第4話:隣国の合理主義王と秘密の契約
続きは本日中にー
アステリア王国の王宮が、権威を誇示するための金箔と無駄な装飾に埋め尽くされていたのに対し、エルディア王国の王宮は、驚くほど静謐で機能的だった。
磨き上げられた石材と、光を効率的に取り込む広大な硝子窓。そこには無駄な魔力消費の気配がほとんどない。
検問所で跪いた騎士たちに導かれ、私はその日のうちに王都へと運ばれた。
馬車の中で用意されたのは、しなやかな絹のドレス。アステリアで着ていたボロボロの法衣とは比べ物にならないほど軽やかで、私の肌に吸い付くように馴染む。
鏡の中にいたのは、自分でも見惚れるような「誰か」だった。
透き通るような白磁の肌に、深紫の宝石を嵌め込んだような瞳。そして、背中まで波打つ金糸の髪。5年間の赤字人生が嘘のように、今の私は生命の輝きに満ちている。
「エルディア国王、アルリック・フォン・エルディア陛下がお待ちです」
重厚な扉が開かれた。
謁見の間に漂うのは、緊張感というよりは、高度に統制された理性の気配。
玉座に座るその男――アルリック王は、私が知る王族のイメージとは決定的に異なっていた。
贅沢な宝飾品をジャラジャラと身に付けることもなく、仕立ての良い軍服を完璧に着こなしている。その瞳は、獲物を狙う鷹のように鋭く、それでいて深い知性の光を湛えていた。
「…君が、国境の騎士たちを驚かせた『流れの会計士』か」
低く、心地よい低音が広い広間に響く。
彼は玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を下りて私の方へと歩み寄ってきた。一歩ごとに、彼から放たれる圧倒的な存在感が空気を支配していく。
「名はリゼット。…アステリア王国の『無能聖女』と聞いていたが。目の前にいるのは、一国の魔力を凌駕するほどの純度を持つ、比類なき魔法使いのようだが?」
私は、優雅にカーテシーを捧げた。背筋を伸ばし、真っ直ぐに彼の瞳を見つめ返す。
「お初にお目にかかります、陛下。無能かどうかは、誰の物差しで測るかによります。あちらの国では、数字を整えるだけの私は『不要品』だったようですけれど」
「数字を整える、か。面白いことを言う」
アルリック陛下は、私のすぐ目の前で足を止めた。
ふわりと、彼から上質な紙と、かすかな煙草の葉のような、清潔で知的な香りが漂う。彼は私の瞳を覗き込むようにして、唇の端をわずかに吊り上げた。
「私は魔法というものが嫌いだ。便利だが、あまりにもコストが不透明すぎる。使えば何かが起きるが、その代償がどこで、誰に、どれだけ支払われているのかが見えない。その『不透明さ』こそが、国の基盤を蝕む最大の毒だと私は考えている」
私は息を呑んだ。
この人は、分かっている。
魔法が単なる「無償の奇跡」ではないことを。その裏にある「世界の貸借」を。
「…私のスキルは【魔力会計】。陛下、あなたがおっしゃるその『不透明な代償』を、すべて数値化し、可視化する力でございます」
「ほう…」
アルリック陛下の瞳が、一瞬で鋭さを増した。彼は私の周りをゆっくりと歩きながら、まるで最高級の鑑定品を見極めるような視線を送る。
「魔法のコストを完全可視化し、リスク管理できる力。…それは単なる聖女の力ではない。この世界の因果という名の帳簿を司る、『世界の管理者』の力だ」
彼は再び私の正面に立つと、心底呆れたように溜息をついた。
「アステリアの王は、正気か? 君のような、国家の最重要インフラを一身に担える逸材を、文字通り『使い捨て』にして放り出すとは…。無能なのは君ではなく、君の価値に気づけなかったあの国の連中の方だな」
その言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
5年間、ずっと欲しかった言葉。
「お前が必要だ」ではなく、「お前の価値はこれだ」という、対等な人間としての評価。
アルリック陛下は、不意に右手を差し出してきた。
「リゼット。我が国エルディアは、合理的で、無駄を嫌う国だ。だが、それでも見えない魔力の消費は発生している。私はそれを管理し、コントロール下に置きたい。君の力を我が国のために使わないか?」
「それは…私を、新しい聖女として雇いたい、ということでしょうか?」
