第18話:プライドという名の首吊り縄
次の話で最終回です
続きは明日にー
『差押』
その不吉な赤い刻印は、もはやアステリア王宮のいたる所に、病魔のように蔓延していた。
かつて世界で最も贅沢な眠りを提供した王子の寝室。
シルクの天蓋、羽毛の枕、そして金箔を施した調度品。その一つ一つに、実体化した魔力の封印が容赦なく貼り付けられていく。
「やめろ……。それを外せ! それは私のものだ!」
ウィフレドは、剥がれ落ちた壁を背に、震える声で叫んだ。
だが、彼の手が黄金の燭台に触れた瞬間、赤いウィンドウが激しく明滅し、バチリと魔力の火花が散った。
『【警告】当該物品は執行対象です。接触は公務執行妨害と見なされ、追加徴収(懲罰罰金)の対象となります』
「徴収、徴収だと…!? これ以上、私から何を奪うつもりだ!」
ウィフレドが絶叫した隣で、さらに無惨な光景が広がっていた。
新聖女エレノアの宝石箱。
彼女がかつて「リゼット様の地味な服よりも、こちらのほうが似合いますわ」と笑いながら見せびらかしていた大粒のダイヤモンドやルビーが、音を立てて崩れ去っていた。
魔法による維持が切れた偽りの宝石は、ただの道端に転がっているような石ころへと変貌し、彼女の指から滑り落ちる。
「ああああっ! 私の……私の若さが!宝石が! 鏡を、鏡を持ってきて!」
エレノアが叫ぶが、答える者は誰もいない。
仕えていたメイドたちは、ルッドの後に続くようにして既に姿を消していた。残されたのは、かつての美貌を完全に失い、深い皺と濁った瞳を持つ、みすぼらしい老女の姿をした彼女だけだ。
王宮の門の外には、エルディアから派遣された「清算執行官」たちが、淡々と差し押さえ物件のリストを読み上げている。
「……以上をもちまして、アステリア王家私有財産の全額徴収を完了する。これより、元王族および関係者は、本施設からの退去を命ずる」
「退去だと……? ここは私の城だぞ! 外は雨だ、どこへ行けと言うんだ!」
ウィフレドが執行官の襟元を掴もうとしたが、執行官はゴミを見るような冷ややかな目で彼を一瞥した。
「自己破産の手続きさえ踏めば、エルディアの運営する『更生居住区』への入居が可能でした。……ですが、殿下。あなたは『王族が書類一枚で平民に堕ちるなど、歴史への冒涜だ』と、手続きを拒否されましたね?」
「当たり前だ! 私は王族だ! 平民の列に並んで粥を啜るなど、死んでも御免だ!」
「……左様ですか。では、ご随意に。法的な保護を自ら拒んだ者に、提供できる資産はありません」
ドン、と重厚な城門が閉ざされた。
あとに残されたのは、激しい雨が降り注ぐ中、泥濘の上に放り出された二人の男女だった。
◇◇◇◇◇
3日後。
アステリア王都の片隅、悪臭漂う路地裏。
かつて太陽と呼ばれた王子と、奇跡と呼ばれた聖女は、壁の隙間から漏れるわずかな日光を分け合って震えていた。
空腹は、彼らの理性をとっくに削り取っていた。
「……ウィフレド様、お腹が空きましたわ。何か、何か食べさせて……」
「わかっている! だが、店に行っても誰も私を敬わない! 『金がないなら働け』だと? この私に、あんな卑しい連中の下で泥にまみれろと言うのか!」
ルッドのように、プライドを捨てて荷運びをすれば、少なくともパン一枚は手に入っただろう。だが、彼らにとっての「自己破産」とは、命を失うことよりも恐ろしい「特権の消失」だった。
彼らは死ぬ間際まで、自分たちが特別な存在であるという幻想(不良債権)を握りしめ、自らの首を絞め続けていた。
「そうだ……。倉庫だ。あの角にある大きな倉庫に、かつて我が国がエルディアから輸入した最高級のハムが保管されているはずだ」
ウィフレドの目が、ギラリと不吉な光を宿した。
それはかつての気高さなど微塵もない、追い詰められた獣の目だった。
「盗むのですか…?」
「盗むのではない! 元々、私のものだったものを、正当に回収するだけだ!」
夜陰に乗じて、二人は震える足で倉庫へと忍び込んだ。
魔法の加護を失った彼らの体は、驚くほど脆弱だった。かつては指先一つで爆炎を放ち、優雅に舞っていた二人が、今は一つの鍵を壊すことすらままならない。
「ぐ、ぬぅ……重い、なぜこんなに…!」
バール代わりに拾った鉄の棒で、ようやくこじ開けた扉。
中には、彼らが夢にまで見た豪華な食材が並んでいた。
かつては飽きるほど食べ、気に入らなければ捨てていた最高級の燻製肉。
「あった! これだ、これで生き返れる!」
