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第6話:初めての健全なホワイト監査

続きは本日中にー

「3割…。いや、術式の構成を根本から見直せば、4割は削減(さくげん)できる!」


 私は、手元の真っ白な羊皮紙にさらさらと羽ペンを走らせながら、独りごちた。

 ここはエルディア王国の第一練兵場(れんぺいじょう)()(そそ)ぐ太陽の光は、アステリア王国の物置のような事務室を照らしていた(よど)んだ光とは、何もかもが違っていた。


 目の前では、エルディアが誇る魔導騎士団の若手たちが、次々と訓練用の魔法を放っている。

 アステリアにいた頃、この魔法の閃光(せんこう)は私にとって恐怖の対象でしかなかった。騎士たちが派手な火球(かきゅう)(はな)てば、私の寿命が数日削られる。誰かが格好(かっこう)をつけて無駄(むだ)防御陣(ぼうぎょじん)を張れば、私の翌日の食事を抜いて帳尻(ちょうじり)を合わせる。

 騎士たちの頭上に浮かぶ数字が真っ赤に(ふく)れ上がるたび、私は自分の命を切り売りしてその穴を埋めてきた。


 けれど、このエルディアは違う。

 私が見守る中、騎士が魔法を放っても、私の胸に痛みは走らない。私の体から魔力が無理やり吸い取られることもない。

 ここにある魔法は、私の命を(けず)(のろ)いではなく、正当に管理されている国家資産なのだ。


「…よし。まずは第一部隊の『魔力燃費(ねんぴ)』から算出(さんしゅつ)しよう」


 私は、アルリック陛下から用意していただいた最新の魔力演算機(えんざんき)操作(そうさ)した。

 エルディアの騎士たちは、魔法を使用する際に、支給された「魔晶石」を媒体(ばいたい)に使用している。魔法を使えば魔晶石の残量が減り、その減った分は、彼らの休息や税によって補填(ほてん)される仕組(しくみ)みだ。


「使いすぎた分を、自分で責任を持って納める。なんて健全で、ホワイトな仕組み…!」


 私は、あまりにも当たり前の「帳尻(ちょうじり)の合い方」に、思わず目元が熱くなるのを感じた。

 自分の命で補填(ほてん)しなくていい。誰にも気づかれないまま(けず)り取られる必要がない。その事実だけで、私の思考はこれまでの何倍も速く、()え渡っていた。



「そこまでです、皆様! 一旦(いったん)止まってください!」


 私は監査(かんさ)台から立ち上がり、練兵場に響き渡る声を出した。

 騎士たちが動きを止める。かつてのアステリアでは、私の声など誰も聞き入れなかった。「無能な算盤女が何を言っている」と一蹴(いっしゅう)されるのが(せき)の山だった。

 けれど、今の私は陛下の全幅(ぜんぷく)の信頼を背負った『破産管財人(はさんかんざいにん)』だ。



 私は階段を優雅に下り、困惑(こんわく)した顔で立っている第一部隊の隊長の前に立った。


「第一部隊長。先ほどの広域(こういき)防御魔法『アイギスの盾』…。あまりにも燃費(ねんぴ)が悪すぎますわ」


「な…燃費だと? 監査官殿、これは我が騎士団に伝わる伝統の術式だ。防御力においてこれ以上のものはない」


 隊長がムッとしたように言い返す。その態度は、かつての王子たちを思い出させたけれど、私の中に(おび)えはない。私は一人のプロフェッショナルとして、冷徹(れいてつ)に事実を突きつける。


「伝統、という言葉で思考停止するのは、会計士として見過ごせません。見てください、この数値を」


 私は、演算機(えんざんき)(はじ)き出したグラフを彼に見せた。


「発動時に()れ出している余剰(よじょう)魔力が、全体の3割に達しています。これは、魔法を(はな)つ瞬間に3割の国家予算をドブに捨てているのと同じです。あなたの騎士たちは、守る必要のない『見栄(みば)え』のために、余分(よぶん)な魔力を()れ流しているのですよ」


「3割も…!? 馬鹿な、そんなはずは…」


「嘘だと思うなら、術式の起点を3層目から5層目へ移行させてください。そして、外周の装飾(そうしょく)術式をすべてカット…。私が今ここで、最適化リファクタリングします」