「いや。聖女などという、祈れば解決するような不確かな椅子は用意しない。私が君に求めるのは――我が国の『魔力破産管財人』としての地位だ」
破産管財人。
それは、破綻しかけている財産を管理し、整理し、再生させるための執行官。
「君には、我が国のあらゆる魔力行使の『監査権』を与える。私の許可なく魔法を浪費する貴族がいれば、その権利を凍結し、負債を強制徴収しても構わない。君が私の右腕となり、この国の魔力循環を世界で最もクリーンなものに作り替えるんだ」
あまりにも大胆で、そしてあまりにも魅力的なオファー。
だが、私はもう、かつてのように自分を安売りするつもりはなかった。
「…条件がございます、陛下」
「言ってみろ。君の価値に見合うものなら、最大限の投資を約束しよう」
私は微笑んだ。今度は聖女としての慈悲深い笑みではなく、抜け目のない会計士としての不敵な笑みだ。
「第一に、私の完全な自由。誰の指図も受けず、自分の裁量で動く権利を。第二に、私の生命を維持するに足る、最高に美味しい食事と、ふかふかのベッド。そして第三に、正当な『成功報酬』を。私の働きによって生み出された余剰魔力の10%を、私の個人資産として認め、自由に運用させてくださいませ」
アルリック陛下は一瞬、呆気に取られたように目を見開いた。
やがて、彼は耐えきれないといった様子で、低く笑い声を上げた。
「…ははは! 自由と食事、そしてインセンティブの要求か! よろしい、実に合理的だ。犠牲を前提とした献身など、長続きしない。君のその強欲さこそ、私が求めていたプロフェッショナルの姿だ」
アルリック陛下が、私の右手を力強く握りしめた。
温かく、硬い手のひら。
それは、ただ守られるだけではない、共に戦うパートナーとの契約の感触だった。
「契約成立だ、リゼット。君を歓迎しよう。…君の言う通り、これからはじっくりと『稼いでもらう』としようか」
◇◇◇◇◇
契約を交わした翌日から、私の新しい仕事が始まった。
アルリック陛下が用意してくれたのは、王宮の一等地に建つ、最新の観測機器と計算機が揃えられた魔力監査室。そこには、アステリアの物置のような部屋とは天と地ほどの差がある、機能美に溢れた空間が広がっていた。
私は、エルディア王国の魔力貸借対照表を作成し始めた。
驚くべきことに、この国は既に非常に優秀な黒字経営だった。アルリック陛下の厳格な管理により、無駄な魔法は一切排除されている。
だが、私はその先を見据えていた。
「陛下。ただ浪費を抑えるだけでは、真の繁栄は望めません。…余った魔力は、『資産』として活用すべきです」
「資産、だと?」
執務室にやってきたアルリック陛下が、私の手元の帳簿を覗き込む。
「ええ。魔力をただ世界に返すのではなく、安全な形で蓄積し、必要な時に必要な場所へ貸し出す。…私はこのエルディアに、世界で初めての仕組みを作りたいのです」
私は、真っ白な羊皮紙の真ん中に、力強くその名前を書き記した。
「『エルディア魔力銀行』。これが、私の最初の大仕事になります」
アステリアでは「ケチな算盤弾き」と笑われた私の力が。
このエルディアでは、世界を揺るがす「経済の心臓」になろうとしている。
窓の外に広がるエルディアの街並みは、朝の活気に満ちていた。
(見ていなさい、ウィフレド殿下。…数字を侮った者が、どんな末路を辿るのか)
私は羽ペンをインクに浸し、新しい帳簿の最初のページに、最高に美しい文字で「資本金」の額を記入した。
私の新しい人生の利回りは、これから青天井で上がっていくのだ。
(前回の続き)
予約した日に法テラスに行くと小部屋に案内される
法テラス側が選定した弁護士先生と面談
自己破産したいと伝えると、今までの借金額と借り入れた会社を全部聞かれる(それまでの経緯とか)
一通りヒアリングが終わると、「じゃあウチの別の者が担当しますので、後日この時間に事務所へ来てください」と案内される
あーここ(法テラス)で進めるんじゃないんだーと思った
ここまでが自己破産における前段階といった感じ
次は弁護士さんの事務所に行ってからの話をー
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