アポロンとアスクレピオス —肉体の問いについて—
《旅人ロビンが舞台に上がり、一本の樹にもたれかかって休んでいた》
《アポロンが現れる》
アポロン「そこの旅人、何をしている?」
ロビン「はい旦那さん。
私は歩き疲れた足を休ませております。ただのロビンと申します」
アポロン「そうか、私はアポロンだ。知っているか、旅人よ」
ロビン「ええ、ええ、なんと、そんな偉大な神様が、私のようなしがない旅人の前に姿を現されるとは。
——失礼ながら、本物にございますか?」
アポロン「無論、本物である。
証明してみせよう、私は神であるため女にもなれる」
《アポロンは女の姿に変身した》
ロビン「なんと、正しく貴方はアポロン様であらせられる。
見紛うなきその美しさを目の当たりに出来るとは。
何たる僥倖にございましょう。
輝かしき君が眩しきあまり直視できませぬ。
しかしながら、美しいという事実だけははっきりと感じております」
アポロン「美は理由を持たず、ままあるだけで完璧だろうからな」
ロビン「貴方様の権威と光の前では平伏するしかありません」
《そこにアスクレピオスが現れた》
アスクレピオス「私はアスクレピオスである。
私は医神であるため女にもなれる」
ロビン「なんと!?それは如何にして?」
アスクレピオス「簡単な事。
医術の技でもってすれば、身体を女に作り変える事が出来るのである」
ロビン「なんという事だ。
乳房と、女特有の腰と臀部がある。
もしや、服で見えざる中までお作りになられたのですか?」
アスクレピオス「勿論だ。骨も性器も内臓も何もかも。
私の技術をもってすれば女になるなど、難しい事ではない」
ロビン「それは素晴らしい。
まるで巧みなるヘパイストスが、最初の人間の女をお作りになったかの様な完璧な造形」
アスクレピオス「私の医術は肉体を超え、神と等しく作り変える事を人間は達したのだ。
偉大にして完璧な父なるアポロンと同様に。
いずれそれをも超える時が来るだろう」
ロビン「ところで、何故、アポロン様もアスクレピオス様も女の姿になられたのですか?」
アポロン「神ゆえに出来るからだ。
——だが、本質は見えるとは限らない」
アスクレピオス「医神ゆえに出来るからだ。
——だが、形だけが本質とは限らない」
《神々はそう言って去って行った》
ロビン「不思議な事もあるものだ。
女の体を使って、私に何が言いたかったのか?
神の権威? それとも、技術を見せびらかしたかったのだろうか?」
《ロビンはもたれていた樹から起き上がり、固まった身体を伸ばした》
《体を覆い隠していたマントが落ちる》
ロビン「——そして女の私に何を言わせたかったのか?
実に不可解な事もあるものだ。
女である私を、この舞台に置き、神々と会わせたのは誰であろうか?
否、この夢を見ているのは誰なのであろうか?
私かあなたか——誰だったか忘れてしまった。
我々は男か女か、神か人か。
それとも、それに当てはまらない存在か。
私は何者なのだろう?
私は自身の肉体の主人たり得るだろうか?
そして、彼らは我々に何を問うているのであろうか?
神々が去った今、問いだけが残され——
答えも無く、横たわるまま受け入れるしかないのだろうか?」
《終幕》
あとがき
——そんな夢を見た。
実に不可解で面白い夢でしたので、戯曲的に書いてみたら哲学的になったので、こうなりました。
Xにて夢の印象や解釈について書いています。
https://x.com/TveracruzT/status/1970070130240671900
私自身もよく分かっていないので、どんな解釈をしたか感想で教えて頂けると幸いです。