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「ワンドロイド」は現代魔導士の夢となるか?~行方不明の父から届いたのは、魔導書アプリ搭載スマホでした~  作者: 須藤 蓮司


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「……来ちゃった……」


思わず声に出してしまった。


目の前に広がるのは墓地…霊園である。

昼間だというのに、一帯の空気はやたらと冷たくて重苦しい。

その中央には、ぽっかりと大穴が口を開けていた。

そこが、「青山霊園カタコンベ」と呼ばれるダンジョンの入口だった。


きっかけはワンドロイドに入っていた「ダンジョン・ナビ」だ。

幾つかのマーカーが登録されていた中で、比較的近場の初心者向けダンジョンにピンが立っているのを見つけてしまった。


…で、気がついたら来ていた。

…俺って馬鹿かもしれない。


聞いた話だと、このダンジョンはまだ比較的新しく出来たものらしい。

ある日突然、墓地の一部が崩落し、地下に隠された未知のダンジョンが現れたそうだ。


…なんか既視感のある話だな。

モンスターは食いたく無ぇ。


名前が示す通り、中はカタコンベ…地下墓地のような構造になっているらしい。

出現するモンスターはアンデッド系。スケルトンやゾンビ、ゴーストといった有名どころが中心。


…で、それがなぜ初心者向けなのかというと…アンデッド系は総じて魔法がよく効くのだそうだ。

特に地上から地下三階までに出るのはスケルトンのみ。

更に剥き出しの骨の体は打撃にも弱いから、魔導士にとっては恰好の練習相手ってわけだ。

…要するに、もしも魔力切れしても最悪棍棒かバットでも振り回せば倒せるので、命の危険はまず無いらしい…のだが。


「…いやいや、分かってても怖ぇわ…。」


俺は昨日まで普通の生活を送っていた一般人…言うなれば「今日から魔導士」である。

そして、オバケは割と苦手な方だ。

…魔法が効くのなら、まぁ一方的にやられるような理不尽は無いのだろうけれど…。


自分を奮い立たせるように「ヨシッ!」と呟いて、俺は人の流れに混ざった。

…周囲を歩いているのは、明らかにカタギではない人々。

遠目にカジュアルな服装に見えても、近くでよく見れば身に纏っているのは有名メーカーの対ダンジョン装備。

…コイツ等、みんな魔導士だ。


墓地の奥に進むにつれ、辺りの空気はどんどん騒がしくなっていく。


広場のような場所に出ると、そこには若い魔導士たちが十数人。

彼らは先輩らしき人物から注意事項を叩き込まれたり、装備の最終チェックを受けていた。

どうやらこれから初めてダンジョンに潜るらしい。


――まぁ、初心者と言っても、彼らが持っているのはワンドロイド。

高級車が買えるような値段の代物だ。

…つまり、総じてブルジョアジー。

だから身に着けている装備も、素人の俺でも知ってるハイブランドばかりだった。


(…あの青年の装備、『イージス』のローブじゃね? ミドルクラスでも百万以上はするってヤツだろ…)


思わず口を開けて惚けてしまう。

魔導士たちの多くは全身を覆う「ローブ」と呼ばれる防護服を着ていた。

ダンジョン由来の素材を現代技術で加工した万能防具。

物理にも魔法にも耐性があり、さらにダンジョンの環境にも順応する――無論、高級品。


そんな高級品に身を包んだ、キラキラした初心者魔導士達を尻目に自分の姿を見る。


…ジャージである。


…俺って、完全に場違い?

は…恥ずかしい…。


『蒼様は現在、【不可視】の効果により透明化しております。人目を気にする必要はございません』


変態AIコンシェルジュがフォローしてくれるが…気持ちの問題なんだよ、こういうのは!


