『砦の三騎士』
帝国の西、ザラ王国へと続く果てなき旅路。
聖女アルネット・シーシアとその道連れの影――心臓穿ちのヴェル。
アサシンとして闇を生き、語り部として仲間を導く女。
その知性は鋭く、数多の小咄を後世に刻んだ。
今、彼女がかつて語った一つの物語が、荒野の風に乗り蘇る。
国境の砦に立つ三人の騎士――赤、青、緑。
互いにいがみ合いながらも、奇妙な絆で結ばれた男たち。
彼らの楽しみは、新参者を嘲り、屈辱を浴びせる戯れだった。
『ん? なんだ? この臭いわ!』
『たしかに臭い! 酷い臭いだ!』
『これは屁だ! 屁の臭いだ!』
そうやって新兵を追い詰め、笑いものにする。
だが、その砦に新たな影が落ちる。
敵国の大軍が地平線の彼方から迫り、砦を飲み込まんとする。
絶望的な戦いのなか、三騎士は団結し、刃を手に立ち上がる。
そこへ都からの援軍、新参の騎士が現れる。
いつものように戯れを仕掛ける三騎士。
『お前が屁をしたな! なんでこんな場所で屁をするんだ!』
だが、新参の返答は予想を裏切る。
『それは私が敵の大軍を見て、驚きのあまり うんこを漏らしたからです!』
嘲笑が響き合い、砦に風が吹き抜ける。
戦場に漂うのは、屁の臭いか、それとも――。
第一回、『帝国雑文物語録』、『砦の三騎士』。
聖女の旅路に刻まれたこの小咄の果てに、何が待つのか。