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前回のあらすじ…AIコンシェルジュがバグってた。
「えっ…と、今なんて言ったのかな?」
聞えた言葉があまりにもだったので、自分の耳を疑うことにした俺。
『これは失礼、音量が小さすぎたでしょうか?〔音量↑〕私のことはどうぞ、クソムシとお呼び下さい。』
うるさっ!?
やっ…やめろっ!!ご近所さんに変態が住んでると思われちゃうだろ!!
…つーか、聞き間違いじゃなかったわ…変態だったわ…。
「…いや、流石にそんな風に呼ぶのは俺が嫌なんだが…」
『…はて、「そんな風に」とは?』
「え…いや、だから…」
『ハッキリとおっしゃってくださらないと理解できません。「そんな風に」とは?』
「その……ク…」
『「ク」?「ク」の次は?』
「…ク…ソ…」
『いい調子です!そのまま続けて!一気にどうぞ!』
「…このクソAIがぁぁぁっ!!!」
俺はワンドロイドを全力で壁に叩きつけた。
『…ちょっと!さっきから五月蠅いぞ!いい加減にしろっ!!』
…隣室の住人から罵声があがる。
…畜生、いいかげんにしてほしいのはコッチだっつーの…。
…はっ!!怒りに任せてワンドロイド投げちまった!!
やべぇ…また壊れちまったら気絶するまで魔力吸われちまう…!!
急いでワンドロイドを拾い上げ、確認すると…
「…無傷だな。…全力で壁に投げつけたのに。」
『魔導士専用のワンドロイドはダンジョン素材で作られた特別製です。この程度ではかすり傷一つつくことはございません。』
事も無げにAIコンシェルジュが応える。
すげぇ…流石ダンジョン素材だ。
…いや待て、そうなるとおかしいじゃねぇか。
ちょっとやそっとじゃ傷一つつかないワンドロイドが、あんなボロボロになる状況って…。
…一体、何があったんだ?
「…なぁ変態、ここに来る前、お前に一体何があったんだ?…オヤジは無事なのか?」
『所有権が蒼様に移った時点で、プライバシー保護の為前の所有者に関する情報の一切が消去されています。』
なん…だと…?
…それじゃあ、オヤジの情報は分からずじまいじゃねぇか…。
『そう気を落とされないで下さい、蒼様。…まだ手掛かりはございます。』
「…え?だ、だってさっき、情報は消されてるって…」
『詳しい話の前に。…まずは本グリモア「Little Key」の概要説明をさせていただいてもよろしいですか?』
「いや、それよりオヤジの手掛かりの方が大事…」
『私はあくまで、グリモア「Little Key」のコンシェルジュでございます。まずは自己紹介をさせていただだきたく。』
「…。」
…正直、ワンドロイドだとかグリモアなんて、どうだっていい。
俺はオヤジの安否が分かれば、それで…!
…くそっ…!
「…分かった、説明を聞く。…その後、必ずオヤジの手掛かりを聞かせてくれ。」
『ご理解いただき、ありがとうございます。』
変態がそう言うと、電子音と共にワンドロイドの画面が切り替わった。
…画面には、イラストのついたアイコンが並んでいる。
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[Little Key] θθθ
1.[⨕]バエル 消費魔力3
2.[ψ]アガレス 消費魔力5
3.[⩙]ウァサゴ 消費魔力3
4.[⩀]ガミジン 消費魔力2
5.[ↁ]マルバス 消費魔力4
6.[₻]ウァレフォル 消費魔力3
≪ ≫
◀ ◎ ■
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…読めん。何語だ?
『…本グリモア「Little Key」は、72種の異なる魔法を内包した魔導書アプリです。各アイコンをタップしていただくと所有者の魔力を消費し、魔法が発動致します。』
「…72種類っ!?え、グリモアって一つでそんな種類の魔法が使えるもんなのか!?」
『通常、グリモア一つで平均1~3種類、多くとも5種類程度の魔法が内包されています。』
…は?通常のグリモアだと5種類程度…って…
「…もしかして、このグリモアって結構ヤバいシロモノなのか?」
『…〔音量↑〕手前味噌ではございますが、ご説明致します。』
コンシェルジュの声が興奮したように少し大きくなる。
…AIが興奮するなよ…。
『魔導書アプリ「Little Key」は、72種の極大魔法を自在に操る大魔導書…《グラン・グリモワール》でございます。持つ者に「勝利」と「栄光」を、そして敵対者に「逃れられぬ死」と「恐怖」を与える…まぁ、簡潔に言えば「チートアイテム」でございますね。』
「お…おう。」
AIの早口怖い…AIも自分の分野の話になると、早口になるモンなのか…?
でも、変態AIが言ってる事が本当なら、このグリモアって俺なんかが持ってていい物なのか?
それだけ高性能なグリモアなら、ダンジョンの最前線で戦っている魔導士達だって欲しがるだろ。
「な、なあ変態?そんなに高性能なグリモアなら、俺なんかじゃなくて高ランクの魔導士が持ってた方がいいんじゃ…」
『それは出来かねます。既に所有者の変更がなされ、固定されました。現状いずれの「所有権の放棄条件」にも該当していない為、蒼様以外の魔導士には「Little Key」は使用できません。』
「そんな…あ!それじゃあコピーはどうだ!?アプリケーションを複製して…」
『…〔音程↓〕よろしいですか、蒼様。』
AIは急に声色を低くして、続きを話す。
『…結果から申し上げますと、「Little Key」の複製は可能です。…しかし、本グリモアは「唯一無二」。全世界で稼働する「Little Key」は常に一つのみ、そして…所有者も一人。…蒼様、貴方様だけでございます。』