 私は自ら指先を地に向け、魔力を()った。

 他人の負債を背負わなくてよくなった私の体には、今、かつてないほど純粋で強力な魔力が満ち(あふ)れている。

 私が空中に指を走らせると、白銀の光で(えが)かれた精密(せいみつ)な魔導数式が、まるで芸術品のように浮かび上がった。


「これが、私が算出した『アイギスの盾・最適化版』です。無駄なエフェクトを()ぎ落とし、純粋に防御機能だけに魔力を収束(しゅうそく)させています」


「な…なんだ、この精密さは。魔法そのものが、完成された計算式の(かたまり)のようだ…」


 騎士たちが息を()むのが分かった。

 私は隊長に(うなが)した。


「もう一度、発動を。…消費する魔晶石の減り方に注目してください」


 半信半疑ながらも、隊長が私の描いた新術式をなぞり、魔法を発動させた。

 瞬間、練兵場を包み込んだのは、これまでの倍以上の強度を持つ、一点の(くも)りもない透明(とうめい)な盾だった。


「!? 魔晶石の減りが、明らかに少ない。これまでの術式より、体感で3割…いや、それ以上に抑えられているぞ!」


「これによって浮いた魔力は、部隊全体の予備資産としてストックしましょう。…そして陛下、浮いた分の資産を、この者たちの『特別休暇』に()てることを提案いたします」


 私が背後の回廊(かいろう)にいた人物へ声をかけると、そこから静かな、けれど力強い足音が近づいてきた。


「特別休暇、だと?」


 アルリック陛下だ。

 彼は面白そうに唇を()り上げ、私の隣に立った。


「ええ。無理な魔法行使を減らして生まれた『黒字』は、現場に還元(かんげん)すべきです。3割のコストカットができたのなら、その分、彼らをしっかりと休ませ、次の作戦に(そな)えさせるのが最も合理的な判断です」


「…ははは! 面白い。祈りで精神論を()く聖女よりも、数字で休暇を勝ち取る会計士の方が、よほど騎士たちの士気を上げるな」


 アルリック陛下は、私の肩にポンと手を置いた。

 その温かさに、胸がトクンと跳ねる。

 ここでは、私が頑張れば頑張るほど、誰かが幸せになり、そして私自身も正当に評価される。


「リゼット様! 私の攻撃魔法も見てください! これも燃費が悪いんですか!?」

「リゼット様、こっちの術式もお願いします!」


 先ほどまでの不信感はどこへやら。私の周りには、自分の魔法を査定してほしい騎士たちが、我先(われさき)にと集まり始めた。




◇◇◇◇◇




 夕暮れの光が、練兵場を黄金色に染めていく。

 一日の業務を終え、私は心地よい疲労感の中で帳簿を閉じた。


「……お疲れ様、私」


 アステリアでは、一日の終わりはいつも死への恐怖と隣り合わせだった。明日の分の命が残っているか、そればかりを考えていた。

 けれど、今の私は違う。

 明日、またこの練兵場に来て、騎士たちの無駄を(はぶ)き、エルディアの国力をさらに黒字にしていくことが、楽しみで仕方ないのだ。


「リゼット、あまり根を()めすぎるなよ。君自身が壊れてしまっては、我が国にとって最大の損失(赤字)だ」


 アルリック陛下が、私の手元の演算機をそっと閉じながら言った。


「陛下…。ふふ、ご心配なく。成果が自分に返ってくるお仕事が、こんなに楽しいものだとは思いませんでした。アステリアにいた5年間よりも、この数日間の方が、ずっと『生きている』実感があります」


 私は陛下を見上げ、心からの笑顔を浮かべた。

 陛下の瞳に、私が映っている。やつれた幽霊ではなく、自信に満ちた、一人のプロフェッショナルとしての私が。


「よし。では今日の『成果報酬』として、最高級のデザートを振る舞おう。もちろん、君がカットした予算の範囲内だ」


「まあ! それは、今日一番の『健全な投資』ですわね!」


 私たちは共に笑い、夕焼けの中を歩き出した。


 今、私の新しい人生は、ここエルディアで、かつてないほどの最高益(利益)を更新し続けていた。


 私の指先に残るアルリック陛下の温もり。

 そして、明日への希望。

 帳簿には、今日、また新しい「幸福」という名の資産が記録された。


(前回の続き)

そして自己破産するとできなくなることを弁護士さんに説明される

・クレジットを持てなくなる(5~7年)

・ローン契約ができなくなる(同上)

・ブラックリストに載る(同上)

・高額な財産を清算される(不動産・車・生命保険・ブランドバックや時計など高価なもの)

・99万円を超える現金は借金返済にあてられる

・官報(国の機関紙)に載る(ただし一般人はほとんど見ない)

・破産手続き完了まで一部の職業に就けなくなる(士業とか公務員とか警備員とか…)


などなど…

まあ私は該当する職業でもないし高価なものは持ってないし、家族や知人が官報を見るはずもないので

「実質ノーダメでは!?」と内心考えており…


ここだけ聞くとかなり上手い話なので

次回は注意点を書こうかなと思います

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