第十三章 遥かな桜、二つの命の行方
1.別れの儀式、終わらない痛み
翌日、京一は脳死状態から人工呼吸器を外され、正式にその死が確認された。
学校関係者や吉野家の両親・友人たちによって、静かな葬儀が執り行われる。突然のくも膜下出血という形で散った命に、誰もが衝撃を受け、悲しみに暮れた。
しかし、蔵内櫻華はその葬儀に参列できなかった。なぜなら彼女自身が手術の真っ最中――ドナーの心臓を移植され、ICUにいるからだ。
「先生……ごめんね、何もできない……」
朦朧とする意識の中、櫻華は幾度となく想いを繰り返す。
桜子として、前世では桜の木の下で命を落とした。そのときは、京一が何もできなかった。今度は、京一が先に逝き、櫻華を生かすための心臓を遺してくれたのだと思った。
――悲しいすれ違いを、何度繰り返せばいいのだろうか。
2.蘇る鼓動、京一の心臓
大手術を乗り越えた蔵内櫻華は、術後数日目にかろうじて意識を回復する。
胸には新たな心臓が刻む鼓動があり、体中の神経がまだ麻痺や痛みを伴っているが、確実に「生きている」という感覚がある。
両親が病室の外で待機する中、佐伯医師が静かに告げる。「ドナーの話を聞く準備はできてるかい?」と。
「……お願いします」
それだけ答えると、佐伯は短く息をつき、「本来はこういう話はしてはいけないんだが、タイミング的にも君も察しが付いているだろう。……吉野先生、君の担任だった先生がドナーになったんだ。脳死判定が下され、遺志に基づいて心臓が提供された……」と伏し目がちに言葉を継ぐ。
櫻華は「やっぱり……」と漏らし、目を潤ませる。分かってはいたが、聞きたくなかった現実。
「先生は……私を生かすために……」
声が震え、佐伯は何も言えずに黙る。医師という立場でも、この物語のあまりの痛ましさに胸が詰まるのだろう。
櫻華は抱きしめるように自分の胸を押さえた。そこには、京一の鼓動が息づいている。




