第11話:リゼットがいなくても回る魔法標準化法
ちなみにまだアステリアは終わってません
続きは明日にー
「……よし。これで第15条までの草案は完成ね」
私は羽ペンを置き、監査室の広いデスクに並べられた膨大な資料を見渡して、小さく息を吐いた。
窓の外には、魔力銀行の設立によって活気づくエルディアの街並みが広がっている。だが、今の私が見つめているのは、さらにその先にある盤石な未来だ。
これまでの私は、自身の固有スキル【魔力会計】という一種の「直感」に頼って魔力の流れを読み、管理してきた。アステリアにいた頃は、それで事足りていた。というよりも、私一人が身を削れば済む話だったからだ。
けれど、このエルディアという国は違う。規模も、魔力の流動性も、そして何よりアルリック陛下が掲げる合理性の重みが違う。
「私という一個人の能力に依存しているうちは、まだリスク管理としては二流…。私がいなくても回る仕組み。それこそが、この国に提供すべき真の利益よ」
私は、自身が頭の中で瞬時に行っている演算を、誰にでも理解できる数式と論理に分解し、一冊の規範へとまとめ上げた。
その名は、『魔力会計基準(MAS:Magic Accounting Standards)』。
これは、魔法の発動に伴うコスト計算、魔石の減価償却、そして術式の燃費効率を可視化するための「共通言語」だ。これが普及すれば、たとえ私が不在でも、現場の役人や騎士たちが自ら赤字を防げるようになる。
コンコン、と控えめなノックの音が響いた。
「リゼット様、失礼いたします。本日分の演習データの集計が終わりました」
入ってきたのは、私が弟子として選抜した数名の若者たちだ。
優秀な若手官僚や、商家の出身で計算に明るい平民の娘。彼らは、アステリアでは「算盤弾き」と笑われた私の技術を、喉から手が出るほど欲しがった意欲あふれる志願者たちだった。
「ご苦労様。…あ、カイル。この火属性魔法の減衰率の計算、少し誤差があるわね。術式の維持時間を『定額法』で計算したでしょう? ここは魔力圧の変化に合わせた『定率法』を用いるべきよ」
「あ……申し訳ありません! すぐに修正します!」
若手官僚のカイルが、慌てて計算盤を叩き直す。私はそれを見て、小さく微笑んだ。
教えることは、私自身のスキルの再確認にもなる。彼らが成長すればするほど、私の【魔力会計】は個人の特殊能力から、国家の基盤となる「法」へと昇華されていくのだ。
その時、部屋の空気がわずかに変わった。
静かだが、圧倒的な存在感を放つ足音。
「リゼット。随分と熱心なことだな」
アルリック陛下だった。
彼は私のデスクに歩み寄ると、若者たちが提出した報告書と、私が書き上げた『魔力会計基準』の草案をじっと見つめた。
「陛下。ちょうど良いところに…。ご覧ください。私のスキルのエッセンスを、誰でも扱える公式に落とし込みました。これを『魔法標準化法』として施行すれば、エルディアの魔導効率はさらに三割は向上するはずです」
私は自信を持って報告した。だが、陛下はいつものような賞賛の言葉をすぐには口にしなかった。
彼は資料をパラパラと捲り、弟子たちに指導する私の姿を、どこか遠くを見るような、冷ややかで、それでいてひどく熱を帯びた瞳で見つめていた。
「……リゼット。これはつまり、君の代わりを育てるということか?」
「はい。基礎的な管理を仕組み化すれば、私が倒れても、あるいは…私がこの場所を離れても、この国は破綻しません。属人的な管理から、組織的な管理への移行。これこそが真の管理です」
私は満面の笑みで答えた。
アステリアでは「お前の代わりなどいくらでもいる」と言われて傷ついた。けれど、今の私は「代わりを自分で作る」ことで、さらに高度な自由を手に入れようとしている。それが合理的だと思っていた。
だが、アルリック陛下は、私の返答を聞いた瞬間、わずかに眉間を寄せた。
彼の手が、私のデスクの端を強く握りしめる。
「……離れる、だと?」
その声は、執務室の温度を一気に数度下げたかのように冷たかった。
弟子たちは顔を見合わせ、陛下の放つ威圧感に気圧されて、そそくさと退室していった。室内には、私と陛下だけが取り残される。
「陛下…?」
