導効率)を底上げできます」
私は、スキルの【魔力会計】を応用した核心部分を説明した。
「そして、このシステムの要となるのが…『魔力信用スコア』です」
「信用スコア?」
「ええ。これまでは身分や家柄で魔法の優先順位が決まっていました。ですが、私の銀行では『その者がどれだけ誠実に魔力を扱い、返済という代償の支払いを履行してきたか』を数値化します。身分に関わらず、誠実な者には低金利で多くの魔力を貸し出し、不誠実な者には窓口を閉ざす。…魔法の民主化、と言ってもよろしいでしょう」
アルリック陛下は、書類から目を上げ、私の顔をじっと見つめた。
やがて、彼は満足そうに深く頷いた。
「合理的だ。血筋という不確定な要素ではなく、実績という確定した数字で人を評価する。私の理想とする国家像に極めて近い…。リゼット、すぐに実行に移せ。予算と人員、そして私の全権委任状を与える」
「ありがとうございます、陛下。必ず、最高の結果をお見せいたしますわ」
私は優雅に一礼し、心の中でガッツポーズを決めた。
(よし…! ついに私の『理想の帳簿』を世界に具現化するチャンスが来たわ!)
◇◇◇◇◇
数日後。
エルディア王都の中心地に、重厚な石造りの建物が完成した。
看板には、金文字で『エルディア魔力銀行』と刻まれている。
試験的な開店初日。
物珍しさから集まった群衆の前に、私は監査官の正装に身を包んで立った。
背後には、アルリック陛下から派遣された精鋭の魔導官たちが控えている。
「皆様、ようこそ。今日からこのエルディアでは、魔法は『選ばれた者の特権』ではなく、『努力する者の資産』となります!」
私はスキルの力を解放した。
視界が【会計モード】に切り替わり、並んでいる国民一人一人の頭上に、半透明のウィンドウが表示される。
「まず、魔力の預金希望の方。…そこのパン屋のご主人、あなたですね」
呼び出された中年の男が、恐る恐る前に出た。
「は、はい。俺のような微魔力でも、何か役に立ちますか?」
「もちろんです。あなたの頭上に浮かぶスコアを見てください」
私が指差すと、彼の頭上に『信用スコア:720 (優良)』という緑色の数字が現れた。
「あなたは毎日、薪を節約するために効率的な加熱魔法を使い、使った後はしっかり休息をとって『代償』を精算し続けてきましたね。その誠実さは、立派な資産です。…さあ、その余った魔力をこの水晶 (預金口座)へ」
男が水晶に触れると、彼の中に眠っていた微々たる魔力が吸い込まれていく。その代わりに、私は彼に一枚の魔導カードを手渡した。
「今の預金に対し、年利3%の魔力利息を約束します。また、あなたが将来お店を広げたい時には、このスコアを元に低金利で魔力を融資いたしますわ」
「ええっ!? 俺の端切れみたいな魔力がお金…いや、資産になるのか!? ありがとうございます、お嬢様!」
周囲からどよめきが上がる。
次々と平民たちが列を作り始めた。誰もが、自分の誠実さが数字として評価されることに、今までにない誇りを感じているようだった。
そんな中。
列を強引に掻き分け、豪華な毛皮を羽織った一人の貴族が現れた。
アステリアでもよく見かけた、傲慢さが顔に張り付いたような中年男だ。
「おい! この私が直々に来てやったぞ! 今すぐ魔力を貸し出せ。今夜の晩餐会で、広場一帯を照らす花火魔法を使いたいのだ」
私は、彼の頭上に浮かぶ数字を一瞥した。
『信用スコア:15 (債務超過:極赤)』
ウィンドウには、彼が過去にいかに無駄な魔法を使い、その代償を領民に押し付けてきたかの「負債履歴」が延々とスクロールされている。
「……申し訳ございませんが、カウリッツ子爵。あなたへの融資は、一滴たりとも認められません」
私はにこやかに、しかし氷のように冷たい声で告げた。
「な、なんだと!? 私は子爵だぞ! この国の貴族だぞ!」
「身分は当銀行の審査基準に含まれておりません。あなたのスコアは、既に危険水域です。過去、領地の魔晶石を私物化し、適切な精算を行わずに滞納し続けていますわね? 当銀行の規約により、あなたの『魔法行使枠(与信枠)』は本日をもってゼロとさせていただきます」
「なっ…馬鹿な! 魔法が使えなくては、貴族のメンツが丸潰れではないか!」