ウィフレドがその肉に食らいつこうとした、その時だった。
カチリ、と。
暗闇の中で、魔導灯の冷たい光が灯った。
「……見苦しいな。まさか、かつての王族が、夜盗にまで堕ちているとは」
現れたのは、倉庫の管理を委託されている自警団の男たちだった。
そしてその背後から、一陣の清涼な風と共に、場にそぐわないほど凛とした、そして圧倒的な存在感を放つ女性が歩み寄ってきた。
リゼット。
彼女の隣には、夜の闇を背負ったような漆黒の外套を纏ったエルディア王アルリックが、不機嫌そうに佇んでいる。
「リ、リゼット……! 助けてくれ! 違うんだ、これは私のものなんだ!」
ウィフレドは肉を抱えたまま、床を這って彼女の靴を掴もうとした。
その姿は、泥にまみれ、悪臭を放ち、人間としての尊厳など微塵も感じられない何かだった。
リゼットは、ゆっくりと視線を落とした。
だが、その瞳に宿っていたのは、怒りでも、復讐心でも、ましてや同情ですらなかった。
彼女は、まるで道端に転がっている壊れた石ころを見るような、あるいは読み終わってシュレッダーにかけるのを忘れた古い紙片を見るような、徹底した無関心の眼差しで彼らを見つめた。
「…自警団の方。この不法侵入者たちは、誰ですか?」
リゼットの声は、どこまでも澄み渡り、そして残酷なまでに平坦だった。
「リゼット様? あ、あの、この者たちは…かつてのアステリアの王子と聖女では…」
自警団の男が困惑して答える。
だが、リゼットは小さく首を傾げた。その表情には、一点の曇りもない。
「存じませんね。私の知っているウィフレド殿下は、あのような無様な泥棒ではありませんでしたし、聖女様もあのような薄汚れた方ではありませんでした」
「な…リ、リゼット! 何を言っているんだ! 私だ、ウィフレドだぞ!」
ウィフレドが絶叫する。
だが、リゼットはアルリック陛下の方を向き、微笑みながら告げた。
「陛下。当銀行の顧客リストを照会しましたが、このような『身元不明の困窮者』は登録されておりません。どうやら、世界から忘れ去られた、ただの迷い人のようですね」
「そうだな。価値のないものに、名を与える必要はない」
アルリック陛下が、氷のような声で同調した。
リゼットは、一度たりとも彼らの目を直視することなく、踵を返した。
「自警団の方。この不審者たちは、法に従って適切に処置してください。ああ、盗もうとしていた物品は、既に我が国の『清算済み資産』ですので、損害賠償の手続きも忘れずに」
「待って…待ってちょうだい! リゼット様! わたくしよ、エレノアよ!」
エレノアが叫ぶが、リゼットはその歩みを止めない。
彼女にとって、彼らはもはや「清算が終わった帳簿」に過ぎなかった。
名前も、過去も、恨みすらも。
すべては「償却済み」として、彼女の記憶という名のバランスシートから抹消されていたのだ。
背後で自警団に拘束され、泥の中に顔を押し付けられる二人の悲鳴が響く。
だが、リゼットの耳に届くのは、夜の帳を静かに震わせる、エルディアの健全な魔法の調べだけだった。
「さあ、行きましょう、陛下。明日の朝の決算は、忙しくなりそうですから」
かつて、彼らがプライドという名の首吊り縄で自分たちを縛り付けた結果。
彼らは、自分たちが最も蔑んでいた「名もなきゴミ」として、歴史から静かに消去されていった。
償却は減価償却です、備品のパソコンなどデカい金額は何年かかけて清算していきます
確定申告にて避けて通れない単語です
義務教育で金融の授業をしてほしい…「え?確定申告しなきゃダメなんですか!?」と言い出す人が多すぎる…
ちなみに作者が借金を負った理由は生活苦です
就職した会社の賃金が低かった(手取り10万)&ノルマ達成のために自費で商品を購入したことが原因です
手軽に借りれる銀行のカードローンからズブズブと、いつの間にか返済できないほどの借金に…
でも消費者金融から借りなかった過去の自分をほめたい
以下はいろいろな所からお金を借りて思ったことです
どうしても借金をしなければならない場合、銀行でローンを組むのがオススメです
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逆に言うと、18%以上の利息があるカードローンや消費者金融はやめておいた方が良いです
たまにあるのよね、銀行のカードローンで利息18%のやべーやつ…
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