「君は、そんなことばかり考えているのか。私がいなくても回る国。君がいなくても機能する仕組み…。なるほど、合理的だ。君らしい。だが、私にとってはこれ以上なく不愉快な提案だ」
陛下が私の椅子を回し、私と正対させた。
至近距離で、彼の鋭い瞳が私を射抜く。その中にあるのは、一国の王としての理性ではなく、もっと原始的で、泥臭いまでの執着だった。
「私は君を、ただの『便利な道具』として雇ったつもりはない。君をエルディアの、いや、私のそばに繋ぎ止めるために、これだけの投資を用意した。それなのに、君は自分を不要にする準備をしているのか?」
「陛下、それは誤解です。私はただ、リスク管理の観点から…」
「リスクなど、私がすべて握り潰すと言ったはずだ」
陛下の手が、私の頬に添えられた。
温かくて、けれど逃げ場を許さないような強い力。
彼の指先が、私の唇の端をなぞる。心臓の鼓動が、自分でも驚くほど大きく、速くなった。
「君がこの国を愛しているのは分かっている。民のために公式を作るその献身も、素晴らしいと思う。だが、リゼット。君という存在そのものまで共有財産にするつもりはない。君のその知性も、微笑みも、私だけが享受できる独占的資産であるべきだ」
「……陛下、それは…公私混同ではありませんか?」
私は精一杯の虚勢を張って、事務的な声を絞り出した。
陛下の顔が、さらに近づく。吐息が触れるほどの距離。
アルリック陛下は、私の瞳の奥を覗き込むようにして、低く囁いた。
「ああ、混同して何が悪い…。君が策定するその法律に、『リゼットは国王の私有財産とする』という条項を書き加えたくなるほどには、私は焦っているのだよ。君が自由を求めて、私の手の届かない場所へ飛んでいってしまうのではないかと」
冷徹で、常に計算高くあったはずのアルリック陛下。
その彼が、今、私の前でなりふり構わず独占欲を剥き出しにしている。
その事実に、私の胸の奥が、かつて味わったことのない熱さで疼いた。
(……陛下。そんな顔をされたら、私の計算が狂ってしまいます)
アステリアでの5年間、私の価値を誰も認めなかった。
けれどここでは、一国の王が、私という一人の女を「失いたくない」と、プライドを捨てて縋っている。
私は、繋がれた陛下の視線から逃げるように、少しだけ俯いた。
「……安心してください、陛下。私は、自分が投資した対象を、利益が出る前に手放すほど、無能な会計士ではありません。この国も……陛下も、私が最後までしっかりと管理させていただきます」
「……そうか。それならいい。だが、あまり私を赤字にするなよ。君の注意という報酬が足りないと、私は暴走して君の時間を力ずくで買い取ることになる」
陛下は、私の頬を名残惜しそうに一度撫でてから、ゆっくりと手を離した。
室内に、再び事務的な空気が戻る。けれど、一度灯った熱は、二人の間に確かな違和感として残り続けていた。
陛下は、私が思っている以上に、私を一人の女性として求めている。
そのことが、私の中に新しい負債……いいえ、心地よい期待という名の資産を積み上げていく。
アステリアの混沌など、今の私にはまだ届かない。
私は今、目の前の王が抱える焦燥という名の不均衡を、どうやって調整していくべきか、新しい帳簿のページを開くのだった。
(前回の続き)
自己破産するにあたっての落とし穴
そう、それは銀行口座が凍結されるのである!!!
銀行勤めの知り合いから詳細を聞いたのだが
A銀行に口座を持っていたとして、同じA銀行から借金をしている場合、
借金整理のためにいったんA銀行の口座が止められるらしい
(実際2ヶ月止められた)
そして銀行の保証会社が借金を立て替えてくれると凍結は解除されるよ
ただ保証会社の支払日は銀行ごとに決まっている
(A銀行なら毎月5日、B銀行なら毎月8日というように)
なので弁護士さんからの通知が届くタイミングによっては、3ヶ月くらい凍結されることもある
ちなみに銀行員は弁護士さんからの通知が届き次第、口座を凍結させるので
自己破産する前に、借金をしていない銀行で口座を一つ作っておくことをオススメします
「口座凍結中のお給料振り込みや支払いはどうなるの!?!?」
という疑問は次回にー
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