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魔術と技術の間で

同期のマドンナ

作者: zensuke
掲載日:2025/11/10

「あら、ゼン君じゃない?」

覚えのある声に、ドキリとして振り返る。

そこには、会いたくて仕方がない女がいた。

「紅さん」

そんな言葉しか出ないことに、情けなくなる。

「やっぱりゼン君だ。お久しぶりだね。元気だった?」

相変わらずの天真爛漫にあてられて、こちらの言いたいことが出てこない。

「それなりかな?紅さんはどう?解析班に移ったと聞いたけど、うまくやってる?」

もっと他に聞き方があったな。口に出してから後悔する。

「うーん、それなりに、かな」

含み笑いで返してくる。

ああ、俺は君のそういうところに惹かれたんだったな。

この子を幾度忘れようとしたことか。

「なんだ?知り合いか?」

先輩の一言で現実に引き戻される。

「同期入隊の紅さんです。彼女とても優秀で、学校を首席で卒業しているんですよ」

「へえ、大したもんだ。」

「ゼン君がお世話になっています。彼、ちゃんと仕事してます?」

よけなことを。

「してないね」

こちらもよけいだ。

先輩も半分笑って返す。


おーい、行くぞ


「やべ、遅れたな。ゼン、行くぞ」

別の先輩が少し離れていたところから呼びかける。いつの間にかみんな移動を始めていた。

「いろいろ話したいけど、あとでまた一杯やろうよ」

「いいね。楽しみにしてるよ。私の隊はしばらくここにいるから」

「それでは」

小隊の皆とはぐれないように、人ごみをかき分けていく。

少し離れてから振り返ると、目が合ってにこやかに小さく手を振ってくれた。

全く悪意がなく、天然だから困る。

仕事ができて、愛想がよくて、文武両道、おまけに美人な女に、こんな対応されたらば誰でも勘違いするだろうに。

俺もその一人だ。

彼女、恋人はいるのかな。今でも一人なのかな。

そんな考えが頭をよぎる。


「ゼン、さっきのはお前の彼女か?」

制服を壁に掛けながら先輩が言う。

「いえ、そういうわけじゃないですが」

「なんだ、片思いか」

思わず荷解きの手が止まり、言葉が詰まる。

「お前、わかりやすいな。ただの世間話なのに」

先輩は苦笑いする。

「ええ、まあ」

適切に答えようがなく、とりあえず応答する。

「まあいいや、晩飯早く食べて、自然と隊を抜ければ会えるだろ。タイミングが大事だな。」

この人、親切なんだな。今更だが。

「ただし、今後の予定を報告する場も兼ねているから、そこは頼むぞ。隊員との付き合いは大事だからな」

「ありがとうございます」

「ただし、さっきの子の知り合いを俺に紹介しろ、いいな」

「はあ、なんとか」


食堂は宿の一階であった。

木製の長いテーブルに向かい合って座る。

その組み合わせがいくつもあり、半数以上が軍関係者で埋まっていた。

大混雑である。大声で騒いだり、すでに喧嘩をしているテーブルもある。

いかに帝国とはいえ、軍隊専用の町を作る事はせず、普通の町の施設を流用する。

そのため、民間人と相席になっているところもある始末だ。

そんなところに、人間味を感じる。


隊はあらかじめ決められたテーブルに座る。

俺は末席で、隣には例の同部屋の先輩。

向かいは俺の少し前に配属された先輩であった。

「君は東のどこ出身なんだ?」

少し離れた隊員が、ちぎったパンをかじりながら、こちらに尋ねる

「極島です。黄国からさらに東の海の・・・」

パンの隊員は少し目を大きくして驚いた様子で聞き直す。

「侍の国か?」

「そのように呼ぶ人もいますね。」

帝国に来てから、自己紹介すると鉄板ネタだと感じる。

「お前の家も士族なのか?」

士族という表現に、今度はこちらが驚く。詳しいな。

「ええ、まあ」

おお、と、会話を聞いていた隊員たちは、少し感嘆する。

パンの隊員は、今は酒杯を飲み干し、こちらを向いて、やっ!と切りかかるジェスチャーを小さくして、

「頼りにしてるよ、侍君」

と、笑いながら乾杯の仕草をこちらにした。

俺は微笑みながら乾杯に応えると、周囲の隊員もつられて行う。

杯をあけると、別の隊員から注がれる。その繰り返しで、すっかり酔ってしまった。

ああ、そろそろ勘弁してくれないかな。

そう思いながらも、なんとなく心地よさを覚えていた。

そして、紅とどのように合流しようか、何を話そうかと、いつしか夢の中で考えていた。


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