「お言葉ですが、メンツで魔力は湧いてきません。まずは滞納している領民への魔力補填を済ませてから、出直してきてくださいませ。……はい、次の方どうぞー!」
「お、おのれ…っ! あんな、ただの帳簿女が…っ!」
子爵は顔を真っ赤にして去っていった。
その様子を見ていた平民たちから、ワッと歓声が上がる。
これまでの理不尽な身分制度が、公平な数字によって打ち砕かれた瞬間だった。
業務終了後。
私は静かになった銀行のカウンターで、一日の貸借対照表を確認していた。
「…初日の預金総額、予測の5割超え。融資の申し込みも、建設的な事業目的のものばかり。……うん、完璧な黒字スタートね」
私は満足感に浸りながら、ペンを走らせる。
アステリアにいた頃は、自分の命を削って「マイナスをゼロにする」だけの虚しい作業だった。
けれど今は、「小さなプラスを集めて、大きな価値を生み出す」喜びがある。
(これが、本当の会計よ。奪い合うのではなく、巡らせる。あー、やりがいがありすぎて怖いくらいだわ!)
「お疲れ様、リゼット。初日から大盛況だったようだな」
不意に、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには護衛も連れずにふらりと現れたアルリック陛下が立っていた。
「陛下…! 見てください、この数字を。国民の皆様の誠実さが、これほどまでの魔力となって集まりました」
私は意気揚々と帳簿を見せた。
アルリック陛下は、私の隣に腰を下ろし、数字を一つ一つ指でなぞる。
「……素晴らしいな。君の言う通り、魔力を可視化したことで、民の意識が変わったのが分かる。彼らは今、自分の魔力を『搾取されるもの』ではなく『育てるもの』だと考えている」
「はい。人は、正当に評価されると分かれば、自ずと誠実になるものです。…陛下、この資金(魔力)を使って、次は街道の魔導灯の整備と、農村部への魔導ポンプの貸し出しを提案いたします」
「ああ、許可しよう。君の采配に任せる」
アルリック陛下が、私の横顔を優しく見つめている。
窓から差し込む月光が、彼の銀髪と私の金髪を交差させ、カウンターの上に複雑な影を落としていた。
「リゼット…君は本当に、この国に奇跡をもたらしてくれたな」
「いえ、これは奇跡ではありません。…ただの、適切な管理の結果です」
私が少し照れくさくなってそう答えると、陛下は低く笑った。
「その『適切』が、どれほど難しいことか。…まあいい。今日は君に、特別なインセンティブ(報酬)を用意してきた」
陛下が取り出したのは、見たこともないほど透き通った、淡いピンク色の魔晶石だった。
「これは…?」
「エルディア北部の深山でしか採れない『星桃石』だ。そのまま魔力として蓄えてもいいし、加工して装飾品にしてもいい。…今日一日、銀行の窓口で立ち続けた君への、私からの個人的な『投資』だ」
私はその美しい石を受け取り、胸が高鳴るのを感じた。
アステリアでは、どんなに身を削っても認められなかった。
けれど、ここでは。
私が働いた分だけ、誰かが認めてくれる。
その重みが、この小さな石には詰まっているような気がした。
「…ありがとうございます、陛下。大切に、資産運用させていただきます」
「ははは、そこは『大切に身に付けます』ではないのか? 君らしいな、リゼット」
私たちは夜の銀行で、並んで笑い合った。
アステリア王国では、今頃「見えない負債」に怯える夜を過ごしていることだろう。
けれど、私の新しい帳簿には、今日また新しい「信頼」という名の資産が刻まれた。
(前回の続き)
自己破産の注意点をば
・税金、罰金、養育費、従業員への給与などは払わなければならない
・親族や知人が保証人になっている場合、保証人が一括返済しなければならない
だから保証人にはなるなって言うんですよねー
お互いのためにも
保証人がいないと借りれないようなお金は借りるべきじゃないと思うこの頃
次回は弁護士さんから「これ書いて」と渡された書類や、自己破産に必要なものの話をば
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