俺は頭を振って、ダンジョンの入口に目をやった。

そこには金網で区切られた、駅の改札口のようなカウンターがある。

そこに順番に並ぶ魔導士達に、係員がワンドロイドの提示を求めていた。


ダンジョン入場の条件は資格制等ではなく、「ワンドロイドを持っていること」。

要はモンスターに対する最低限の対抗手段を持っていること――それが条件だ。


一応、俺も自前(?)のワンドロイドは持っているが…

今の俺は透明人間。並んでいた魔導士の背後にぴたりと張り付き、彼らと一緒に入場することにした。


カウンターを通り抜けると、見知らぬ新人魔導士君から離れる。


眼前には、土と埃の香りが漂う薄暗い空間が広がる。

オレンジ色のLED灯が等間隔に、吸い込まれるように奥へ奥へと続いている…。


ふるえそうになる足を気合で踏みしめ、胸の奥まで大きく息を吸う。


――ここに、オヤジの手掛かりがある。

そう信じて、俺は一人、青山霊園カタコンベの闇へと足を踏み入れた。



◇ ◇ ◇ ◇ 


カタコンベ内部は、更にひんやりとした空気に満ちていた。

地上の残暑が嘘のように、石壁に囲まれた空間は湿り気を帯び、吐息さえ白く見えそうな冷気を帯びている。どこからともなく滴る水音が、静けさをさらに際立たせていた。


「…正に昔ながらのRPG、その最初のダンジョンってカンジだな。」


思わず声を漏らしたが、返ってくるのは石造りの壁に反響した自分の声だけだ。


背筋に薄い緊張が走る。

足元に積もった灰色の土を踏みしめるたび、湿り気を帯びた微かなざらつきが靴底に伝わる。


『初心者向けのダンジョンとはいえ、どうぞ油断なさらずに。本来のカタコンベとは違い、ここの死者は安らかな眠りを拒否した、危険な存在でございます。』


耳元に響くコンシェルジュの声が、かえって恐怖を煽る。

…あの変態AI、まるで俺のビビり具合を楽しんでいるみたいだな…。


そして、変態が危惧したように、視界の先に“それ”が現れた。

人型の細い影が、よろめくように立ち上がる。

乾いた骨と骨が擦れる耳障りな音が、空洞に響く。


「…これがスケルトン、か。…まんま骨だな。」


ゲームで見慣れた名前を口にしてみても、目の前の現実は容赦ない。

白骨とは言え、死体。それも動く死体である。


…幸い、こちらには【不可視】の魔法効果が発動中である。

奴の空洞の眼窩は、俺を捕らえていない。

…だが、それが逆に怖い。時折何もない空間に向かって「カカカッ」と声とも知れない異音をあげている。

…何がおかしいんだよ…マジ不気味だ。


『さあ、初陣でございます。「Little Key」の力…即ち蒼様の力を示す、絶好の機会です。』


変態AIが言う。

…顔は見えないが、その喜色に満ちた声色から、いやらしい性格が滲み出ている。


「…人の緊張を肴にしやがって、この変態鬼畜AIが…」


『素晴らしい、もっとおっしゃって下さい。』


額の汗を拭う暇もなく、俺は震える手でスマホを取り出す。

グリモア「Little Key」の画面には無数の魔法アイコンが並ぶ。


『ゴーストを相手にする場合、「火」や「聖」属性の魔法が特に効果的です。今回は第64の魔法「フラウロス」の【火炎魔法】を使用してみましょう。』


第64の魔法…後でショートカットを作っておこう。

該当するページを開き、魔法名をタップする。



────────────────

[Little Key]         θθθ


64.[⁂]フラウロス【火炎魔法】

消費魔力5


1・敵を火炎で攻撃する

2・《???》

3・《???》

      ≪   ≫

     ◀  ◎  ■

────────────────



息を整え、意を決してアイコンをタップし、唱える。



「第64の魔法…フラウロスッ!!」



途端に、手にしたワンドロイドの上に炎が集まり、渦を巻き始めた。

真っ赤に赤熱したソレは、見た目とは裏腹に熱を感じさせず、バスケットボール大まで光が膨らんでいく。


おお、「ファイアーボール」だ。


…熱さを感じないのは、術者に対しての防御機構でも仕込んであるのか?


「うおおっ…!なぁコレどうすりゃいいんだっ!?」


『スケルトンに向けて発射して下さい。イメージするだけで可能です。』


あ、ヤバい。なんかスケルトンがこっちを見ている。

…俺の姿は消えたままだけれど、顕現した炎は見えているっぽい。


反射的に、俺はそれをスケルトンへと投げ放った。

轟、と空気が揺れる。炎が骨を呑み込み、白煙が立ち上った。


…骨は一瞬で焼き尽くされ、カタコンベの床に灰が散らばる。



…カタコンベに静寂が戻った。

俺の心臓の鼓動だけが、やけに大きく響く。


『お見事でございます。これにて、蒼様は正式に「魔導士」としての第一歩を踏み出されました。』


「…はは。なんとかなるモンだな…実感は湧かないけど。」


震えた笑い声が漏れる。

けれど、そこには確かな高揚があった。

俺でもできる。…そう思えるだけで、全身の緊張が少し抜けていく気がした。


だが、その安堵は長くは続かなかった。

燃え残った灰の中から黒いモヤのようなものが立ち上り、それは辺りに霧散するように消えていったのだ。

…その瞬間、俺の体にぞわりと悪寒が走る。


「…今の、なんだ?」


『モンスターを形作っていた「魔力」が、ダンジョンに還っただけでございます。…ただ、その一部は「経験値」として、蒼様の体へと吸収されました。』


変態AIコンシェルジュの声音が、ほんのわずかに愉悦を含んでいた。

まるでこの先の、俺の不快なリアクションを期待しているかのように。


…意地になった俺は、背筋を正すように深呼吸し、再びカタコンベの奥へと足を踏み出した。

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