『魔法の鏡に問う王妃』
帝国の西、ザラ王国へと続く荒々しい旅路。
聖女アルネット・シーシアとその影、心臓穿ちのヴェル。
アサシンの少女が、退屈を紛らわすため仲間たちに語った奇妙な話。
それは古の魔法が息づく時代、ひとりの王妃と魔法の鏡が交わした言葉の戦い。
今、その小咄が、風に乗り再び響き出す。
美しくも気性が荒々しい王妃。
己の姿に酔い、臣下も国王も王子さえも支配する女。
彼女が求めたのは、真実を告げる魔法の鏡。
30億ギルダムを投じ、冒険者と商人を動かし、ついにそれを手に入れた。
豪華な衣装をまとい、化粧を施し、王妃は鏡に問う。
『鏡よ、私は真実を知りたい。世界で一番美しいのは誰だ?』
鏡は答える。
『それはワイら鏡や。どんな美も映してしまうからな』
王妃は感心し、次を問う。
『では世界で一番醜いものは誰だ?』
鏡は返す。
『それもワイら鏡や。どんな醜さも映してしまうさかいな』
そして最後の問い。
『可もなく不可もない、平凡な者は誰だ?』
鏡は静かに、だが鋭く切り返す。
『王妃はん、アンタさんは鏡を見たことがないんか?』
その一言で、魔法の鏡は消え、王妃の虚栄は砕けた。
第三回、『帝国雑文物語録』、『魔法の鏡に問う王妃』。
真実を映す鏡の前で、誰が最後まで立っていられるのか。